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赫燭大戦記  作者: 赤松一
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第六話:向日葵 ②

「召喚獣は胸元に核があってね、それを壊すとその召喚獣は死ぬ。だから、召喚獣を攻撃する時は胸元を狙うんだよ」

 イフリートと交戦するフユ。彼女の元へと駆けつけたグレア。そしてそんな彼女の人差し指には黒色の指輪が嵌められていた。それの手の甲側にはトパーズにも似た宝石がはめ込まれており、太陽の光を反射してキラリと光りを放った。その未知の道具を不安に感じたのか、イフリートはもう一度後ろ足で地面を蹴り上げ、木の茂みの中に姿を隠した。そのまま木々を伝い、木陰の中に身を潜める。

「逃げた!?」

「……いや」

 フユとグレアの周囲の茂みで何かがガサゴソと移動している。それは前方から聞こえてきたかと思うと左側に移動し、背後に。今度は右方向、そうかと思うと左方向からも音が。

「私達の周りをぐるぐると移動して、どこからか急に現れるつもりだな……フユ、構えて。チャンスは一瞬しか――」

 そしてイフリートは突如現れた――彼女達の背後から。全身の炎を称えたイフリートはグレアの後ろで飛び上がり、そのまま二人を圧殺しようとする。フユが背後からの気配と熱に気が付いた時には既に遅かった。彼女が急いで振り返るよりも早くイフリートは二人を――。

「だろうね」

 停滞した一瞬の最中、そう口にしたのはグレア。彼女はまるでそう来ることを読んでいたかの様にしてすぐに振り返ると、右手人差し指をイフリートに向けた。そしてそこに填められた指輪がきらりと輝きを見せた瞬間、人差し指の周辺の空間が街灯の様な柔らかい光に包まれ始めた。それは徐々に指先へと移動するごとに密度を高め、その明かりはより確かな物に。

 グレアの指先、その一点に全ての光が集まった時には、光は既に目を覆いたくなる程の目映い物体に変貌を遂げていた。そして一瞬の静寂の後に、先程と同じ様な爆発音が周辺を轟き――。

 イフリートの脇腹には、直径一メートル程の穴がぽっかりと。

 完全に跳躍の勢いを無くしたイフリートはその光の勢いに呑み込まれ、数メートル後方に吹き飛ばされてしまった。まだ息はある様子だが地面に這いつくばり、口からは赤色の液体が滴っている。

「今のは!?」

「魔具・『バースト』!相手に強力な一撃を浴びせる道具!これが一二年前の収穫だよ!」

 グレアの指に填められた魔具・バーストは太陽の光を反射し、一瞬キラリと光った。

 イフリートは低い唸り声と共に苛立たし気に地面を両手の爪で引っ掻き回すと、再び地面を蹴り上げ二人を押し殺そうとする。次に行動したのはフユであった。姿勢を低くして両手を地面に置いた瞬間イフリートの真下の地面が白く光ったかと思うと、そこから先端の鋭い氷柱が生えてきた。そのままイフリートの胴体を貫きながら伸び続け、十メートル程に。氷柱に貫かれたイフリートはすぐにそれを両手で掴むと、氷は白い湯気を立ち上げながら融解していく。それを見てフユは急いでグレアの方へ振り返ると、

「イフリートが氷を溶かしてきます!急いで――」

 フユは彼女を視界に入れた途端、すぐにその異変に気が付いた。グレアが――。

「……グレアさん?」

 グレアが両鼻から血を噴き出しながら、地面にぺたりと座り込んでいた。ぼたぼたと地面に落ちる鼻血は、そこで血溜まりを作り上げている。グレアは鼻を手で押さえてみるが、それでも指の隙間から溢れ出してくる。グレアはフユに目を向けると、

「ごめん……魔力切れしちゃったみたい……」

「え……」

 遂に氷を溶かし切ったイフリート。そのまま氷柱を掛け下がりフユ達の元へ一直線に近づいてきており、フユはただ呆然とそれを眺めている。

 自分達は今から死ぬ。あそこに横たわる、黒い煤の様になって。

 フユは接近してくるイフリートを見上げて、心の底からそう覚悟した。もう二度とさっきと同じ手は使えない。グレアも、戦闘を出来そうにない。もう……何も出来ない。もし、自分にも兄と同じ様な強さがあれば――。

 しかしイフリートの射程内にフユが入り、イフリートが両手から炎を出した瞬間――何者かがフユの真横を通り抜け、彼女の視界からイフリートが消え去った。

 いや、本当に消え去った訳はない。フユが急いで辺りを見渡すとイフリートは地面の上で仰向けに倒れている。イフリートが一瞬にして氷柱上からそこまで移動したのだ。そしてその上に佇んでいるのは、先程フユの真横を通り抜けた者。彼が一瞬にしてイフリートをそこまで押し倒したのだ。イフリートは再び苛だし気な叫び声を上げると同時に全身から炎を出すと、彼はその中に消え去ってしまった。しかし――。

「そんなモンか……?」

 炎の中から現れたのは――先程までと変わらない彼。フユと同じ様な白髪と黒目を持つその男。

「ナマぬりィなぁ〜〜!!」

 彼がそう叫びながらその両手から出したのは、表面がでこぼことした水色の、一本一本が二メートル程度の氷で構成された棒状の物体――『氷棒』。それでイフリートを胴体から何度も切り刻む。何度も、何度も、何度も。イフリートは抵抗しようと両手を彼に向け炎を放とうとした――だがその時には既に、彼の氷棒はフリートの核に達していた。

 イフリートの両腕がどさりと地面に放り出されると同時に、全身から白い湯気が立ち始めた。グテリと横たわったその顔からは長い舌が垂れ下がっている。

 イフリートを圧倒したその男。センター分けにされたその白髪の色はフユの髪のそれに似てはいるが、氷柱の様に鋭い彼の目付きはフユの目元には全く異なっている。彼がその召喚獣の上に立ったままフユ達の方に振り返った時に、フユとグレアはやっと彼が誰なのかを知る事が出来た。彼らはその男の姿を認めると目を見開いて驚き、

「レイ!」「レイ兄さん!」


「来いよ……オーディン!」

 そう叫んだエス。しかし、彼の叫び声が静寂に飲み込まれるのみで、何も現れそうにない。ポカンとした顔持ちでエスを眺めているアーネールに、エスは空中に左腕を残したまま俯いている。

 タイタンは周りに何も異変が無い事を確認すると、再びエスに向かって腕を伸ばした。しかしタイタンの手の中にエスが消えそうになったその時、ヒュンっと何か細長い物がタイタンに向かって飛んで行ったかと思うと――タイタンの腕が一瞬にして、ぱっくりと二つに切断された。

 まるで元々粘土で作られていたのではないかと疑う程に綺麗に割れた腕の中からは――紫がかった大丸状の剣を持つエスと、紫色の甲冑を纏った白馬に跨る、白馬の鎧と同じ色の甲冑を身につけた、刃渡りの長い槍を手に持つ召喚獣・オーディンが姿を現した。

 エスはニッと笑うと、剣先をタイタンの方へ向けた。

「行くぜ!」

 タイタンが残った腕を地面に置くとエスの周囲の土が隆起し始め、まるで意思を持っているかの様に変形していき複数の氷柱の様な形に。そのまま蛇の様に体をうねらせながら鋭い先端をエスに向け突進していくが、オーディンがその槍を大きく一振りするとその土はあっさりと地面に倒れ込んでしまった。間髪入れずにタイタンが大きな怒号と共にエスを叩き潰さんとする勢いで腕を彼に伸ばすと、エスは地面を蹴り飛ばし腕の上に着地した。そのまま腕を伝いタイタンの肩辺りでもう一度大きく蹴り上げると、タイタンの頭目掛けて剣を振りかざした。

 エスが地面に着地したのと、頭が真っ二つに割れたタイタンが全身から蒸気を噴き出しながら、地面に膝から倒れていったのは同時だった。タイタンの全身を構成していた土は、ついさっきまで召喚獣の体の一部であった事実を拒むかの様に、周囲の地面に溶け合わさっていく。

 しかしその中にたった一つ、土に還らなかった物がそこにはあった。

 黄銅色のバレーボール程度の大きさの球体。タイタンの核。それだけは土に溶けていく事無く、地面の中に姿を隠そうとしている。

「……!エス!まだタイタンの核を切れていない!」

 アーネールがそう叫び、タイタンの核に気が付いたエスが急いでそれを叩き斬ろうとしたがその時には既に地面の中に消えていた。少しの間どうにか追う策はないかと思考を巡らせたが、諦めてがっくりと肩を落とした。うつ伏せのままエスを見ていたアーネールを見返すと、

「お前は連れて行くからな」

「うん、分かってる」

 エスは彼女を背負うと歩き始めた。その時のエスの後ろ姿は、何だか昨日までのそれよりも強く、頼もしく見える。アーネールはその口に笑みを含むと、

「ねぇ、一度でいいから『お姉ちゃん』って呼んでくれない?」

「……呼ばねえよ。アーネール」


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