第7話 禅問答と複合奥義
もう少しだけストックあります。
だが、ここからが地獄の始まりだった。
森の奥へ進むにつれ、ノアの生存本能は冴え渡る。
しかし、それを言語化する能力と、相手への配慮が絶望的に欠けていた。
「あるっち、向かって右!」 「えっ、どっちの右!?」
「右寄りの左!」 「矛盾してるよ!?」
「やや左!」 「だから僕の!? 君の!?」
「ちょっと前!」 「敵が!?」
「気持ち後ろ!」 「気持ちって何だ!!」
ノアの指示は、本人の頭の中では完璧な座標を示していた。 だが、受け手にとっては暗号解読に近い無理ゲーだった。
結果――。
数刻後。 そこには、肩で息をするアルミフェンスさんの姿があった。
ピカピカだった銀色のプレートメイルは泥と粘液まみれ。 マントは破れ、足取りは生まれたての子鹿のようにプルプルと震えている。
度重なる混乱と、全方向からの奇襲に対処し続けた結果、体力と精神を根こそぎ削り取られていた。
だが顔は無傷、ノアは商品を守り切ったのだった
「「……ノア君……君の指示……独特だね……」
アルミフェンスさんの力ない呟きは、森の風に虚しく消えていった。
――――
日が傾き、空が茜色から群青へと変わる頃。 王都への帰り道で、ノアは遅すぎる事実に気づき、戦慄した。
(……待てよ?)
チラリと横を歩くアルミフェンスさんを見る。 顔は美しい。輝くばかりの美貌は守り抜いた。 だが、その下は?
泥だらけのプレートメイル。あちこち傷の入った足甲。破れて雑巾のようになったマント。
どう見ても、**「死闘の果てに生還した敗残兵」**である。
(……これ、家に帰ったら親御さんに何て言われる? 『うちの可愛い息子をこんな目に遭わせて!』ってなるよね? 絶対なるよね!?)
とたんに、自分の首と体が物理的に離れてしまうビジョンが脳裏をよぎる。物理的な解雇(斬首)だ。
どうすればいい。どうすればいい……。 パニックに陥ったノアの思考が、ある一点でピタリと止まる。
(そうだ、私はサキュバスだ!)
忘れていた設定を思い出す。
彼を今のうちに**『魅了』**してしまえば、たとえ鎧がスクラップになっていようと、「ノア君は悪くないよ、僕が勝手に転んだんだ♡」と言わせることができるはずだ! そうすれば、物理的な首の切断の可能性をゼロにできる!
(ふふふ……見ていろ。あの屈辱のウインク失敗以降、密かに鏡の前で鍛錬を続けてきた必殺技……)
ノアは、アルミフェンスさんにバレないよう、深呼吸をして心の中でスキル発動の準備をする。
(これを使う時がきた!!)
ノアは立ち止まり、アルミフェンスさんの袖をクイクイと引いた。
「ん? どうしたんだい、ノア君?」
振り返ったイケメンに対し、ノアは動く。
まずは、ぶかぶかの服の袖を、指先が隠れるまで限界まで伸ばす。
前世の知識が生んだ最強の防具兼武器――**『萌え袖』**だ。
そして、唇をキュッと噛み締め、儚さを演出。
身体を少し前のめりにし、魔力で潤ませた瞳で、長身の彼を下から覗き込むように見つめる。
角度は完璧。計算され尽くした45度。
(必殺! 萌え袖プラス上目遣い! の複合奥義だ!!)
「…………」
「…………」
「…………」
森の入り口に、沈黙が落ちる。 アルミフェンスさんは、目を丸くして一瞬キョトンとした。
その碧眼が、ノアのあざとい姿をじっと見つめている。
(……見たか! 言葉も出ないほど見惚れている!)
ノアには、その空白の時間が「効果てきめん」の証拠に見えた。
やった。入った。魅了成功だ。
(これで大丈夫だ。私の首はつながった!)
ノアは心の中で勝利のファンファーレを鳴らす。
――もちろん、アルミフェンスさんが、迷子のペットを見るような目で心配していることになど、気づくはずもなかった。
AI共作
(作者)/原作・デザイン・ストーリー
・プロット・初稿・推敲
(AI) /校正・矛盾チェック・雰囲気調整




