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第35話 レベル上げの果て、世界の真理


 王都近郊、うっそうと茂る「薄明の森」。


 そこには、本来なら初心者の冒険者が数人がかりで挑むはずの凶悪な猪の魔獣、ヴォイド・ボアの群れが、文字通り「ゴミ」のように転がっていた。


「はっ! たぁっ! せいっ!」


 閃光が走る。


 金色の髪をなびかせ、アルフォンスが聖剣を振るうたびに、巨大な狼たちは悲鳴を上げる暇もなく、経験値という名の光の粒子に変わっていってるはずだ。


 その戦闘力はもはや「王都の若き英雄」と呼ぶにふさわしく、一挙手一投足に無駄がない。


「はぁ……はぁ……。どうだい、ノア君。順調に敵を殲滅せんめつしているよ。君のステータスに変化はあったかな?」


 アルフォンスが爽やかな笑顔で振り返る。


 彼の背後、安全な木陰から一歩も動かず、優雅に「借り物の」高級椅子に座って、あるっちが貢いでくれたおやつを食べていたノアは、虚空を見つめたまま固まっていた。


「……変わらないわ」


「え?」


「1ミリも、ピクリとも、何も変わっていないのよぉぉぉ!!」


 ノアは絶叫し、食べかけのクッキーを地面に叩きつけた(*後で自分で拾って食べた)。


 おかしい。どう考えてもおかしい。


 すでにここ一時間で、あるっちは小規模な軍隊を破壊できるほどの魔物をほふっている。


 ネトゲなら、今のノアは背後でぼーっとしているだけでファンファーレが鳴り止まず、レベルが1から一気に30くらいまで「爆上がり」していてもおかしくないはずなのだ。


 なのに、ノアが感じるのは「森の空気が美味しい」という健康的な感想と、座りすぎてお尻が少し痛いという身体的疲労のみ。


 強くなっている実感、ゼロ。


「なぜだ……。これだけ『おこぼれ』を吸っているのに……。私の『搾取』の才能が枯渇したとでもいうの!?」


 ノアは焦燥に駆られた。


 ここで強くならなければ、いつかあるっちに置いていかれ、ギルドの掃除係に格下げされ、最後には魔国へ強制送還されてライスプディングの刑に処される。


 何かが、決定的に間違っている。


 レベル差がありすぎるから、経験値が入らないのか?

 それともパーティの分配設定が「均等」になっていないのか?


「思い出せ……思い出せ、ノア。私は元社畜だ。仕様書を読み込み、システムの穴を突くのが仕事だったはずだ」


 ノアは目を閉じ、脳内のアーカイブを高速で検索し始めた。


 過去の記憶を、現在からさかのぼっていく。


 直近の記憶――黒焦げの鍋。研ぎ汁。リリィさんの冷たい視線。


 少し前――白い泥のようなライスプディング。魔王復活の通達。


 もっと前――ニマの不審者騒動。少年への「事案」未遂。


 あるっちと初めて森に来た時……。


 あの時も、彼はスライムやら何やらをいっぱい倒していたはずだ。それなのに、あの後も私は何も変わっていなかった。


「まだ前だ……もっと前、この世界に来た瞬間まで戻れ……!」


 鍛錬場のど真ん中。


 屈強な男たち。


 首につけられた冷たい首輪。


 あの日、パニックになりながらも、私がこの世界を「把握」するために、最初に行った一連の動作。


『すてーたすおーぷん!』


 脳内の暗闇に、あの半透明のウィンドウが浮かび上がる。


 生後3分だった私が、絶望と「小ぶりな胸」への抗議を込めて凝視した、あの画面だ。


――――――――――

名前:ノア

種族:サキュバス

スキル:魅了(Lv.1)

見た目年齢:20歳くらい

実年齢:生後3分

備考:銀の髪、薄い褐色の肌、小ぶりな胸

特筆事項:魔王様に忠誠、人類は敵

――――――――――


 ノアの意識が、その項目を上からなぞっていく。


 名前、ノア。よし。

 種族、サキュバス。よし。

 スキル、魅了……。

 見た目年齢、備考……。


「……あ」


 ノアの脳細胞に、電流が走った。


 画面のどこを探しても、一番重要な「あるはずのもの」が見当たらない。


 ネトゲなら、ライトノベルなら、異世界転生物なら。


 一番上の、名前のすぐ横にでも、誇らしげに書かれているはずの文字。


「……レベル」


 ノアは震える声で呟いた。


「ノア、ノア(自分の名前)の、レベルは……どこ……?」


 ない。


 どこをどう探しても、ウィンドウの隅々まで目を皿にして見直しても。


『レベル:1』という表記すら、存在しないのだ。


「……あ、あはは。嘘でしょ?」


 ノアは天を仰いだ。


 思い出してしまった。


 この世界の、残酷すぎる「仕様」を。


 そもそもこの画面に「レベル」なんて項目は、最初から一行も書かれていなかったのだ。


 あるのはスキルの項目だけ。


「この世界……レベル制じゃない……。

 完全スキル制だ……!!」


 その瞬間、ノアの周囲の景色がモノクロに見えた。

お読みいただきありがとうございました!

※本作はフィクションです。


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よろしくお願いします!

次回、土曜日19時〜20時頃更新予定です。

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