閑話【1万PV感謝】ノア、自由を全力で拒否する
今日は、私の胃袋に直結している「エサ・センサー」が作動するより先に目が覚めた。
理由はわからない。なんだか胸騒ぎがする。銀髪を適当に整え、背中の羽をパタつかせながら、私は恐る恐るギルドのロビーへと足を踏み入れた。
そこには、いつものように酒を煽り、無駄話を咲かせる冒険者たちの姿。
(こいつら、いつ仕事してんの?
もしかして私よりサボってんじゃないの?)
そんな失礼な感想を抱きつつ、朝食の気配を求めて輪の中へ入り込もうとした、その時だった。
「ノアー! ノアはどこだ! あいつはどこへ行った!」
ギルド内に響き渡る、マスターの大声。
なんだなんだ、また私が「お米に砂糖を入れようとしたニマと取っ組み合いの喧嘩をして厨房を粉まみれにした件」がバレたのか?
いや、あれは正当防衛だ。
「なによー、呼んだ? マスター」
ひょこっと顔を出すと、そこには眉間に深い皺を刻んだマスターが立っていた。
「おお、そこにいたか……。ちょっと、こっちへ来い。話がある」
やけに深刻そうな声。
まさか、ついに「米=主食派」という過激な思想が危険視され、国外追放を言い渡されるのか?
私はごくりと唾を飲み込み、マスターの後に続いた。
――――
「……ノア、お前のこれまでのギルドへの貢献度を考えてな。少し待遇を良くしようと思ってな」
重々しく切り出された言葉に、私は首を傾げた。
貢献? 私が?
主に給仕をサボってライスプディングから米を救出する活動しかしていない気がするが。
「なんのことか、さっぱりわからないけれど」
「……『いちまんぴーぶい』を突破したという話だ」
マスターの口から飛び出した謎の単語。
けれど、その響きには「称賛」のニュアンスが含まれていた。
一万。なんだかよくわからないが、すごい数字なのはわかる。
(ふふん、なるほど。やっと評価されたわけね。
あの世間知らずの『あるっち』を魅了して、ギルドに多額の寄付……もとい、プリン代を落とさせている私の功績が!)
私は途端に鼻を高くし、にんまりと口角を上げた。
「へぇ、よくわかってるじゃない。
で、何をくれるの?
あ、ポテトはいつも貰ってるからいらないわよ。
もっとこう、精米したての輝く宝石(お米)とか……」
「ああ、それ以上のことだ」
マスターは頷き、懐から一枚の書類を取り出した。
「これからは『レンタル冒険者』という立場を解消し、正規冒険者として格上げする。
ギルドの取り分はゼロだ。報酬はお前の懐にそのまま入る。
そして――」
マスターの手が、私の首に巻かれた『魔力封じの首輪』に伸びる。
「この首輪も外してやろう。お前はもう、自由だ」
自由。
その甘美な響きに、普通の転生者なら涙して喜ぶところだろう。
しかし、元日本人の成人男性であり、現在は「三食昼寝付き・保護対象」というぬるま湯に全力で浸かっている私の脳内シミュレーターは、瞬時に最悪の未来を弾き出した。
収入が自分に入る=宿代も食費も自分持ち。
首輪が外れる=何かやらかした時に「魔導具の不調です!」という言い訳が通じない。
自由=誰も責任を取ってくれない。
(……は?)
一瞬の静寂の後。
私の叫びがギルド中に木霊した。
「断固、拒否しますッ!!」
「……あ?」
マスターが呆然と固まる中、私は身を乗り出して猛抗議を開始した。
「な、何を恐ろしいことを言ってるんですか!
自由なんて、そんなものいりません!
誰が家賃を払うと思ってるんですか!
誰がこの貧弱なサキュバスに毎日おやつを献上してくれると思ってるんですか!」
「いや、だから報酬が全額お前の……」
「この首輪は、私とギルドの絆……そう、言うなれば『永住権の証』じゃないですか!
外すなんて、私を野垂れ死にさせる気でしょ!?
この薄情者! セクハラ親父!」
私は首輪を両手でしっかりと押さえ、絶対に外させまいとマスターを睨みつける。
背後でリリィさんが「やっぱりゴミを見るような目」でこちらを見ていたが、構うものか。
一万PV? 素晴らしいじゃない。
でもね、読者の皆さん。
私は知っているんだ。
一番賢い生き方は、強い者にしがみついて、一生養ってもらうことだってね!
「いいですか、マスター!
私は徹底的に拒否しますからね!
これからも私は、ここで、あなたの給料を食いつぶしながら生きていきますよ!」
マスターの溜息はどこまでも深かったが、私は勝利を確信して高らかに笑った。
自由なんていらない。
私は、この生ぬるい檻の中で自堕落に生きていくのだ。
――10000PV、本当にありがとうございます!
これからも、ノアの孤独な聖戦を見守ってくださると嬉しいです!
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次回、予定通り月曜日18時頃更新予定です。




