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第30話 開戦

 その日、王都冒険者ギルドは妙に静かだった。


 誰かが怒鳴ったわけでもない。

 剣を抜いた者もいない。

 それなのに、空気だけが張りつめている。


 冒険者たちは酒を飲みながら、いつもより口数が少なかった。

 乾杯の音も響かず、笑い声が続かない。

 濁った視線が、無意識に一箇所へ集まっていく。


 二階の手すりの下。

 テーブルの端。


 ノアだ。


 本人は気づいていない。

 いつも通り椅子に座り、ぼんやりと前を見つめているだけだ。

 その焦点は、遠くを見ているようで、見ていないようで、ただぼーっと目の前を見ていた。


 だが――

 空気が、彼女を中心に歪んでいた。


 

 戦争が始まった。


 構図は

 魔族 対 人類+魔族一名


 

「……なあ」


 小声が落ちる。


「最近、ノア……おかしくないか?」


「前からだろ」

「いや、そういうんじゃなくて……」


 言葉が続かない。

 誰もその違和感を正しく説明できない。

 ただ、彼女を囲む壁が、一刻一刻と厚くなっていくことだけが分かった。


 ノアは孤独を感じていた。


 自分だけ………………

 敵になった。


 ただ、それだけの現実……


 リリィは帳簿を閉じ、そっと眼鏡を押し上げた。

 彼女の瞳には、これから始まる凄惨な衝突への予感と、止めることのできない無力感が滲んでいた。

 

 ――それでも。


 ……起きてしまった、もう止められない…………


 ギルドマスターも気づいていた。

 怒鳴る気になれない。

 妙に胸がざわつく。


 過去に何度も繰り返し起きた

 取り返しのつかない過ち


 ノアは、気分が悪かった。


 空腹ではない。

 体調不良でもない。


 ただ、胸の奥が落ち着かない。


(……なんだこれ)


 ノアだけが…………


 

 何かが欠けている。

 それが何か分からないまま、

 分からないこと自体が不安だった。


 その時。


 扉が開き、ニマが入ってくる。


 いつも通りの派手な格好。

 いつも通りの余裕。

 顔に笑いはない、ただ真剣な顔をして


 ――彼女は一歩踏み出した瞬間に立ち止まった。


(……空気、変わった?)


 ギルド内の視線が、一斉に彼女とノアを行き来する。

 理由は分からない。


 だが、

 対立軸が自然に生まれていた。


 魔族。

 人類。

 そして――人類側にいる魔族一名。


 誰かが、冗談みたいに呟いた。


「……魔族 vs 人類+魔族一名、って構図?」


 笑いは起きなかった。


 ノアは、無意識に立ち上がった。

 その動きだけで、空気がさらに張りつめる。


「……ねえ」


 ノアの声は、震えていた。


「今日さ……

 なんか変じゃない?」


 誰も即答できない。


 ニマだけが、静かにノアを見つめていた。

 そして、理解した。


(……ああ)


 これは思想でも、忠誠でもない。

 もっと原始的な――


「ノア様」


 ニマは、優しく声をかける。

 それは諭すかのようでもあり、

 あきらめが入ったかのように


「なぜ……ですか?」


 その一言で、

 ギルド内の空気が決壊した。


 誰もが「何かが始まった」と錯覚した。

 まだ剣は抜かれていないのに。

 まだ血も流れていないのに。


 もう後戻りできない気がした。


 ノアは、唇を噛んだ。


「……そんなの、当たり前じゃん。」


 …………


「……生まれてからずっと……」

  声は続かない……

 それだけで、十分だった。



 誰も「戦争だ」と言っていない。

 それでも、配置だけは完成していた。


 永遠とも思える沈黙。


 そして、ニマが静かに告げる。


「……分かりましたわ。

 それが貴女の選んだ道なのですね」


 全員が息を呑む。


 ニマは淡々と続ける。


「ノア様は“しょっぱい側”。

 ギルドと私は“甘い側”」


 ノアは、崩れ落ちた。


 塩派はノア一人

 米はスイーツ、これがこの世界の常識だった

 

「塩 vs 砂糖。

 価値観の衝突ですわ」

お読みいただきありがとうございました!

※本作はフィクションです。

お米がスイーツという、ある意味で残酷な世界。


塩派の方はもちろん、

1ミリでも面白いと思って貰えたら、下の評価欄【☆☆☆☆☆】をポチッとして応援お願いします。または、一言でも構いませんので感想いただけると、作者のモチベーションが爆上がりします。


ブクマ、感想、評価、いつも励みになっています。

よろしくお願いします!

次回、月曜日18時頃更新予定です。


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