× × × 緊急話 お告げの気配 × × ×
深夜の王都冒険者ギルド。
その片隅にある、物置同然の狭い自室で、私はかつてない恐怖に震えていた。
シーツを噛み締め、冷や汗で銀髪を枕に張り付かせながら、私は夢を見ていた。
だが、それはいつもの「マスターに正座させられる夢」でも、「お米が全部ライスプディングに改造される悪夢」でもなかった。
真っ白な、何もかもを透過するような純白の空間。
そこに、実体を持たない「意志」のような存在が、雷鳴のような声で私に語りかけていたのだ。
『――汝、ノアよ。慎みなさい』
「ひえっ!?」
『第14話における汝の所業……「タッチ・ザ・チェスト」なる暴挙。
あれは、この世界の、ひいては全宇宙の倫理規定(規約)に抵触する恐れがあります。
少年へのわいせつな接近、および破廉恥な言動……。
これ以上の逸脱は、存在の消滅(垢バン)を招くと心得なさい』
それはまさに、天からの警告。
「神」としか呼びようのない高次元の存在からの、直々のダメ出しであった。
「待って……待ってください神様!
あれはビジネスなんです!
将来のパトロンを確保するための、血の滲むような営業努力の一環で――」
『問答無用。
次に同様の「事案」を起こせば、汝の角をへし折り、背中の羽を毟って、
ただの「米好きの変質者(無職)」へと堕とすであろう……』
「ひいいいいい!!」
そこで、私は跳ね起きた。
心臓がバックバクである。
バタバタと蝙蝠の羽を羽ばたかせ、暗い室内を見渡す。
そこにあるのは、いつものカビ臭い天井と、脱ぎ捨てた給仕服だけだった。
「夢……か。
……いや、夢じゃない。
あの圧、あの神々しいまでの説教臭さ。
あれは間違いなく、この世界を司る『神』の警告だわ……」
私は額の汗を拭い、震える手で自分の薄っぺらな胸を抑えた。
だが――。
前世でブラック企業の荒波に揉まれ、
「不条理なクレームは解釈次第でチャンスに変わる」と叩き込まれた社畜の魂が、
ここで奇妙な化学反応を起こし始めた。
「……ちょっと待てよ?」
私は暗闇の中で、ニチャァ……と、サキュバス(元社畜)特有の厭らしい笑みを浮かべた。
「神様はわざわざ、私個人に『警告』をしてきた。
つまり、あの行為が『規約に引っかかるほどの影響力』を持っている可能性があるってことじゃない?
規約に触れるってことは、それだけ公序良俗を乱すほどの魅力……いや、
**『魅了』**を振りまいたってことよね?」
ポジティブ。あまりにも無謀なポジティブシンキング。
世間ではそれを「反省の色なし」と呼ぶが、今の私には「勝利のファンファーレ」に聞こえていた。
「そうか……!
つまり、あの時の私は、神様さえもドギマギさせるほどのサキュバス・オーラを放っていたわけだ!
私の『魅了(Lv.1)』は、もはや人間どころか、天界の規約を揺るがすレベルにまで到達していたんだわ!」
神からの「お叱り」を、あろうことか「ファンレター」か「表彰状」のように脳内変換した私。
「タッチ・ザ・チェスト(※ほぼ絶壁)」という名の事案が、
今、私の中で「神をも惑わす究極奥義」へと昇華された瞬間だった。
「ふふふ……見てなさいよマスター、あるっち、そして世界。
私の魅力が、ついにシステムを凌駕し始めたわ。
これで次からは、魅了の力で押し通せるはず……!」
――――
一方その頃。
この世界の因果を司る「作者」という名の神は、画面の前で頭を抱えていた。
本来なら、お仕置きとしてステータスを弱体化させてもいいレベルの暴挙。
だが、あの凄まじいまでの図太さ、そして
「神の警告すらポジティブに捉える狂気」に、作者は妙な感銘を受けてしまった。
……まあ、いいか。あそこまで言い張るなら、見た目だけでもレベルが上がったことにしちゃおう。
神(作者)の気まぐれな指先が、空中に浮かぶ透明なステータス画面を操作する。
【ノア:ステータス更新】
スキル:魅了(Lv.1) → 魅了(Lv.2 仮)
スキルレベルが上がっても、元の数値が0である以上、何をかけても0なのは変わらない。
「神をも惑わす(予定の)魅了」が、
いつの日か通用する日は来るのだろうか
――たぶん、来ない。
お読みいただきありがとうございました!
※本作はフィクションです。
読み直して、危ないかなと思ったので修正しました。警告があったわけではありません。
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予定通り本日18時頃更新予定です。




