第23話 静寂の終わりと、朝の来客
魔王復活の通達、そして王都に唯一残る魔族、サキュバス・ノアへの名指しの勧告。
あの日を境に、世界は奇妙な均衡状態に入っていた。
王都側も、魔王軍側も、互いに牙を剥くこともなければ歩み寄る様子も見せない。
水面下で高度な政治的駆け引きが行われているのか、あるいは単なる嵐の前の静けさなのか。
王都冒険者ギルドの面々には、その沈黙の正体を知る術はなかった。
ただ一つ確実なのは、当事者であるはずのノアが、あの日以来まるで何事もなかったかのように、以前にも増して図太くこの場所に居座っているということだ。
生まれてわずか十日ほどのサキュバス。
彼女が放った「私は人間だ」という宣言が、魔族側にとって、また王都側にとってもどのような影響があったかは計り知れない。
だが、ギルド内での彼女の振る舞いを見る限り、その言葉に偽りはなさそうだった。
彼女は相変わらず、冒険者のテーブルを回っては
「これ、毒見してあげるよ」
と適当な理屈を並べてポテトを奪い、脂の乗った肉をせしめては幸せそうに頬張っていた。
午後三時になれば当然のようにおやつを催促し、夜になれば料理をひっくり返し、高価な皿を割ってギルドマスターの特大の拳骨を食らう。
「いてて……。
もう、人間に対して暴力は良くないと思うんだよね!」
「どの口が言ってやがる!
さっさと片付けろ!」
そんな怒号と悲鳴が響く日常。
あの一件がまるで質の悪い冗談だったかのように、ギルドは賑やかな、そしてぬるま湯のような平穏を保ち続けていた。
しかし、変化は前触れもなく訪れる。
翌朝。
まだ街全体が朝霧に包まれ、ギルドの床に差し込む光も弱い時間帯のことだ。
二日酔いの冒険者が数名、カウンターでうなだれているような、静かな早朝。
王都の住人にしては、あまりにも洗練されすぎた、そして氷のように冷たい気配を纏った一人の女性が、ギルドの扉を叩いた。
そのノックの音は、決して大きくはなかったが、ギルド内にいた全員の背筋を凍らせるには十分な重みがあった。
扉が開き、彼女が足を踏み入れる。
彼女が纏っているのは、王都の流行でもなければ、冒険者の実用的な装備でもない。
この場の空気そのものを塗り替えてしまうような、圧倒的な「異物感」を伴う存在。
受付のリリィが、筆を止めて顔を上げた。
「……いらっしゃいませ。
本日の受付はまだ――」
リリィの言葉が途中で止まる。
相手の女性が放つ、目に見えないほどの魔力の圧に、喉を詰められたのだ。
ギルドのロビーに緊張が走り、誰もが武器に手をかけるべきか迷う中、
当のノアだけは、その異変に全く気が付いていなかった。
二階にある、彼女の自室。
そこでは、ノアがベッドからはみ出した足をぶら下げ、口角から微かなよだれを垂らしながら、平和そのものの寝息を立てていた。
昨夜、隠れてつまみ食いをしたソーセージの味を思い出しているのか、
時折「むにゃ……」と幸せそうに口を動かしている。
階下で起きている、自分の存在を揺るがすような事態など、
彼女の夢の中には一欠片も存在しなかった。
女性は、ゆっくりと二階へ続く階段に視線を向けた。
その瞳には、親しみも敵意も読み取れない。
ただ、目的のモノを見据える冷徹な意志だけが宿っていた。
AI共作
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(AI) /校正・矛盾チェック・雰囲気調整




