第15話 申請書と(続)業務改善計画
「あ、足が……足の感覚が……!」
ギルドの休憩所の床を、生まれたての子鹿のような足取りで、プルプルと震えながら這いずり回る人影があった。
私、ノアである。
先ほどの「少年タッチ・ザ・チェスト未遂事件(※事案)」に対するギルドマスターからのお仕置きは、シンプルかつ残酷な『正座二時間』であった。
魔力封じの首輪がついている今の私にとって、身体機能はただのひ弱な人間レベル。
痺れを切らした足は、もはや自分の体の一部とは思えない。
「ひどい……ひどすぎる……。
少年の未来を憂いて、愛の鞭ならぬ愛のタッチをしようとしただけなのに……」
涙目で毒づく私の前に、一枚の書類がぺらりと置かれた。
受付嬢のリリィさんだ。
彼女はゴミを見るような冷ややかな目で、私を見下ろしている。
「言い訳は結構です、ノアさん。
それと、マスターからの新しい通達です」
「……通達?」
嫌な予感しかしない。
私は痺れる足を引きずりながら、その紙を拾い上げた。
『必殺技使用許可申請書』
「……はい?」
私の思考が停止した。
リリィは淡々と説明を続ける。
「今後、あなたが業務中……特に戦闘や接客において『独自の必殺技』を使用する場合、事前にこの書類に技の内容、効果、および健全性を記載し、マスターの決裁印をもらうこと。
無許可での使用は、即刻『お仕置き』の対象となります」
「はあああああ!?」
私は思わず叫んだ。
「正気ですか!?
戦闘中に『あ、すいません、今から必殺技撃ちたいんでハンコください』ってやるんですか!?
敵が待ってくれるわけないでしょ!?」
「事前に申請しておけばいい話です。
あなたの技は……その、倫理的に危ういものが多いので」
「ぐぬぬ……!」
確かに、焦って暴走したのは認める。
あの少年の件は、客観的に見ればアウトだったかもしれない。
だが、これはあまりにも横暴だ。
手の内をすべて明かした状態で戦えというのか。
ババ抜きで、自分の手札をフルオープンにして「さあ、引いてください!」と言うようなものではないか。
そんなの、負け確定ゲーじゃないか!
「納得いかない……!」
私が書類を握りしめて震えている間に、リリィは「あ、そうそう」と思い出したように付け加えた。
「あの少年なら、私が別の良識あるパーティを紹介しましたので。
もう旅立ちましたよ」
「……ちっ」
逃げられたか。
私にもそれくらい手厚いサポートをしてほしいものだ。
なぜ私には、紹介されるのが『説教部屋』と『正座』だけなのか。
世の中は不公平にできている。
だが、ここで腐っていては元社畜の名折れだ。
私は痺れが取れてきた足を叩き、立ち上がった。
(いいだろう、マスター。
そうやって私をルールで縛ろうとしても無駄だ)
私は真剣な顔つきで、脳内のホワイトボードに新たな計画を書きなぐった。
名付けて、
『サキュバス流・業務改善計画』ver.2.0。
計画はこうだ。
まず、あのアルクリームくんのような「チョロい顧客」を複数人確保する。
彼らを私の魅力(と勘違い)で骨抜きにし、私の信奉者とする。
そして、彼らをローテーションで《レンタル冒険者》として雇わせるのだ。
今日はAくん。
明日はBくん。
明後日はアルクリームくん……。
彼らは私にいいところを見せようと、勝手に張り切って魔物を倒すだろう。
私は後ろをついて歩き、「きゃーすごい♡」と黄色い声を上げるだけ。
裏でこっそり受けた高難易度依頼も、この『魅了された精鋭部隊』に片付けさせればいい。
手柄は全て私のもの。
完璧だ。
これぞ、究極の他人任せ(アウトソーシング)。
(特に、アルクリームくんは重要だ)
彼は【追放系】の気配が濃厚な、【ざまぁ属性】持ちだ。
今はパッとしないが、将来的に化ける可能性が高い。
彼を筆頭株主としてキープしつつ、
リスク分散のために他のパトロンも増やす。
(必殺技が申請式になってしまったのは痛いが……
私はサキュバス。
本気になれば、書類仕事の一つや二つ、どうってことはない!)
私はニヤリと笑い、手元の申請書を書き込み始めた。
『技名:究極上目遣い・改』
『効果:対象の保護欲を刺激し、おやつを買わせる』
『備考:健全です』
「見ていろ、脳筋マスター……!
この書類地獄を潜り抜け、
お前をギャフンと言わせてやる!」
こうして、サキュバスのプライドをかけた、
世にもくだらない「必殺技申請書」との戦いが、幕を開けたのである。
AI共作
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