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プロローグ 転生したらサキュバスでした。


 異世界転生、しかも元男性。性別が変わるという衝撃的なおまけつきだ。


 転生直後、ぼんやりとしていた意識の中に、堰を切ったように記憶が蘇る。もともと日本人の男性だったこと。

 名前は覚えていない。だが、それらはどうでもいいことのように霧散し、この姿になった魔族としての勤めだけが、魂に深く刻まれていく。


 魔王様に忠誠を。人類は敵。


 でもまあ、転生したらまずこれだよねー。


「すてーたすおーぷん!」


 誰に言うわけでもなく、心の中で叫ぶ。目の前に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。


――――――――――

名前:ノア

種族:サキュバス

スキル:魅了(Lv.1)

見た目年齢:20歳くらい

実年齢:生後3分

備考:銀の髪、薄い褐色の肌、小ぶりな胸

特筆事項:魔王様に忠誠、人類は敵

――――――――――


「小ぶりな胸?」


 思わず声が出た。いやいや、サキュバスって言ったら豊満な肢体と悩殺ボディがデフォルトでしょうが!

 小ぶりって何だよ、詐欺だろ。こんな身体で色仕掛け、いや、魅了なんてできんの?


「スキルも魅了Lv.1……チートなしかよー……」


 がっくりと肩を落としたところで、周囲の異変に気が付いた。


 視界に入ってくるのは、自分よりずっと背の高い、武器を持った屈強な男たち。全員が剣や槍を構え、警戒心むき出しで、自分を円形に取り囲んでいる。


「……あれ?……ここどこ?」


 見回せば、ここは木製の床と、汗と土埃の臭いがする広い屋内だ。壁には傷のついた的があり、隅には重そうな筋力トレーニング器具が置いてある。どう見ても、訓練施設か何かだ。


 そう、転生した場所は、よりによって王都の冒険者ギルドの、鍛錬場のど真ん中だった。


「場所考えろや神さまあああ!」


 心の叫びは届かない。

 男たち、つまり冒険者たちは一歩も動かず、ただ冷たい視線を向けてくる。


「やっほー、わたし、ノアだよ」


 愛想をふりまいて、とりあえず無害アピール。にこっと微笑んでみる。


「魔族め、大人しくしろ!」

「動けば斬るぞ!」


 効果なし。

 まあ、銀の髪に薄い褐色の肌、背中には黒い蝙蝠の羽が生えているのだ。どう見ても魔族。平和的交流は無理か。


「まあまてまて、わたしはサキュバスだ。ここは奥の手だ」


 一瞬の沈黙を破り、腰に手を当てて自信満々に微笑む。


「くらえ、必殺……………投げキッス!」


 顔を寄せ、指先にキスをし、それを指先から相手に向かって「ちゅっ!」と放つ。


…………

………

……

……


「……何の真似だ」

「遊んでいるのか、貴様」


「……はは……」


 額に冷や汗が伝う。

 魅了スキルLv.1。見た目年齢20歳、実年齢3分。そしてこの小ぶりな胸。色気と経験値が圧倒的に足りていなかった。


 一息ついて、すーはーすーはーと深呼吸。


「………………よし、逃げるわ。」


 考えるより早く、鍛錬場の出口に向かって走り出した。


「この加速には追いつけまい!」


 魔族の身体能力は伊達じゃない、はずだった。

 だが、冒険者の身体能力もまた伊達ではなかった。


 無理ゲーやわ。


 あっけなく捕縛される、生後3分のわたし。


「やめろ、来るな!」


 背中側の壁に叩きつけられ、逃げ場を失った。屈強な男たちが二人、その大きな手で私の両肩を力任せに押さえつける。鉄のような握力に身体が軋み、身動き一つ取れない。床に顔が落ちそうになり、鉄と汗の臭いが鼻につく。


「抵抗するな、魔族め」


 唸るような低い声が頭上で響く。別の男が、ずしりと重い金属の輪を手に近づいてくるのが、視界の端に見えた。黒ずんだそれは、冷たい魔力を帯びているのが肌でわかる。


「いやだ……やめて! 触るな! やめろぉぉ!」


 必死にもがくが、生後数分のこの身体では、大人二人の力に到底敵わない。男は容赦なく私の首筋にその冷たい輪を押し当てた。


「いやああああああ!」


 鎖がカチリと鳴り、首の皮膚に金属の冷たさと重みが食い込む。直後、全身を激しい悪寒が貫いた。体内の魔力が、まるで凍り付いたように凝固し、身動きすら封じられた。


 目の前がチカチカと点滅し、力が抜けていく。

 恐怖と絶望が、津波のように押し寄せた。





 ※注コメディです。

 

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― 新着の感想 ―
掴みから面白い!文体テイストが前とかなり変わってますね…!
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