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第一話

記録上は存在しない民族‥。

世界共通学校では統合に障害のある血統として扱われ、公式には同級生に笑顔で迎えられるが、非公式には半透明のガラス越しに監視される。

そんなノア・クロイツフェルトは最後の一族だ。

アーキ・エディクトの理念はこう謳っている。

世界はひとつの教室である。混ざり合えない魂など存在しない。

だが、そんなわけないことくらいノアは知っていた。

彼の家にだけ、

夜になると監視灯が点き、

制服の端にだけ識別用の銀糸が縫い込まれ、

彼の回答だけ、AIが数秒遅れて採点する。

小さな差別は、痛みではなく、薄氷のような静けさで心を冷やしていく。

世界共通学校の校舎は白亜。

どこまでも続く直線廊下は、ひとつの宗教建築のように均整され、一切の偏りを許さない美しさがあった。

その日、ノアは授業の席に座りながら、

壁に映る自分の影が、他の生徒より少し濃いことに気づいた。

自分は、この世界の設計にとっての誤差なのだ。

統一教育が生んだ最大のエコーチャンバー。

それは国でも民族でも宗教でもない。

正しさという名の巨大な箱の中で、

世界が自らに酔いしれる構造そのものだった。

ノアは静かに、しかし確実に、決意を固めていく。

世界共通学校に対する反逆は、必ずしも武器を取ることではない。

そうして、彼の影が動き始めた時、アーキ・エディクトは誤差の反逆に気づくことになる。

均質化された世界において、唯一の異物。唯一の濁点。

唯一の正しさに従わない魂‥。

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