タイトル未定2025/11/24 02:23
瞳が突然ボクの前から消え、ボクの胸は穴が空いたようだった。
瞳と親しい友人に瞳がいなくなった理由を聞いたけど、彼女たちにもわからなかった。
逆に『麻生君も、知らないの?』と、聞かれてしまった。
思い返せば、瞳は自分のことを何も話してはくれなかった。
瞳を家まで送ろうとしても、途中までしか送らせてくれなくて、ボクが瞳の家に行こうとするのを瞳はずっと拒み続けていた。
瞳は携帯を持っていない。
瞳を探す手段を見いだせないまま、ボクは大学生活を送っていた。
机の上に、母親の形見の指輪が転がっていた。
指輪をはめようとしたけど、思った通りボクの指にはまらなく、指輪は転がって床の上に落ちた。
ボクは、母親の形見の指輪のサイズを直し、数日後ボクの左の薬指に指輪がはまった。
指輪を見るたび、医者になる決意を固めた。
いつか瞳と再会できる。
ボクは、そう信じることにした。
いつの日か瞳と再会が出た時、恥ずかしくないように、医者になって瞳を迎えよう。
そう、心に決めた。
大学に進学したボクは、何かに取りつかれたように、一心不乱になって勉強に取り組んだ。
そんな時だった、彼女に出会ったのは。
大学の教室の一番後ろの席に座り、ボクはノートを広げていた。
「隣、空いてる?」
その声で、ボクは顔を上げた。
そこには茶髪で綺麗にメイクされ遊んでいる感じがあった、小柄で華奢でまるで少女のような女性がたたずんでいた。
いくらでも空席があるのに……。
ポカンと間抜けズラをしていると、女性は素早くボクの隣の席についた。
「ありがと」と言いながら少女は、妖しい笑みを浮かべた。
講義中、ボクは隣の席の女性のノートを盗み見た。
ノートは、綺麗な字でびっしりと埋め尽くされていた。
女性はわき目も触れずに、講義に集中していた。
正直、見た目のギャップの差に驚いた。
「次は、何処の教室?」
講義が終わった後、突然女性が言ってきた。
女性の問いに答えると、女性はがっかりした声を上げた。
「残念、教室違う!」
ボクは苦笑しながら、机の上を片づけた。
女性は尚も、ボクに話しかけてきた。
「お昼、学食?」
「ああ、うん」
「じゃあ、食堂で待ち合わせしよ」
「えっ?」
「ライン交換しようよ!」
急かされるまま、ボクは女性とラインを交換した。
午前の講義が終わり、ボクは携帯を眺めた。
ラインに「学食にいるよ」と、新着トークが入っていた。
ラインには、さやかと名前が入っていた。
さやか……あの女性は、さやかと言うんだ。
ボクは、食堂へ急いだ。
初めて出会ったさやかとボクは、食堂で昼食を食べた。
入学式の時、さやかはボクを見かけたと言った。
「初めて一目惚れしちゃった。密かにストーカーしていたんだよ」
「……知らなかった。講義、凄く真面目に受けていたね」
「一浪しているからね。必死よ」
「一浪……?」
と言うことは、ボクよりひとつ年上なのか!さやかは小柄で華奢な身体つきをしていて、下手をしたらボクより年下に見えた。
学食を出る頃には、お互いの名前を呼び捨てで呼び合っていた。
講義を終え、さやかに誘われるまま、ボクはさやかが住むワンルームの部屋に行った。
さやかは手料理を作って、ボクをもてなしてくれた。
さやかが作った料理は、意外にも和食だった。
さやかの手料理を食べながら、ボクはさやかの家族構成を聞いた。
三人家族で、父親は大学教授。
母親は良いとこのお嬢様らしい。
だからワンルームで、独り暮らしができるのか。
さやかと出会ったその日の夜、ボクとさやかはベッドの中で抱きあった。
「彼女っているの?」
「彼女がいたら、さやかとつきあったりしないよ」
「それもそうね」
ボクとさやかは、笑いながら抱き合って唇をかさねた。
ボクから顔を離したさやかは、ボクに寄り添ったまま聞いてきた。
「振ったの?」
「まさか……彼女は卒業式を欠席して、そのまま行方知れず」
「なんで?」
「さぁ。わからない」
「そう。私はずっと、側にいるからね」
さやかはタバコを吸い出し、吸っていたタバコをボクの口に加えさせた。
当然のことながらボクはむせて、さやかはあどけなく笑った。




