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DANDY〜もう戻れない〜  作者: kagari
プロローグ
2/18

タイトル未定2025/11/23 16:53

 初めて瞳と言葉を交わした時は、お互いぎこちなかったけど、ホームルームや月一度の定例会を通じて瞳と接する機会が多くなり、気軽に話ができるようになった。

 落ち着いていて、大人びた雰囲気を醸し出している瞳を、同じ同級生とは違った目でボクは見るようになっていた。

 瞳と一緒に過ごす時間が長くなるにつれ、ボクは瞳のことばかり考えていた。

 今ならわかる、ボクは出会った頃から瞳に一目惚れをしていたんだ。

 体育祭の準備のため、ボクと瞳は連日放課後、会議に出席していた。

 この日は珍しく、学級委員の生徒たちは、早く帰ることができた。

 思いがけず、ボクは瞳を誘っていた。

「家に来ない?」

「えっ、麻生君の家に?」

 驚く瞳を、ボクは半ば強引に連れて行った。

 初めてボクの家を見た瞳は、息を飲んでその場に立ちつくしていた。

「どうしたの?」

「麻生君の家って、病院だったの?」

「そうだけど?」

 家は病院と併設していて、家に表玄関はあるが、病院の中からそのまま家の中に入ることが出来る造りになっていた。

 家の玄関のドアを開け、振り返ると、瞳は呆然としたままだった。

「どうしたの?」

「……おうちの人って、いるの?」

「おまちさんが、いるかな?」

「おまちさん?お父さんとかは?」

「診察中かな?」

「……急だったから、私何も持っていなくて」

 瞳の言葉に、ボクは思わず吹きだした。

「突然行ったら、迷惑じゃ……」

 瞳の言葉を遮るように、ボクは瞳の腕を掴んで家の中に入って行った。

 靴を脱いでいると、リビングから六十代の小柄な家政婦のまちこが出てきた。

 まちこはボクたちに気が付くと、気さくな笑顔で言った。

「坊ちゃん、お帰りなさい」

「ただいま」

 ボクがそう言うと、瞳は慌てて言った。

「こんにちは。お邪魔します」

「いらっしゃいませ。まぁ、可愛いお嬢さんね」

 まちこはニヤニヤしながら、ボクに言った。

「坊ちゃんも、そう言う年頃になったんですね」

「おまちさん!」

「お邪魔はしませんよ。今から、買い物に行ってきます」

 言いながら、そそくさと言うように、まちこは足早に出て行った。

 まちこがいなくなると、瞳が言った。

「今の人が、おまちさん?」

「うん。ボクが生まれる前から、住み込みで世話をしてくれているんだ」

 瞳を二階にある自分の部屋に案内したボクは下の台所に行き、冷蔵庫から麦茶を出しグラスに注いだ。

 何か食べる物はないかと茶だんすを引っ掻き回したが、あいにく何もなかった。

 麦茶を乗せたお盆を手にして二階にある自分の部屋に行くと、瞳は机の上に置いてあった写真立てに見入っていた。

 写真は、青い瞳の女性が赤ん坊を抱いて微笑んでいた。

 ボクは瞳の背後に立って言った。

「母親とボク」

 瞳は驚き顔で振り向いた。

 ボクは、お盆を机の上に置いた。

「お母さん、外人なの?」

「うん。そうみたい」

「そうみたいって。麻生君のお母さんだよ?」

「母親のこと、知らないんだ。ボクが赤ん坊だった時、強盗に殺されたから」

 ボクがそう言うと、瞳は大きな目でボクをじっとみつめ、震える声で言った。

「ごめんなさい」

 瞳の言葉に、ボクは慌てた。

「なに、謝っているの!」

「だって……」

「ボクは覚えていないって言うか、全然知らないことだし」

「うん」

 うなずきながら、瞳は写真立てを元あった場所に戻した。

 ボクは瞳を机のイスに座らせ、ボクは麦茶のグラスを手にしてベッドに腰掛けた。

「麦茶飲んでよ」

「うん」

 瞳は、ゆっくり麦茶を飲んでボクに言った。

「麻生君、病院の跡を継ぐの?」

「将来の夢も希望もないし。そうなるのかな?」

「じゃあ、医大希望?」

「一応」

「凄い!」

「凄くないよ。小さい頃から父親に言われ続けたんだ『お前は、医者になれ』って。坂田さんは?」

「大学に行く学費がないから就職希望だけど、進路指導の先生に『進学校だから、就職は難しい』って、言われちゃった」

「奨学金制度を、利用すればいいじゃん」

 瞳は黙り込んだまま、麦茶を飲みほした。

 グラスを置いた瞳は一息つくと、何気ないように言った。

「麻生君が医者なら、私は看護師を目指そうかな」

 瞳の言葉にボクは立ち上がって瞳の側に行き、グラスを机の上に置いて言った。

「良いよ!それ、凄く良い!」

「ちょっと待ってよ。単なる思いつきで、言っただけだから」

「思いつきでも、なんでも良いよ」

「看護師なんて、私には無理!」

「坂田さんと一緒なら、張り合いがあるのに」

 ボクの言葉に笑った瞳は、机の上に転がっていた指輪に気がつき、指輪を手にした。

「指輪……?」

「母親の指輪。おまちさんから、形見にもらったんだ」

「お母さんの形見の指輪……大事にしなきゃダメじゃない!いつか、この指輪をもらう人がいるんだから」

 言いながら瞳はボクの手首を掴み、ボクの手のひらに指輪をのせた。

 ボクは、我知らずに言っていた。

「じゃあさ、この指輪。坂田さんがもらってよ」

「えっ……なに言っているの!大事な指輪を、私がもらえるわけないでしょ!」

「坂田さんなら、指輪をあげても良いよ」

 驚き顔でボクをみつめる瞳に、ボクは自分が言った言葉の重大さに気がついた。

「だから……その……指輪をなくさないように、坂田さんに持っていてほしいって言うか」

「はっ?」

「坂田さんに……好きな坂田さんに、指輪を持っていてほしいんだよ!」

「……私のこと……好き?」

 ボクは、黙ったままうなずいた。

 瞳は、嬉しそうに微笑んだ。

「嬉しいけど、私にはこの指輪は重すぎる」

「えっ?」

「私が、麻生君にもっとふさわしい女性になったら、その時は……」

 ボクと瞳は黙ったままみつめあい、お互い吸い寄せられるようにキスをした。

 初めてのキスは、子犬にするようなキスだった。

 夢中で瞳を抱きしめ、彼女を離したくないと初めて思った。

 この日からお互いを「瞳ちゃん」「七海君」と、呼び合うようになった。

 最初は照れくさかったけど、慣れるとそれは心地良いものだった。

 お互い励ましあいながら受験勉強をして、何度も夢を語り合い……。

 ずっとこの先も続くと信じていたのに、何処でどう狂ってしまったんだろう。

 瞳は卒業式を欠席し、黙ったままボクの前から消えてしまった。

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