エピローグ
「面会の終わる時間です」
看守の声で、ボクは我に返った。
あの惨劇から数ヶ月が経っているのに、惨劇は僕の胸に傷跡を残した。
瞳は同棲相手を刺して死亡させ、自らの命を絶った。
しかし、九死に一生を得て、現在警察病院の檻の中のベッドにいる。
あの忌まわしい事件以来、瞳は言葉を失ってしまった。
ボクと大門のことを、どこかに置き忘れた瞳は、焦点が定まらない視線を天井に向けていた。
「瞳ちゃん、また来るからね」
瞳は意味のない笑顔を、ボクに向けた。
受付で名札を返し、ノートに退出時間を記入した。
ロビーのソファーで、大門がお絵かき帳に絵を描いていた。
「お待たせ、大門」
大門に声をかけると、大門は慌ててお絵かき帳を肩掛けバッグにしまい、ソファーから降りるとボクに飛びついた。
警察病院を出ると、大門がボクに聞いてきた。
「お友達、元気だった?」
「帰るとき、少しだけ笑いました」
「良かったね!お友達、早く治ると良いね」
「そうですね」
あの凄惨な現場を目撃したのは、ただ一人、大門だけだった。
大門はショックのあまり、母親と同棲相手の二人の記憶を失っていた。
あの夜の記憶を失ったことが、果たして大門にとっては良かったことなのか、ボクにはわからない。
「大門、お腹空いただろ?何か食べに行こうか。何が良い?」
「う~んとぉ……」
ボクは大門と手をつないだ。
ボクが薬指に付けている、二つの指輪に大門の指が触れる。
ボクと大門は、新緑の中をゆっくり歩いた。




