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DANDY〜もう戻れない〜  作者: kagari
プロローグ
15/18

タイトル未定2025/11/24 12:54

「本当に、大丈夫?」

 ボクの背後から、さやかの心配そうな声が聞こえた。

「大丈夫だから!」

 振り向きもせず言うと、さやかは黙ったままリビングのソファーに座った。

 仕事の休憩中、類の店で緑と過ごした時「彼女が大事なら、休みの日に手料理でも作ったら?」と緑に助言されたのだった。

 青空が広がる日曜日。

 ボクは、朝から台所に立っていた。

 食事はいつもさやかが作っていたし、実家では家政婦のまちこが全てこなしていたから、ボクは自炊なんてしたこがなかった。

 緑とまちこから料理を習い、そのおかげで少しくらいなら作れるようになった。

 初めてさやかにもてなす料理は、カレーとサラダ。

 一番無難な料理と言うことで、緑にこのメニューを勧められた。

 やがてカレーが出来上がり、キッチンからカレーの香りが漂う。

 セッティングを終えたボクは、リビングのソファーに座っているさやかを呼んだ。

 椅子を引いてさやかを座らせ、テーブルを挟んださやかの向かいにボクは座った。

「わぁ、美味しそう~いただきます!」

 元気よく言ったさやかは、カレーを食べた。さやかをじっとみつめながら、ボクは恐る恐る聞いた。

「……どう?」

「美味しい!」

「本当?」

「初めてにしては、上出来!」

 安堵の息を漏らしたボクは、やっとスプーンを手にした。

 しばらくの間無言でカレーを食べていたが、突然さやかが聞いてきた。

「七海の手料理なんて、初めてだね。どうしちゃったの?」

「一緒に暮らしているのに、ふたりでいる時間が少ないだろ。そのお詫びってわけじゃないけど」

「そっか。ありがと」

「料理する楽しさが、少しわかったよ。これからも作るよ」

「期待して良い?」

「期待に応えられるように、もっと腕をあげるよ」

 さやかは嬉しそうに笑い、ボクが作ったカレーを幸せそうに食べた。

 そんなさやかを見たボクも、幸せになった。

 食事を終えると「いつも、七海がやっているから」と、さやかが後片付けを始めた。

 ボクはリビングのソファーに座って、ゆっくりタバコを吸った。

 タバコを吸いながら、洗い物をしているさやかの後ろ姿を見て。

 今夜自分の店に、さやかを連れて行こうと思った。

 さやかを店に連れて行くなら、簡単に作れるデザートを作ってみるか。

 カウンター席に座るさやかに、サプライズで、デザートを出そう。

 携帯で、簡単なデザートの作り方を検索する為、ボクはタバコを灰皿にもみ消し、ソファーから立ち上がり、携帯を取りに寝室に向かった。

 寝室には充電された携帯があり、ボクが携帯に手を伸ばそうとした時だった。

 突然、携帯の着信音が鳴った。

 携帯の画面には、瞳の名前が浮かんでいた。

 ボクは、ゆっくり携帯を手にして通話ボタンを押した。

「もしもし……」

「……七海君?」

「どうしたの?」


 待ち合わせ場所の、大手デパートの入口の前には既に瞳と大門がいた。

 ボクを見つけた大門は、思い切りボクに抱きついてきた。

 大門を受け止めると、瞳がゆっくり近づいてきた。

 その顔は申し訳なさそうな、でも少しだけ嬉しそうな顔をしていた。

「突然呼び出して、ごめんなさい。大門の服を買いに行こうとしたら、七海君と一緒に行きたいって、大門が言いだしちゃって」

 瞳は、電話で言った言葉を繰り返した。

「忙しかったでしょ?」

 ボクは黙ったまま、首を横に振った。

「付き合わせて、ごめんなさい。買い物が済んだら、すぐ帰るから」

 瞳が言った『すぐ帰るから』に、大門が素早く反応した。

「やだぁ!七海とずっといる!」

「大門。七海君を、困らせちゃ駄目でしょ!」

「やだ!やだ!」

 初めて駄々をこねる大門に、ボクはしゃがみこんで、大門に視線を合わせた。

「大門、ずっと一緒にいるよ」

「本当に?」

「今日だけだよ」

「うん!」

 デパートの子供服売り場に入ると、瞳は大門の夏用の服を選び始めた。

 ボクは大門と手をつなぎ、瞳の後ろにいた。

 売り場は女性客で賑わっていたけど、大門といるせいか気恥ずかしさはなかった。

「服がすぐ、小さくなっちゃう」

 そう言いながら瞳が選んだ大門の服は、白地で夏らしい爽やかな服だった。

「服を買ったし、七海君にも会えたから、大門そろそろ帰ろう」

 エスカレーターに向かう途中、瞳が大門に言った。

「え~やだぁ!」

 大門は、ボクの手を強く握って離さなかった。

 大門は頑としてボクから離れないので、ボクたちはおもちゃ売り場に行った。

 おもちゃ売り場は、子供たちで溢れていた。

 大門はケースから出ていたおもちゃに夢中で、瞳が声をかけても聞く耳もたない状態だった。

「瞳ちゃんに、似たんだね」

「私は、こんなに頑固じゃないわよ」

「いやぁ、けっこう頑固だよ」

「もぉ」

 ふくれっ面をする瞳にボクは笑い、おもちゃに夢中になっている大門に声をかけた。

「大門、そろそろ行くぞ」

「え~」

 大門はしゃがみこんだままボクを見上げ、うらめしそうな声を出した。

「なんだよ。一緒に夕飯を食べようと思ったのに」

 ボクの言葉に、大門はおもちゃを片付けボクに飛びついた。

「七海君!」

 瞳が慌てて、ボクを呼んだ。

「大門とずっと一緒にいるって、決めたんだ。さぁ、大門行くぞ!」

 デパートの最上階にある食堂街は、早くも人が出ていた。

 迷った末、一番無難な和洋中何でもありのレストランに入った。

 大門は、定番のお子様ランチ。

 ボクと瞳は、ハンバーグのセットをオーダーした。

 料理が運ばれると、大門は凄い勢いで食べ出した。

 保育園の親子遠足の動物園で、お弁当を食べた時の大門とは、まるで別人だった。

 ボクは、驚いて大門をみつめた。

 そんなボクに気が付いた瞳は、恥ずかしそうに言った。

「外食なんてしたことがないから、嬉しいのね」

 想像以上に、厳しい生活を送っているんだな。

「大門、もっとゆっくり食べろよ。身体に悪いぞ」

「うん」

 素直に大門は、ゆっくり食べだした。

 今夜の仕事は休業にすると、瞳に会う前に厨房の料理人のたきこに電話で伝えてある。

「食事が終わったら、ボクの店に来ないか?」

「七海君の店って、七海君がバーテンをしているお店?」

「うん。今夜店は、休業するって決めていたから。休業だから、飲み物くらいしか出せないけど」

「本当に良いの?」

 心配そうに、でも嬉しそうな瞳だった。


 いつ何があるかわからないから、店の鍵はいつも持ち歩いていた。

 まさか、瞳を自分の店に連れて行く日がくるなんて!嬉しい気持ちを噛みしめながら、すっかり暗くなりネオンで明るい繁華街を歩いた。

 やがて店に着き、鍵を開けて店の中に入って行った。

 電気をつけると、瞳は短いため息と共に店内を見回していた。

「此処何処?」

 不安そうに、大門がボクに聞いてきた。

「ボクの店だよ。カウンター席に座って」

 ボクはカウンターの中にある冷蔵庫から、オレンジジュースを出した。

 グラスに氷とオレンジジュースを注ぎ、ストローをさしてから大門の前に、オレンジジュースのグラスを置いた。

「いただきます」

 大門は、グラスに手を伸ばした。

「瞳ちゃん、お酒飲めるだろ?」

「少しなら」

「何が良い?」

「……お任せします」

「かしこまりました」

 おどけたようにボクが言うと、瞳は笑った。

 ボクがお酒を作っている間、瞳はずっとボクをみつめていた。

 瞳の視線が身体じゅうを駆け回り、なんだか照れくさい。

「お待たせしました」

 ボクはグラスを、瞳の前に差し出した。

 ボクが作ったお酒は、イチゴのカクテルだった。

「いただきます」

 瞳は味わうように、ゆっくりカクテルを飲んだ。

 グラスを空にした瞳は「凄く、飲みやすくて美味しかった!ごちそうさま」と言った。  ボクは、空になったグラスを洗った。

 グラスを洗い終え振り返ると、大門はいつの間にか眠っていた。

「疲れたんだな、奥の和室で寝かせよう」

 店の奥には厨房と、小さな和室があった。

 ボクは大門を抱き上げ、和室に行った。

 和室から出てくると、薄暗い店内に瞳と二人きりと言うことを、へんに意識してしまった。

 カウンターの中に入り椅子に座ったボクは、タバコを吸った。

「彼氏と、うまくいってる?」

「……私は凄く愛されていると思った。でも、それは間違いだった。大門が生まれたのに……自分の息子なのにあの人は、大門に見向きもしない。『子供は、嫌いだ。お前だけがいれば良い』って」

「そんなの、ただのわがままじゃないか」

「そう。わがまま。子供嫌いで、私を束縛するくせに平気で浮気をしている」

「この先どうするの?そんな状態でずっと三人で、暮らしていくの?」

「私は、もう嫌だ。大門とふたりで暮らしたい」

「そっか。それが、いいと思う」

「別れてくれるか、わからないけど」

 ボクは吸っていたタバコを、灰皿にもみ消した。

 タバコを消しながら、ボクは思わず笑ってしまった。

「……なんて、ボクも同じか。人のこと言えないな」

「七海君は……七海君は、違う!」

「同じだよ。ボクのしていることは」

 瞳は、僕を見て言い出した。

「七海君。七海君のことを忘れたことは、一度もなかった。七海君に会いたかった!ずっと、このことを言いたかった。七海君から離れたのは、私なのに。勝手なことばかり言って、ごめんなさい」

「ボクもだよ。ボクも、瞳ちゃんにずっと会いたかった」

「七海君……」

「でも、ボクたちはあの時終わったんだ。あの時のつらい思いを、ボクはもうしたくない。瞳ちゃんと大門に会えた。それだけで、じゅうぶんだよ。ボクには、大学時代からつきあっている彼女がいる。今は同棲をしているけど、そのうちちゃんと籍を入れようと思っている」

「嫌っ!彼女のところに行かないで!」

 そう叫んだ瞳は、泣き出した。

 カウンターに右手で頬杖をついたボクは、指輪をはめている左手で、瞳の頭をなでた。

 言った言葉に、嘘はなかった。

 でも本音は、ボクはずっと、瞳を待っていた。

 瞳もさやかも、手放したくなかった。

 

 瞳が住むアパートの側まで送った後、ボクはマンションに帰った。

 部屋の中は真っ暗で、ひっそりとしていた。

 電気をつけると、違和感を覚えた。

 何故だ?

 部屋の中を見渡すと、さやかの物がほとんどなくなっていたことに気が付いた。

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