タイトル未定2025/11/24 12:33
緑地公園で、瞳が何を言いたかったのかわからないまま数日が経っていた。
午前の勤務が終わり、休憩に入ろうとした時だった。
突然看護師長の緑に呼ばれた。
「お昼、一緒にいかがですが?」
「えっ?ああ、いいですよ。あっ、ちょっと待ってて下さい」
ボクは診療室に併設している実家に戻り、家政婦のまちこに昼飯は外で食べることを告げてから緑と出かけた。
ボクと緑は、歩いてすぐの所の喫茶店に行った。
今どき珍しい、個人で経営している喫茶店だった。
店は、白を基調とした明るい店内だった。
午後一時をすぎているせいか、客はボクと緑の他に誰もいなかった。
緑いきつけの店らしく、緑が挨拶をすると、カウンターの中にいたマスターは笑顔で緑に声をかけた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。緑さん、珍しいですね。お連れの方がいるんて。彼氏ですか?」
「まさか。今日は、テーブル席にするわ」
そう言った緑に、マスターは灰皿を差し出した。
緑は、当然のように灰皿を受け取った。
「ありがと。マスター二人ぶん、いつものね」
マスターは、笑顔で親指を立てた。
ボクはマスターに、小さく頭を下げた。
マスターも同じように、小さく頭を下げた。
マスターは、隣にいた相手に[[rb:類 > るい]]と呼ばれていた。
緑とボクは、明るい日が射した窓際のテーブル席の方へ向かった。
僕と緑が、タバコを三本吸っている間に、 ナポリタンとアイスコーヒーが運ばれてきた。
ボクと緑は、無言のままナポリタンを食べた。
ナポリタンは、どこか懐かしい昔ながらの味だった。
食事を終え、アイスコーヒーを飲みながらタバコを吸っていると、突然緑が切り出した。
「やっぱり元カノの、息子じゃない」
「えっ?」
「私、見ちゃったの。先生が女の人と男の子と公園で、楽しそうにボール蹴りをしていたとこ。親子かと思った!」
「……見たんだ」
ボクと緑は、同時に灰皿にタバコを押しつぶした。
「同級生だ、なんて言って」
「本当のことなんて、言えませんよ」
「本当のことを聞いて、私が先生のことを軽蔑すると思っているんですか?そんなことしないわよ」
「……高校の時、つきあっていた彼女です。卒業と同時に、行方をくらませて。最近、再会できたんです」
「ところが彼女は、既に結婚して子供がいた。そして、先生には彼女がいる」
「籍は、入れていませんよ。事実婚では、ありません」
「関係ないわ。同じことよ。で、これからどうするの?」
「どうするって……今まで通り彼女の側にいるだけですよ」
「本当に、そう思っている?」
「虐待を受けている彼女の息子が、気になっただけです。もう、会うこともないです」
「先生がそう言うなら、心配ないわね。彼女、泣かしたりしないでね」
「そんなに、ボクのことが心配なんですか?」
「そりゃ、そうよ。亡き奥様の息子だもの」
「おまちさんと、同じことを言っている。母親が、ふたりいるみたいだ」
「あたりまえでしょ!」
緑が鼻で笑いながら言った時、マスターの類がお盆を片手にやってきた。
「空いている食器、おさげしてもよろしいでしょうか?」
ボクと緑は、食器を類の方へ差し出した。 その時、類から甘いイチゴの香りが漂った。
類の頬が、膨らんでいた。
イチゴの飴でも、舐めているのか。
なんだか、懐かしい気分になった。
明るい店で無粋な話をして、ボクは類に申し訳なく感じていた。




