表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DANDY〜もう戻れない〜  作者: kagari
プロローグ
12/18

タイトル未定2025/11/24 10:34

 良く晴れた土曜日の朝。

 いつものようにマンションを出たボクは、勤務先の診療所ではなく、大門が通う保育園に向かった。

 仕事を休むことに、院長でもある父親は難色を見せたが『初めての休みですよ。気持ち良く、休みを出してあげましょうよ』と、緑が機転を利かせてくれた。

 おかげで、休みを取って大門が通う保育園に、行くことができた。

 さやかには、何も言っていない。

 この日さやかは、いつもより早く出勤した。

 さやかに、なんと言って言いわけしようと考えていただけに、正直ほっとした。

 歩きながらボクは、瞳と電話で会話したことを思い出していた。

 土曜日、大門が通う保育園で親子遠足が実施される。

 しかし瞳に仕事が入ってしまい、瞳は親子遠足に参加することができなくなってしまった。

 ボクのことを思い出した瞳は、親子遠足に参加するように、ボクに頼んだのだった。

 こう言う時は、父親が遠足に付き添うものだが。

 もし仕事だとしても、休みを取るのではないのか。

 瞳が言っていた言葉を思い出す。

 本当に、子供が嫌いなんだ。

 瞳が、ボクを頼ってくれたことが嬉しかった。

 保育園に着くと園児たちが運動場に並んでいて、道路の路肩には既に大型バスが待機していた。

 保護者達が我が子を見つけると、自分の子供の方へ歩いて行った。

 ボクも同じように大門を見つけて、大門の側へ行った。

 不安そうだった大門の表情は、ボクを見つけると明るくなった。

「大門君、おはよう」

「おはようございます。お母さんが、先生にって」

 言いながら大門は、大きなリュックをボクに差し出した。

 ボクの持ち物は事前に用意すると、電話で瞳から聞いていた。

「ありがとう」

 ボクは、大門からリュックを受けっ取った。

 運動場で今日一日の流れと注意事項を聞いた後、路肩に止まっていた大型バスに乗り込んだ。車内では園児たちが前方に座り、保護者たちは後方に座った。

 土曜日のせいか、数人とはいえ男親がいたので、肩身の狭い思いをせずに、過ごすことができた。

 高速に乗ったバスは、一度トイレ休憩の為パーキングエリアに寄り、目的地の動物園に着いたのは昼少し前だった。

 バスを降り、駐車場でクラスごと集合写真を撮影した。

 撮影が終わると、園内は自由行動となった。

 ボクはバスの中で配られたパンフレットを見ながら、とぼとぼ歩きだした。

 何気に顔を上げ、後ろを振り返ると、大門がうつむいたままボクの後ろを歩いていた。

 ボクは、慌てて大門の側に行った。

「最初は、フラミンゴだよ。フラミンゴ、知ってる?」

 大門にそう言うと大門は、黙ったまま首を横に振った。

「そっか。ピンク色で、片足で立っているんだよ」

 そう言っても、大門は黙ったままボクの少し後ろを歩いていた。

 ボクは大門の手を掴み、大門と手をつないで歩きだした。

 園内を半周すると、芝生が敷き詰められた広場に出た。

 ボクは、瞳から預かったリュックからシートを出し、芝生の上に広げた。

 シートの上であぐらをかくと、リュックからペットボトルのお茶と瞳が作ってくれた弁当を出した。

 大門を見ると、大門はきちんと正座をして、リュックから水筒と弁当箱を出して、綺麗にシートの上に並べていた。

 その姿は、園児らしくなかった。

「足、崩せよ」

 ボクがそう言うと、大門は申し訳なさそうに、少しだけ足を崩した。

 ボクが弁当のふたを開けると、それを待っていたように、大門は弁当のふたを開け、静かに食べ始めた。

 周りは賑やかで、弁当を半分も食べていない園児が、早くもお菓子を食べ出し、親に叱られていた。

ボクと大門だけ、まるで違う世界のようだった。

「弁当、お母さんが作ってくれたんだよね?」

「うん」

「お母さん、料理上手だね」

 大門は何も答えず、黙々と食べていた。

 そう言えば、瞳が作る料理を食べるのは、これが初めてだ。

 瞳が作った弁当は、ほぼ手作りだった。

 味もしっかりしていた。

「いつもそんなに、行儀良く食べているの?」

「『静かに食べなさい』って、お母さんが言うから」

 相当しつけには、厳しいようだ。

 瞳らしい。

 思わず、笑いそうになってしまった。

 その時だった。

 保育士に、カメラを向けられたのは。

 大門の担任ではない保育士の「撮りますよ~」の声に、ボクと大門は顔を上げた。

 撮影が終わると、保育士がボクに言った。

「最近、大門君。鉄棒を頑張っているんですよ」

「そうなんですか」

「大門君、逆上がりに挑戦しているんだよね」

 弁当箱を片づけていた大門は、笑顔で大きくうなずいた。

 保育士がいなくなったのを見届けてから、ボクは大門に言った。

「逆上がりの練習を、しているんだ?」

「でも、全然できない」

 大門はうつむいて、小さな声で言った。

「焦らなくていいよ」

「うん」

 大門は、ためらいがちに聞いてきた。

「先生は、逆上がりできたの?」

「できたね。今は、できるかどうかわからないけど」

「どうやって、できるようになったの?」

「う~ん。どうだったかな?たくさん練習して、できるようになったんだと思うよ」

「ふ~ん」

「なぁ……その、先生って、言うのやめようよ」

 大門は、黙ったままボクを見上げた。

 少しの沈黙のあと、ボクは言った。

「ボクは、七海って言うんだ」

「女の子みたい」

「それを言うなって!」

 大門は、初めて小さな笑い声をあげた。

 初めて聞く大門の笑い声に、ボクは嬉しくなって言った。

「七海で良いよ」

「七海って、呼んでいいの?」

「もちろん!ボクは、大門って呼ぶから」

 笑顔になった大門は、恥ずかしそうに言った。

「……本当に、大門と遊んでくれるの?」

「うん。約束しただろ。さぁ、そろそろ行くぞ。大門」

 ボクは立ち上がってリュックを背負い、歩きだした。

「七海!待って!」

 大門は慌てて立ちあがり、リュックを手にして、ボクを追いかけた。

 ボクは笑顔になって振り返り、大門が来るのを待っていた。

 大門がボクに追いつき、ボクは大門のリュックを大門の背中に背負わせた。

 顔を上げた大門はボクと視線があうと、ボクの手を思い切り掴み、元気に歩きだした。

 帰りのバスの中は、保護者と園児が同じ座席に座った。

 バスが走りだすと、ボクと大門は眠ってしまった。

 眠ったせいで、保育園につくまでの間はあっと言うまだった。

 バスを降りると、既に瞳が迎えに来ていた。

 瞳の傍らには、自転車があった。

 大門と手をつないでいたボクを見た瞳の顔が、少しだけゆがんだ。

「七海君、今日はありがとう。さぁ、帰るわよ」

 瞳はまるで、ボクと大門を引き裂くような感じで、大門を連れていこうとした。

 ボクは慌てて、それを制止した。

「送って行くよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「なんで?それくらい、いいだろ。なぁ、大門」

「うん!」

「よし、行くぞ」

 ボクは、カゴの中に置いてあった子供用のヘルメットを大門の頭にかぶせ、大門を自転車の後ろの椅子に座らせた。

 自転車のハンドルを握ったボクは「さぁ、行こう!」と、瞳に声をかけた。

 自転車をひきながら歩くと、瞳はあきらめたように、黙ったままボクの前を歩き出した。

 大門は、楽しそうに動物園で見た動物の名前を挙げていた。

「動物園、楽しかった?」

 ボクが聞くと、大門は笑顔で答えた。

「うん。七海と一緒で楽しかった」

 大門の声に、瞳は驚き顔で叫ぶように言った。

「大門!七海君のこと、呼び捨てに呼んじゃ駄目でしょ!」

「いいんだよ、瞳ちゃん。呼び捨てで呼びあうように、決めたんだから。なぁ、大門」

「うん」

 ボクと大門がそう言うと、瞳は黙り込んだまま歩いた。

 しばらく無言の時間が続いたが、突然瞳が切り出した。

「七海君、此処で良いから。今日は本当にありがとう」

「ちゃんと、家まで送るよ」

「家に来られても、困る。お茶なんて、出せないよ」

 瞳の言葉に、ボクは思わず笑ってしまった。

「ちゃんと見届けてから、帰りたいんだ。そうだ。明日一日、大門と一緒にいて良いだろ?」

「えっ……私のわがままで、今日一日大門につきあわせたのよ。二日続けてなんて、七海君に迷惑よ」

「大門と一緒にいたいんだよ。大門と約束したし。良いだろ?」

「でも……」

「もちろん、瞳ちゃんも一緒に」

 しばらく黙ったままの瞳だったが、やがて静かに言った。

「わかった。でも、家には来ないで」

「うん。じゃあ……」

 ボクは少し考えてから、繁華街から少し外れた大きな公園を、待ち合わせ場所に指定した。

 瞳の了解を得たボクは、大門に言った。

「大門、明日も会おうな!」

 大門は、嬉しそうに大きくうなずいた。

 入り組んだ路地の前に着くと、振り返ってボクを見た瞳が言った。

「本当に、今日はありがとう」

 言うなり瞳は、ボクが背負っていたリュックをボクの背中から外し、ボクから自転車を奪うように、ハンドルを握った。

「明日、公園で会おう!」

 ボクは瞳にそう言ったが、瞳は振り向きもせず、大門を乗せた自転車を引いて歩いた。

 狭い路地を通り抜けた瞳は、今時珍しい、古い二階立てのアパートの一階の部屋に入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ