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DANDY〜もう戻れない〜  作者: kagari
プロローグ
11/18

タイトル未定2025/11/24 10:21

 看護師長の緑のおかげで、一時間遅れで午後の診療に入っても、何も言われなかった。

 診療に入ると患者がひっきりなしにやって来て、午前中同様目の回るような忙しさだった。

 一日の勤務が終わり、のんびりコーヒーを飲みながら報告会をやり、マンションに戻った頃は午後八時を過ぎていた。

 さやかはまだ勤務から戻っていなく、部屋の中は真っ暗だった。

 自炊するのも面倒でシャワーを浴び、乾き物をつまみにビールを飲んだ。

 壁に掛かっているカレンダーを見ると、週末はすぐ側まできていた。

 大門に会おうにも、大門の居場所がわからない。

 大門が通う保育園で、住所を聞くか。

 駄目だ……今は、個人情報保護のせいで、住所を教えてくれないだろう。

 大門が通う保育園で、大門を迎えに来る瞳を待ち伏せして……。

 そんなことをしたら、瞳は益々ボクから大門を遠ざけるだろう。

 一体どうしたら、いいのだろう。

 ボクはビールを飲みながら、思いを巡らしていた。

 いつの間にかさやかが帰ってきて、目の前に立っていたことに気付くのが遅れてしまった。

「何を、ぼんやりしているの?」

「……あっ、ああ。お帰り」

「ただいま。ビール飲んで。まだ、ご飯食べてないの?」

「うん。作るの面倒で」

「医者が言う言葉じゃないなぁ。待ってて、今作るから」

 そう言ったさやかは、手にしていた買い物袋から、野菜と肉を取り出し、台所に立った。

 さやかが手早く作った料理は、野菜炒めと味噌汁だった。

 ボクは「いただきます」と言って、箸を取った。

 ボクの目の前に座ったさやかは、食べる気配がない。

「食べないの?」

「外で、食べてきちゃった」

「珍しいね。誰と?」

「職場の皆と」

「へ~そう言うの、初めてじゃない?」

「ずっと、忙しかったからね。やっと皆と、食事ができたよ」

「楽しそうだね」

 さやかと会話をしながら、ボクは食べ続けた。

「七海のとこは?職場の人たちと、親睦を深めたりしないの?」

「深めたりしないよ。それより今は、仕事を覚えることで精一杯」

「そうなの?可愛い看護師さんに、声をかけられない?」

 いたずらっぽい目つきをして、さやかはボクに聞いてきた。

 思わずボクは、吹き出しそうになった。

「ない、ない!」

「本当に?」

「本当だって……あっ」

 野菜炒めを食べていた、ボクの箸がとまった。

「どうしたの?やっぱり、誘われたりした?」

「いや、そうじゃなくて。看護師長の名前が、面白いんだ」

「どんな名前?」

「紫野緑」

 ボクがそう言うと、さやかはボクの顔をまじまじと見た後笑いだした。

 さやかの笑い声は、しばらくの間止まらなかった。

 ご飯を食べ終えたボクは、茶碗や皿を洗い始めた。

 ようやくさやかは笑うのをやめ、ボクの隣に立つと泡だらけの食器をすすいだ。

「看護師長の緑さんって、どんな人?」

「……背が高くてロングヘアで、綺麗な人だよ。師長をやるくらいだから、けっこうきつい性格だよ」

「あぁ、わかる!看護師って、きつい人が多いよね。もちろん、そんな人ばっかじゃないけど。だからさ、気弱な看護師を見かけると、心の中でエールを送っちゃう」

 食器を洗い終え、ボクとさやかは濡れた手をタオルで吹いた。

 手を拭き終えたボクは、思い出したように、さやかに言った。

「看護師長……緑さん。両親のことを、よく知っていた」

「えっ、七海のお父さんとお母さんのことを?」

「うん。父親が母親に一目惚れをして、緑さんが二人の仲をとりもったんだって」

「そうなの!ねっ、七海のお母さんって、どんな人?」

「綺麗で、優しい人だって」

「ふ~ん。七海のお母さんに、会ってみたかったな」

 ボクを見上げて言うさやかは、今にも泣き出しそうだった。

 ボクは思わず、さやかを抱きしめて言った。

「ボクも、母親に会いたかった。そして、さやかを母親に会わせたかったよ」


 その夜久しぶりに、さやかを抱いた。

 一時的に気持ちが瞳に揺れたとはいえ、やっぱりボクにはさやかが必要だ。

 さやかと出会い、ボクたちはずっと支えあってきた。

 そしてそれは、これからも……。

 ただ、やはり医師として、大門のことは気になる。

 

 翌朝、大門のことを考えながらバスを降り、勤務先の診療所に向かって歩いていると、携帯のバイブが作動した。

 携帯を取り出すと、見知らぬ番号が、ディスプレイに浮かんでいた。

 恐る恐る通話ボタンを押す。

「……もしもし」

 一呼吸おいてから電話に出ると、思いがけない声が聞こえた。

「……七海君?」

「瞳ちゃん!」

 電話の相手は、瞳だった。

 ボクは歩くのをやめ、歩道の隅に行って立ち止まった。

「電話して、ごめんなさい」

「そんなこと……それより、どうしたの?何かあったの?」

「……どうして良いか、わからなくて」

「なんでも言ってよ。ボクにできることなら、なんでもやるよ」

 そう言うと、瞳は、ためらいがちに切り出した。

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