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DANDY〜もう戻れない〜  作者: kagari
プロローグ
10/18

タイトル未定2025/11/24 09:02

 瞳と別れたボクはマンションに帰り、二杯目のお茶漬けを食べていた。

 そんなボクを、さやかはあきれた声で言った。

「外で食べてくるんじゃ、なかったっけ?」

「……コーヒーだけで、食べていない」

「コーヒーだけ?」

「昔の友人に、偶然会ったんだ。待ち合わせをした店で、すっかり話こんじゃって」

「ふ~ん」

 とっさに出たボクの言葉を、さやかが信じたのかわからないけど、それ以上さやかは追及してこなかった。


 食事を終え後片付けをした後、ボクはさやかと並んでソファーに座った。

 ボクはさやかの肩を抱き、さやかはボクにもたれていた。

「週末、ちゃんとした休みが取れそうなの。久しぶりに、何処かへ出かけない?」

「そうだなぁ」

 ボクは、大門のことを考えていた。

 不安気な表情をしていた大門が、笑顔になった。

 大門の笑顔が、焼き付いて離れない。

 大門は、ボクを待っている。

 大門を裏切ることが、ボクにはできない。

「週末は、忙しいんだ。夜、店だってあるし」

「お店……私、まだ一度も行ったことがないのよね。行っちゃおうかな」

 店を始めた時は、さやかには絶対自分のバーテン姿を見せたいと思っていた。

 ボクをバーテンの道に導いてくれたのは、さやかだ。

 そう思っていたのに、店にやってきたさやかを想像したら恥ずかしさの方が勝り、ボクは思わず照れ笑いをした。

「もぉ、何照れているの!」

 さやかは笑いながらボクの頭を両手で突き、ボクに抱きついてきた。

 そんなさやかを、ボクは受け止めた。

 

 その夜布団の中で、どうやって大門を連れ出そうか考えていた。

 しかし、答えが出ないまま朝を迎えた。

 いつものように、実家の診療所に行くと、自宅の敷地内の駐車場に、見覚えのある車が止まってあった。

 その車から、大門が通う保育園の内科検診に一緒に行った、看護師長が出てきた。

「……おはようございます」

 寝ぼけまなこで挨拶すると、看護師長はボクとは対照的に、爽やかに挨拶を返してきた。

 看護師長は大きなバックの他に、切り花の花束を抱えていた。

 ボクが切り花の花束を見ていると、聞かなくても看護師長は教えてくれた。

「休憩時間に、奥様の墓前に活けようと思って」

 奥様とは、ボクの母親のことだ。

 そう言えば、母親の墓参りなんて、何年も行っていない。

「あの……ボクもご一緒させてもらっても、よろしいでしょうか?」

「もちろんです!」

 ひょんなことから看護師長と、母親の墓参りに行くことになった。


 勤務中の昼休み、ボクは看護師長の車の助手席に座り、看護師長が運転をした。

 母親が眠る墓は、郊外の静かな場所にあった。

 平日のせいか、人っ子一人いない。

 看護師長と一緒に花を活けた後、墓に水をかけ、線香を焚いた。

 両目を閉じ、静かに手を合わせる。

 数秒後ゆっくり目を開けると、隣ではまだ看護師長が手を合わせ、目を閉じていた。

 看護師長は、普段長い髪の毛をアップにしているが、この時はおろしていた。

 長い髪の毛が、風に揺れていた。

 モデル並みの体型で、看護師と言う職業柄きつい顔立ちの彼女が、この時ばかりは少なからず綺麗だと思った。

 ボクの視線に気が付いたのか、看護師長が不意に顔を上げ、ボクの方を向いた。

「今年も無事に、お参りができて良かった」

「えっ、今日は母親の命日ではないけど?」

「奥様に、初めて出会った月なの」

 そう言いながら、看護師長は青空を仰ぎ、ボクに言った。

「奥様と初めて出会った時も、こんな青空だったわ」

「母親と親しかったんですか?」

「留学先のアメリカの田舎町で奥様と知り合って、以来親しくしていただいたわ」

「母親って、どんな人でした?」

「優しくて、綺麗な方だったわ。同じ時期に奥様と院長が知り合って、院長は奥様に一目惚れして、私が二人の仲をとりもったのよ」

「そうだったんですか!」

「院長から、聞いていない?」

「まともに、話をしたことがないから。信じられないなぁ」

「無口で近寄りがたい院長だから、信じられないのも無理ないけど、本当のことよ」

 本当にボクは両親のことを、何も知らない。

 そして目の前にいる、看護師長のことも。  ボクは今更ながら、看護師長に聞いた。

「あの……看護師長の名前って……」

「やだ!私の名前、知らないの?」

「すみません。なんと言う名前ですか?」

「名前言うの、やだなぁ」

「えっ、なんで?いいじゃないですか」

「笑わない?」

「笑いませんよ」

「……紫野むらさきの

「紫野……変わった名字ですね。名前は?」

みどり

「紫野緑……さん」

「……私は、気に入っているわ!紫も緑も好きだから!」

「ボクは、何も言っていませんよ!」

「これからは、『緑さん』と呼んで下さい!」

「え~っ?」

「これは、看護師長命令です!」

 ボクたちは、思わず吹きだしてしまった。

 落ち着いた後、看護師長が静かに言った。

「でも、本当に名前で呼んで下さい。……先生」

「はい?」

「虐待をされていた子供は、その後どうなりました?先生、その子供に執着をしているみたいだけど」

「執着って……」

「知っている子供?」

「子供の母親は、ボクの同級生です」

「……元カノとか?」

「まさか!同級生の子供が、虐待を受けていると知り心配をしているだけです」

「心配をする気持ちはわかるけど、深入りしちゃダメよ。彼女いるんでしょ。彼女を泣かさないで。相談なら、いつでものるわ」

「はぁ……あっ!もう、こんな時間だ!うわぁ、午後の診療に間に合わない!」

「大丈夫。遅れることは、院長に言ってあるから」

「そうなんですか?ありがとうございます!」

「私が、奥様と院長の仲をとりもったのよ。院長は私には、頭があがらないんだから!」

 そう言った看護師長は、ボクの母親の墓の前で豪快に笑った。

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