タイトル未定2025/11/23 16:36
プロローグ
顔を上げると、コンクリートの狭い部屋に木漏れ日が射しこんで、窓の外は緑の葉が揺れていた。
目の前にいる女性は、ベッドの上で上半身を上げた状態で、ベッドの上に座っていた。
女性の目は何処を見ているのか、焦点が定まっていなかった。
ボクは、女性の頬にかかった長い髪や頬を、愛おしい気持ちで触れていた。
ボクは学校の会議室の窓から、はらはら舞う桜の花びらを窓から眺めていた。
高校生活最後の年に、担任から学級委員をやるよう、命じられてしまった。
なんでボクなんだよ?積極性や協調性などないボクが、学級委員?ボクに学級委員なんて、勤まるはずないじゃないか。
友達と、くだらない話をしていた方が気が楽だ。
「麻生君」
ボクの隣に座っていた、同じクラスで、一緒に学級委員をやる女生徒の声で、ボクの思考は途切れた。
会議室では、学級委員の自己紹介が行われていて、既にボクの番だった。
「麻生七海」です。よろしくお願いします」
ボクは、慌てて早口で言った。
自己紹介を終えた後、隣に座っていた女生徒を何気なく眺めた。
「坂田瞳です。よろしくお願いします」
同じ高校生とは思えないほど、落ち着いた言い方だった。
瞳はショートカットに、大きな目をしていた。
自己紹介が終わると、一年間の行事予定のプリントが配られた。
プリントの内容を見たボクは、内容の濃さにため息をついた。
この一年間が、憂鬱になってきた。
隣に座っている瞳の方を見ると、必要なことをちゃんとメモして、熱心に聞き入っていた。
安心したボクは、ぼんやりと顧問の話を聞いていた。
会議が終わり、すっかり日が暮れていた。
生徒たちはのろのろと、帰り支度を始めていた。
ボクは椅子から立ち上がった。
隣にいた瞳も、同じように立ち上がっていた。
百八十センチ近くあるボクの身長より、瞳の身長は、少し低いだけだった。
ボクは、思わず声を上げた。
「背ぇ、高いんだ」
ボクの言葉に、驚き顔でボクの顔をみつめた瞳は、恥ずかしそうにうつむいてしまった。
ボクは慌てて謝った。
「ご……ごめん」
瞳はうつむいたまま、首を横に振った。
うなだれている瞳を見ていたら、少しだけ罪悪感を感じた。
瞳は何も言わず、席を離れた。
会議室を出て、校門を出た所でボクより先に会議室を出た瞳を見つけた。
「坂田さん」
我知らずにボクは、瞳を呼んでいた。
瞳に声をかけた自分に、ボクは驚いた。
瞳は立ち止まって振り返り、不思議そうな顔をしてボクをみつていた。
ボクは、慌てて言った。
「えっと……その……坂田さんの家って、どの辺?」
瞳はとまどいながらも、教えてくれた。
偶然にも、同じ方向だった。
なんとなく、一緒に肩を並べて歩いた。
「背が高いの、気にしている?」
「うん。目立っちゃって、恥ずかしい」
「かっこいいのに、恥ずかしがることないじゃん」
「目立ったりするの嫌なの」
「もったいない」
会話は、途切れがちだった。
初めての会話なんて、こんなものだろう。
地下鉄の電車に乗っても、これと言って話すこともなく、黙ったままドア付近に並んで立っているだけだった。
いくつかの駅を通り過ぎた後、瞳がボクの方を向いた。
「次、降りるから」
「あっ、うん」
電車の速度が、少しずつ落ちた時だった。
「学級委員。私じゃ、あまり役に立たないけど、よろしくね」
瞳の言葉に、ボクは思わず瞳をみつめた。
会議中ぼんやりしていたボクに、ちょっとした抵抗を此処でしたのだろう。
恥ずかしくなったボクに、瞳は小さく笑った。
駅に着きドアが開くと、瞳は素早く電車から降りて、ボクの方を振り向きもせず足早に駅のホームを歩いた。
今思うと、瞳の初めて見た小さな微笑みが、いつの間にかボクをとらえて離さなかったんだ。




