月と太陽
今日の黄昏はいつにも増して切ない夕焼けでした。
去りゆく太陽の背に月は呼び掛けました。
沈みかけた太陽が山際で振り向くと、そこには心配そうな顔をした月が白く浮かんでいました。
「ああ、お月様。君はいいなぁ」
太陽はそう言って力無く笑いかけます。
「どうしたの、太陽さん。あなたに元気が無いと草も花も木も動物も、人間だって元気が無くなるわ」
「そんなものかねぇ」
太陽はまだしょんぼり。
「だってそうじゃない。この世の命は太陽さんが注ぐ熱と光で育つのよ。まるで親が子に注ぐ愛情のような、ね」
「…………でも」
「でも?」
「誰も僕を見てくれないじゃないか」
「太陽さんの輝きは太陽さん自身の命の輝きだから、大地に暮らす命には眩しすぎるのよ」
「僕はお月様、あなたが羨ましい。皆があなたを見上げて優しい顔をする。穏やかな眼差しであなたを見ている」
太陽は寂しかったのです。
誰ひとり自分を見てくれないことが切なかったのです。
クスクス。
月は太陽の言葉に小さく笑いました。
それは決して馬鹿にしたり蔑んだりするものではありません。
月は太陽に言いました。
「皆が見上げる私は太陽さんの光を纏った姿の私。皆が見ているのは私ではないのよ」
「それに……」
月は言葉を続けました。
「私は生まれてから今日までずっと太陽さんのことを見ていましたよ」
「ありがとう」
太陽は嬉しそうにそう言うと、照れたように山陰に隠れて沈んでゆきました。
今日の黄昏はいつにも増して赤い赤い夕焼けでした。
おわり




