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指相撲
「じゅう」
手を繋いで歩くイチョウの並木道。
不意に彼はそう言って、悪戯っ子のように笑った。
違和感を覚えた手に視線を向けると、私の親指を彼の親指が押さえていた。
ネトフリの途中、ベッドの中——
彼は不意打ちの指相撲で勝つ度に笑って見せた。
そして私は仕返しに脇腹をくすぐる。
身を捩って悶える姿に、私も笑って見せた。
消毒液の匂いが私日常になった頃。
彼はベッドの上で浅い呼吸を繰り返していた。
耳障りな電子音をいつまでも聞いていたいと願った。
どうか途絶えないでと。
曇るマスクの向こうで唇が僅かに動いた。
私は彼の手を取り、口元に耳を寄せた。
「じゅう」
目を細めて笑う彼の顔と、力無く重ねた親指。
彼の腕から力が抜けて、その重みだけが手の上に残った。
「いや、いや、いやぁ」
泣すがる手が彼の脇腹に触れても、もう私を笑わせてはくれなかった。




