ミライのセカイ
今、私の目の前に私を「ご先祖さま」と呼ぶ男が立っている。
見た目は私と同じ20代半ば——
250年後の未来からタイムマシンで来たと言う。
名前はカイト。
未来で車は結局空を飛ばなかったが、時空は飛んだらしい。
カイトは見慣れたTOYODAマークの鍵を私に見せて「未来を見せたい」と、時間旅行に誘ってきた。
目の前の乗り物にはKarollaと、これまた見慣れたロゴがあった。
この時点で私はなんだか面白くなって、カイトの手の込んだ冗談に付き合おうと助手席に乗り込んだ。
まぁ半信半疑ながらも父の若い頃の写真に似ていたんだ、このカイトは。
てっきり映画のように高速で走ってタイムスリップをするのだと思っていたが違った。
カイトがハンドルの無い運転席で2275年東京と告げると、ブーンという機械音と共に窓の外の景色が歪み始めた。
ある種の機械が動いた時のような甘い匂いがした。
(ああ、なんの機会だっけな)
そんな事を思っているうちに作動音が止まった。
「着きました」
カイトがそう言ってドアを開けると、全ての窓の景色が静止した。
「うわっ」
CGを窓に映しているのかと思って外に出ると、同じ景色が広がっていた。
......高層ビルが無い。
建物は中層階以下で、電線が無かった。
「今の時代は地下街が発展しているんですよ」
「八重洲や札幌みたいな?」
私がそう言うと「札幌に性格は似ていますね。ご先祖さまの時代に比べて、今は環境が厳しいんですよ」とカイトが答えた。
「紫外線量が平均5%増えましたし、大雨、大雪、竜巻なんかも多くなりました」
そう言ってカイトは太陽に手をかざした。
地下街は主に地下一階が商業エリア。
地下二階が公共施設。
地下三階より下が居住エリアだった。
「お金持ちは地下三階に集中しているんですよ」
カイトの家は地下四階にあった。
中産階級がここにあたる。
これより下層は公営住宅や賃貸になるらしい。
私はカイトの案内で動く歩道を使い自宅へ向かった。
道中気が付いたことがあった。
全ての家が屋根の無い、屋上付きの家だった。
なるほど。
降雨も降雪も無いとこうなるらしい。
カイト曰く、家の大きさや高さに制限があるのも理由のひとつ出そうだ。
屋上は貴重なスペースらしい。
「ここです」
カイトの足が止まった。
白い壁の瀟洒な家だ。
植え込みの花や低木も美しい。
私がそれを褒めると植物の育成はこの地下街の義務で、法律で定められていると教えてくれた。
カイトが「どうぞ」とドアを開くと「いらっしゃいませ、こんにちは」と奥から女性が出迎えてくれた。
「カイトくんの奥様ですか?はじめまして、こんにちは」
私がそう挨拶するとカイトは大笑いして「お掃除ロボットだよ」と言った。
私が戸惑っていると「リンバの最新モデルだよ。ご先祖さまの時代の円盤からここまでになったけど、名前はリンバのままなんだ」と教えてくれた。
そして私を未来へ招待した理由も、初代リンバを知る私に見せたかったそうだ。
この最新リンバを。
更にこのリンバは料理も買い物も、チェスの相手もなんでもこなすマルチロボットだそうだ。
私は感心しきりでしげしげと眺めていた。
実際に出してくれた料理も、私との会話も人間そのものの出来だった。
「それで本来の掃除なんかはどうやるんだい?」
私がカイトにそう聞くと「リンバ、掃除をお願い」と指示をしてくれた。
「かしこまりました」
リンバはそう言うと部屋の隅から掃除機を取り出して丁寧に掃除機を掛け始めた。
サイクロンブラックホール搭載の最新掃除機だそうだ。
-了-




