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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
第4章:切り捨てる者

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第94話 予想以上の変人

 夜になった。


 選別衆の戦闘員の多くは拘束し、問題になりそうな風の魔道具もすべて回収したところで、俺たちはようやく一息つけたぜ。


 遠くでは、嵐が唸っている。

 だが、この一帯だけは不思議と静かだった。


 そんな中、軽い足音が近づいてくる。


「改めて、挨拶するっス」


 振り向くと、くすんだ金髪の男――ベニーが、両手を軽く上げながら歩み寄ってきた。


「オレはベニー。よろしくお願いするっス」


 妙に人懐っこい調子だが、油断できる相手じゃない。

 実際、さっきまで選別衆を翻弄していた張本人だ。


 そんな彼は、挨拶もそこそこに、こちらが積み上げていた魔道具の山へと視線を向けた。


「で、さっそくなんスけど。その風の魔道具、全部オレに渡してほしいっス」

「……全部?」


 イザベラが、ぴくりと眉を動かす。


「それはさすがに無理よ。危険なものだし、私たちにも必要になるかもしれない」


 当然の反応だ。

 だが、ベニーは困ったように頭をかいた。


「困るっスねぇ。でも、この大陸のソヴリンを倒すために、どうしても必要なんスよ」

「……ソヴリンを?」


 思わず、声が漏れた。


 西の大陸で、ソヴリン討伐を考えている人間がいる?

 正直、信じがたい話だ。


「詳しく聞かせてくれ」


 促すと、ベニーは少しだけ真面目な顔になった。


「オレをこの地に遣わせたボスがいるんス。あの人、西の大陸のソヴリンを倒すつもりで動いてるんスよ」

「へぇ。それは興味深い話ね」


 イザベラが即座に言う。

 その反応を見て、ベニーは小さく頷いた。


「愚かだって止めたりはしないんスね」

「そうね。むしろ応援したいくらいよ」


いつもの強気な口調。

だけど俺には、イザベラの表情に影があるように見えるぜ。

まぁ、さっきまで窮地に立たされてたワケだから、仕方ないのかもしれないな。


と、そんなイザベラを見てなにかを納得した様子のベニーが続ける。


「やっぱり、アンタらがボスの言ってた変人なんスね!」

「誰が変人よ!」


 反射的に叫んだイザベラ。でもな、周りから見たら確かに変人なんだよな俺たち。

 そこんところをよく理解してるのか、ベニーは悪びれもせず続けた。


「ボスがそういうって、どんな奴らかと思ってたっスけど。予想以上っスね」


 彼の失礼な視線が、俺たち全員に向けられる。

 顔ぶれが珍妙だってのは否定しないが、予想以上ってのは失礼だろ。

 一言文句を言うべきだろうか?


 俺がそんなことを考えてた時、不意にダグが顔を上げた。


「……ねぇ。そのボスって、オイラたちを知ってるんだよね?」

「そうっスね」

「もしかして、エオウィンって名前だったりするの?」


 空気が、一瞬止まる。


「正解っス」


 あっさり肯定するベニー。

 直後、彼はグッと握りこぶしを作りながら告げる。


「ボスの顔なじみってことで、改めてお願いするっス。風の魔道具を引き渡して、オレについて来てほしいっス」


 顔なじみって関係じゃないけどな。

 イザベラなんか、いら立ちを隠そうともせずに眉をしかめてるぜ。


 でも、相手がエオウィンってことなら、ある意味話が早いかもしれないぜ。

 その事実にイザベラも気づいてるのか、彼女は少し考え込んだあと、鍋のほうへ視線を向けた。


 そこでは、ライラが水に浸かっている。

 ……いや、正確には“浸かっているように見える”。


 鍋の中で、葉を少し広げ、蔦をゆらゆらさせている姿は――

 どう見ても、風呂に入ってる人間みたいだ。


 正直、かなりシュールだ。


『……大丈夫なのか?』


 聞き澄ます耳(パーシブ・シェア)越しに、意識を向ける。


『ご迷惑をおかけしてすみません。いい水加減なので、明日には万全になっていると思います』


 その声を聞いて、皆が安堵の息をついた。


「……分かったわ」


 イザベラが、決断する。


「ライラの回復を待って、あなたについて行く。ただし、風の魔道具を渡すのはあの男と合流してから。その時に考えるわ」

「助かるっス!」


 そうして、夜は続いた。


 夕食を取り、選別衆から冷遇されていた人々にも食事を分け与えながら、ベニーから話を聞くことができた。


 エオウィンたちは南の大陸から西へ入り、すぐに選別衆と競い合うようになったこと。

 数日前、ようやく頭領ガルドを捕縛したこと。

 ガルドを尋問した結果、大陸の中心にある嵐には選別衆ですら近づけなかったこと。


「中心に行けば、魔導遺跡や魔導書……ソヴリンの本体があるかもしれないっス」


 その言葉に、イザベラは小さく頷いた。

 結局のところ、俺たちの目指す先はエオウィンのそれと交わるみたいだ。


 やがて、クゥが疲れきって眠りに落ち、皆も床に就く。


 ――そして、朝。


「クェーーーーッ!!」


 悲鳴のような声で目が覚めた。


「どうした!?」


 クゥが鍋を指さしている。

 ……空っぽだ。


「ライラがいない!」


 一斉に立ち上がる俺たち。


 まさかベニーが彼女を連れて行ったのか!?

 もしくは、選別衆で捕らえ損なったやつがいたのか?


 焦りで寝起きの頭が一気に冴えわたっていくぜ。


 だが事態は思っていたよりも穏便に済んだんだ。


『皆さん!』


 頭の中に元気な声が響いた。

 振り向くと、そこに立っていたのは――ライラだった。


 ツタでできた足でまっすぐ立ち、両腕に金属の欠片を山ほど抱えている。


『見てください! 自分で歩けるようになりましたよ!』


 俺より一回り大きくなったその姿。

 得意げに胸を張るライラを前に、俺はただ呆然と立ち尽くすしかなかったんだ。

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