第94話 予想以上の変人
夜になった。
選別衆の戦闘員の多くは拘束し、問題になりそうな風の魔道具もすべて回収したところで、俺たちはようやく一息つけたぜ。
遠くでは、嵐が唸っている。
だが、この一帯だけは不思議と静かだった。
そんな中、軽い足音が近づいてくる。
「改めて、挨拶するっス」
振り向くと、くすんだ金髪の男――ベニーが、両手を軽く上げながら歩み寄ってきた。
「オレはベニー。よろしくお願いするっス」
妙に人懐っこい調子だが、油断できる相手じゃない。
実際、さっきまで選別衆を翻弄していた張本人だ。
そんな彼は、挨拶もそこそこに、こちらが積み上げていた魔道具の山へと視線を向けた。
「で、さっそくなんスけど。その風の魔道具、全部オレに渡してほしいっス」
「……全部?」
イザベラが、ぴくりと眉を動かす。
「それはさすがに無理よ。危険なものだし、私たちにも必要になるかもしれない」
当然の反応だ。
だが、ベニーは困ったように頭をかいた。
「困るっスねぇ。でも、この大陸のソヴリンを倒すために、どうしても必要なんスよ」
「……ソヴリンを?」
思わず、声が漏れた。
西の大陸で、ソヴリン討伐を考えている人間がいる?
正直、信じがたい話だ。
「詳しく聞かせてくれ」
促すと、ベニーは少しだけ真面目な顔になった。
「オレをこの地に遣わせたボスがいるんス。あの人、西の大陸のソヴリンを倒すつもりで動いてるんスよ」
「へぇ。それは興味深い話ね」
イザベラが即座に言う。
その反応を見て、ベニーは小さく頷いた。
「愚かだって止めたりはしないんスね」
「そうね。むしろ応援したいくらいよ」
いつもの強気な口調。
だけど俺には、イザベラの表情に影があるように見えるぜ。
まぁ、さっきまで窮地に立たされてたワケだから、仕方ないのかもしれないな。
と、そんなイザベラを見てなにかを納得した様子のベニーが続ける。
「やっぱり、アンタらがボスの言ってた変人なんスね!」
「誰が変人よ!」
反射的に叫んだイザベラ。でもな、周りから見たら確かに変人なんだよな俺たち。
そこんところをよく理解してるのか、ベニーは悪びれもせず続けた。
「ボスがそういうって、どんな奴らかと思ってたっスけど。予想以上っスね」
彼の失礼な視線が、俺たち全員に向けられる。
顔ぶれが珍妙だってのは否定しないが、予想以上ってのは失礼だろ。
一言文句を言うべきだろうか?
俺がそんなことを考えてた時、不意にダグが顔を上げた。
「……ねぇ。そのボスって、オイラたちを知ってるんだよね?」
「そうっスね」
「もしかして、エオウィンって名前だったりするの?」
空気が、一瞬止まる。
「正解っス」
あっさり肯定するベニー。
直後、彼はグッと握りこぶしを作りながら告げる。
「ボスの顔なじみってことで、改めてお願いするっス。風の魔道具を引き渡して、オレについて来てほしいっス」
顔なじみって関係じゃないけどな。
イザベラなんか、いら立ちを隠そうともせずに眉をしかめてるぜ。
でも、相手がエオウィンってことなら、ある意味話が早いかもしれないぜ。
その事実にイザベラも気づいてるのか、彼女は少し考え込んだあと、鍋のほうへ視線を向けた。
そこでは、ライラが水に浸かっている。
……いや、正確には“浸かっているように見える”。
鍋の中で、葉を少し広げ、蔦をゆらゆらさせている姿は――
どう見ても、風呂に入ってる人間みたいだ。
正直、かなりシュールだ。
『……大丈夫なのか?』
聞き澄ます耳越しに、意識を向ける。
『ご迷惑をおかけしてすみません。いい水加減なので、明日には万全になっていると思います』
その声を聞いて、皆が安堵の息をついた。
「……分かったわ」
イザベラが、決断する。
「ライラの回復を待って、あなたについて行く。ただし、風の魔道具を渡すのはあの男と合流してから。その時に考えるわ」
「助かるっス!」
そうして、夜は続いた。
夕食を取り、選別衆から冷遇されていた人々にも食事を分け与えながら、ベニーから話を聞くことができた。
エオウィンたちは南の大陸から西へ入り、すぐに選別衆と競い合うようになったこと。
数日前、ようやく頭領ガルドを捕縛したこと。
ガルドを尋問した結果、大陸の中心にある嵐には選別衆ですら近づけなかったこと。
「中心に行けば、魔導遺跡や魔導書……ソヴリンの本体があるかもしれないっス」
その言葉に、イザベラは小さく頷いた。
結局のところ、俺たちの目指す先はエオウィンのそれと交わるみたいだ。
やがて、クゥが疲れきって眠りに落ち、皆も床に就く。
――そして、朝。
「クェーーーーッ!!」
悲鳴のような声で目が覚めた。
「どうした!?」
クゥが鍋を指さしている。
……空っぽだ。
「ライラがいない!」
一斉に立ち上がる俺たち。
まさかベニーが彼女を連れて行ったのか!?
もしくは、選別衆で捕らえ損なったやつがいたのか?
焦りで寝起きの頭が一気に冴えわたっていくぜ。
だが事態は思っていたよりも穏便に済んだんだ。
『皆さん!』
頭の中に元気な声が響いた。
振り向くと、そこに立っていたのは――ライラだった。
ツタでできた足でまっすぐ立ち、両腕に金属の欠片を山ほど抱えている。
『見てください! 自分で歩けるようになりましたよ!』
俺より一回り大きくなったその姿。
得意げに胸を張るライラを前に、俺はただ呆然と立ち尽くすしかなかったんだ。
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