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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
第4章:切り捨てる者

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第93話 即席の同盟

 刃の荒野に、沈黙が落ちていた。


 俺たちと選別衆。

 互いに間合いを保ち、いつでも踏み込める距離で睨み合っている。


 アレックスは前に立ち、拳を低く構えたまま動かない。

 全身の筋肉が、いつでも爆発できる状態に張り詰めているのが分かる。


 シグは少し後ろで、視線だけを動かしながら周囲の地形と敵の配置を確認していた。

 逃げ道、遮蔽物、風の向き。

 無意識のうちに、生き延びるための線を引いているんだろう。 


 クゥは鍋のそばから離れず、ライラを守るように身を縮めていた。

 羽はところどころ欠け、息も荒い。それでも、その位置だけは譲るつもりがないらしい。


 選別衆の連中も同じだ。

 誰もが風の魔道具に手をかけ、合図一つで放てる状態を保っている。

 焦りはない。だが、油断もない。


『……このままじゃ、ジリ貧だな』


 時間を稼げば、こちらが有利になるとは限らない。

 逆に相手が再編を終えれば、数で押し潰される。


 どう崩す?

 正面突破か?


 だが、ダグはまだ完全じゃない。

 ライラも、回復に集中させる必要がある。


 陽動作戦か?

 無理だ。この距離で睨み合っている時点で、そんな余裕はない。


 どう動くべきか、なにか使えるものはないか。

 必死で頭を巡らせた俺は、怪しげな動きでこちらに迫ってくる人影を見つけた。


 見たことのない男だ。

 そんな男が選別衆の背後を位置取り、意を決したように声を張り上げる。

 

「――おい」


 間の抜けた、だがやけに通る声。


 全員の視線が、一斉にそちらへ向く。


 金属の柱の影から、男が一人、歩み出てきた。

 くすんだ金髪。年の頃は十代半ばくらいか。

 この場の空気を読んでいないような、妙に軽い足取りで、緊張の輪の中に割って入ってくる。


 男は片手を上げた。


 握られているのは、小さな耳飾り。

 風に揺れて、鈍い光を返している。


「お前らの頭領は預かったっス」


 空気が、ぴしりと凍りついた。


「おとなしく言うことを聞いてもらうっスよ」


 ざわ、と選別衆の列が揺れる。


「……は?」

「今、なんて言った」

「ガルド様を、預かっただと?」


 男は肩をすくめ、気軽な調子で続ける。


「聞こえなかったっスか? そのガルドとかいう男を預かってるって言ってんス」


 耳飾りを指で弾く。

 それだけで、何人かの顔色が変わった。


 反応を見れば分かる。

 あれは間違いなく、ガルド本人の持ち物だ。


 そしてそのガルドという男が、選別衆の頭領らしい。


「……信用できるか」

「罠だ」

「おいガキ。それをどこで拾った? おもちゃじゃねぇんだぞ!」


 選別衆の反応は、男の想定と違ったらしい。


「……え?」


 金髪の男は、はっきりと驚いた顔をした。


「ちょ、待て待て。普通ここ、怯むところっスよね?」


 返事は冷たい。


「頭領が捕まる程度で揺らぐほど、俺たちは脆くない」

「この場の指揮は、俺らが執る」

「仕方ないっスねぇ。そういう態度で来るなら……」


 そう言った男が耳飾りを構えようとしたその瞬間。

 手を滑らせやがったんだ!


 落下する耳飾り。拾おうと身をかがめる男。


 次の瞬間。


 風が、うねった。


 選別衆の数人が同時に魔道具を起動する。

 圧縮された風が、一直線に男へ向かって放たれた。


「うわっ!?」


 男は反射的に身を引く。

 だが、完全には避けきれない。


『こりゃチャンスだな!』


 この男。何者かよくわからないが、味方にするなら今のうちだよな。


堅氷壁ソリッド・アイス・ウォール


 金髪の男の前に、氷の壁を展開する。

 叩きつけられた風が、氷を削りながら霧散した。


「助かった……って、え? なんスかこれ」

『アレックス。あの男に加勢するぞ!』

「あい分かった!」


 金髪男は一瞬目を丸くしたが、すぐに口角を上げた。


「もしかして、共闘ってやつっスか?」

「そういうことだぞ! 我輩はアレックス! よろしく頼む!」

「オレの名はベニーっス、そういうの嫌いじゃないっスよ!」


 そう告げたベニーが、耳飾りを構える。

 風が一薙ぎ、選別衆へと放たれた。


 即座に打ち消される風。

 だが、俺たちも見てるだけじゃないぜ!


『俺が援護する! アレックス、遠慮せず突っ込んでいいぞ!』

「任せたぞ!」


 こうして、即席の陣形ができあがった。即席の同盟だ。


 前衛にアレックス。

 側面をベニーが撹乱し、後方から俺が支援する。


 選別衆が一斉に動いた。

 だが、もう迷いはない。


「どけぇぇぇっ!!」


 アレックスが突っ込む。

 拳一つで、風ごと敵を叩き潰す。


隆突槍バンプ・ランス


 地面から突き上がる土の槍が、敵の足を奪う。


「オレも援護に回る感じで良いっスよね!?」


 ベニーは軽口を叩きながらも、的確に位置を変え、敵の注意を引きつけていく。

 思った以上に、場慣れしているな。


 数分も経たないうちに、状況は完全に逆転した。


 選別衆の戦闘員は、次々と地面に伏せ、武器を失っていく。

 統制は崩れ、抵抗の意思も薄れていた。


「……退け」

「これ以上は無理だ」


 最後の一人が膝をついたところで、ようやく場が静まる。


 荒野に残ったのは、荒い息と、倒れ伏す選別衆だけだった。


『……終わった、か』


 肩の力が、ようやく抜ける。


 ライラはまだ鍋の中で動かない。

 ダグも、回復したとはいえ万全じゃない。


 それでも。


『ひとまず、最悪は避けられたな』


 俺はそう思いながら、深く息を吐いた。


 問題は山積みだ。

 だが、今だけは――ほんの少しだけ、安堵してもいいだろう。


 ライラの入った鍋を囲み、一息つく俺たち。

 そんな俺たちを遠巻きに見るベニーの視線が、妙に印象的だぜ。

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