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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
第4章:切り捨てる者

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第91話 選択する権利はない

 ルースとアレックスが、風に呑まれて消えた直後だった。


 次に来たのは、逃げ場のない暴力。


 頭上から、叩きつけるような風が降りてきた。横殴りじゃない、上から。

 押さえつけるためだけに調整された、重たい風。


「――っ!」


 足が地面から浮き、次の瞬間、全身を金属の大地に縫い止められた。息を吸おうとすると、肺ごと押し潰される感覚がある。


 ダグが何か叫んだ。でも、言葉は風に千切れて届かない。クゥは必死に羽ばたこうとしていたけれど、小さな体ごと押さえ込まれている。


 これは戦闘じゃない。

 捕獲だ。


 風が弱まった時には、私たちはすでに囲まれていた。手足を拘束され、荷物を奪われ、抵抗する余地は何一つ残っていない。


 そのまま、歩かされた。


 夕方まで、ずっと。


 重たい荷物を持たされたまま、刃の荒野を進む。足を止めれば怒鳴られ、歩幅が乱れれば殴られる。休む権利は、与えられていなかった。


 疲労の中で、1つ気付いたことがある。

 それは、私たちの周りにいる人々のこと。


 憐れむような、嘲るような。そんな視線が私たちを刺してきたんだ。

 まるで、監視するように。


 今の私たちに、身を隠せるような場所はどこにもない。そう感じたわ。


 日が傾く頃には、腕の感覚がなくなっていた。ダグは歯を食いしばって耐えてる。クゥは声を出す力も残っていない。ライラは、クゥの背中で身動き一つ取ってない。


 やがて、野営地が設けられた。

 幕が張られ、焚き火が灯される。


 やっと休める――そう思った矢先だった。


「おい」


 声が、上から降ってくる。


 顔を上げると、十人ほどの男たちが立っていた。全員、同じような装備。同じ目。こちらを“物”として見る視線。


「話がある」


 地面に放り投げられたのは、私たちの荷物だった。


「ずいぶん魔導書を持ってるな。どこで手に入れた?」


 答えたくない。

 そんな気持ちを込めて睨み返すと、別の男が口を開く。


「この杖はなんだ? もしかして魔道具か? だったら使い方を教えろ」


 沈黙。

 男たちはそんな私の様子を楽しむように見下ろしてる。

 すると男の一人が、にやりと笑って、別の物を掲げた。


 ダグの、大願のナイフ。


「良いナイフだ。どこで手に入れた?」


 ダグの肩が、ぴくりと跳ねた。


 ナイフをちらつかせてきたということは、今私たちは脅しを受けているってことよね?

 彼らの手には、怪し気に光る指輪もはめられてるし。


 ここは大人しく従ってた方がいい。

 分かってはいたけど納得できなかった考えに、私はようやく従うことにする。


「答えるわ」


 男たちの視線が、集まる。


「でも、その代わりに。私たちを解放して」


 一瞬の静寂。


 そして、嘲るような笑い声が弾けた。


「ははっ! 聞いたか?」

「お前らに、選択する権利はないぞ」


 背筋が冷えた。

 理解した。

 これは交渉じゃない。

 服従の確認だ。


「分からせてやる必要があるな」


 男の一人が、私に近づいてくる。

 殴られる。そう思った瞬間――


「やめろ!」


 ダグが、前に出た。

 拳が振り上げられる。


 その時だった。


 びし、と空気が裂ける音。

 クゥの背中から、無数のツタが伸びてきたんだ。


 一瞬で、男たちの足に絡みつき、そのまま宙へと投げ返す。


「なっ――!」


 地面に叩きつけられる男たち。


 ライラだ。


 彼女は、ずっと静観していた。耐えていた。限界まで。

 だけど、手を出してしまったからには、穏便に話が進むはずがない。


 次の瞬間、怒号が飛び交った。


「囲め!」


 男たちが一斉に動き、クゥとライラを取り囲む。


「みんな、下がって!」


 叫んだ。


 でも、ダグは走り出していた。


 私を守るために。

 ライラを助けるために。


 ――間に合わない。


 クゥごと地面に押さえつけられたライラ。

 必死にツタを使って男たちを追い払おうとしてるけど、ナイフ相手には不利に決まってる!


 私も、助けに行かなくちゃ。


 分かってるのに。

 身体が動かないのは、どうして?

 私たちは、ソヴリンを倒してきたのよ?


 こんなこと、今考えてる場合じゃないのに。

 だからこそ、思い知らされる。


 今まで、ルースにどれだけ助けてもらっていたのかを。


 きっとこれは、罰なのかもしれない。

 彼に助けられてきたのに。

 仲間として、一緒に歩んできたのに。


 彼のことを、少しだけ怪しいと思ってしまってたから。


 ―――刃が振るわれ、ツタが断ち切られる。


 直後、私は信じられないものを目にしたんだ。


 男の頭上に高々と掲げられたのは、ぐったりと動かなくなったライラ。

 彼女は根元から切り裂かれ、クゥから剝がされてしまってる。


「ライラ!」


 地面に放り捨てられた小さな体は、動かない。


 ダグが、怒りのまま男たちに飛びかかる。

 次の瞬間、殴打の音が重なった。


 倒れても、蹴られる。

 立ち上がろうとして、また殴られる。


 クゥが泣きながら、ライラに覆いかぶさる。

 その背中に、容赦なく暴力が落ちる。


 私は、動けなかった。


 声も、出なかった。


 ただ、迫ってくる男を見上げる。


 この光景を、止める方法がない。


 正しい判断なんて、どこにもない。


 だから――


「やめて……」


 声が、震えた。


「もう、やめてよ」


 そう呟くのが、精一杯だった。

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