表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
第4章:切り捨てる者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/103

第90話 借りができた

 えらい遠くまで飛ばされちまったぜ。


 そう呟きながら、俺は仰向けのまま空を見上げた。

 西の大陸の空は相変わらず鈍く光っていて、金属の砂塵が風に乗って流れていくのが見える。


 ……静かだ。


 さっきまでの緊張感も全部どこかに吹き飛ばされたみたいだな。


「イザベラ……ダグ……クゥ」


 名前を呼んでみても、返事はない。

 嫌な予感を振り払うように、俺は体を起こした。


 全身が痛む。とりあえずリカバリーで回復しておこう。


 その次は、アレックスだ。


 あの風――狙いは間違いなく、彼だった。

 俺よりも、ずっと遠くまで吹き飛ばされているはずだ。


 見通す瞳(フォーキャスト)を使い、地表をなぞるように視線を走らせる。

 鋭利な金属の地面が連なり、その向こう――


「……いた」


 少し離れた場所。

 地面に横たわる、大きな影。


 駆け寄った瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。

 アレックスは、動いていなかった。


 全身に無数の傷。

 鱗の隙間から滲む血が、金属の地面に黒く広がっている。


「おい……アレックス。冗談だろ」


 呼びかけても、返事はない。


 そのすぐそばに、もう一人――

 シグが立っていた。


 彼女は無言で、足元の鋭利な刃に腕の拘束を引っかけ、あっさりとロープを断ち切る。

 その動きに、迷いはない。


 一瞬だけ、視線が交差した。


 逃げる。

 そう決めた目だった。


「……行けよ」


 俺は、そう言った。


 彼女は何も答えず、そのまま背を向けて走り去っていく。

 金属の荒野に、足音だけが遠ざかっていった。


 今は、それでいい。


 俺はアレックスの傍に膝をつき、深く息を吸う。


「大丈夫だ。まだ……間に合う」


 そう言い聞かせながら、俺は静かに呪文を紡いだ。


「リカバリー」


 淡い光が、傷だらけの体を包み込んでいく。


 淡い光が消え、アレックスの身体から血の匂いが薄れていく。

 鱗の割れも、深く抉れていた傷も、ほとんど塞がっていた。


「……よし次だ。欠乏と結合(ユニオン・ラック)


 視界が揺らぎ、感覚が二重になる。

 重たい身体。強靭な筋肉。鰓を通る空気の感触。

 アレックスの身体と、意識が重なった。


『……アレックス。聞こえるか』


 返事はない。

 だが、ほんの一拍遅れて――


『……む? これは……ルース殿か?』


 意識が、繋がった。


『ああ。目を覚ませ。イザベラたちを助けに行くぞ!』

「……状況は理解した」


 共有している身体が、勢いよく起き上がろうとする。

 だが、その直前。


 カツン、と金属音が鳴った。


 視線を向けると、そこに立っていたのは――


『……戻って来たのか?』


 シグだった。


 逃げたはずの女が、刃の荒野を踏みしめ、こちらを見ている。


「用があるのなら手短に頼む。我輩たちは今、急いでるのでな!」

「分かってる」


 シグは短くそう答え、周囲を一瞥した。


「さっきの連中の話だ。聞きたいだろ」


 俺とアレックスの意識が、同時に彼女へ向く。


「やつらは選別衆せんべつしゅうだ」

「選別……?」

「生きる価値のある人間を選ぶ連中さ。頭領はガルドって男だ」


 その名前に、嫌な重みを感じる。


「やつらは風の魔道具で嵐の中を行き来できる」

『……あの中を? マジかよ』

「つまり、嵐を支配しているのだな!」

「正確には、利用してる。だが結果は同じだ」


 シグは淡々と続けた。


「西の大陸じゃ、実質的な支配者だよ。逆らう奴は、嵐に投げ込まれる」


 なるほどな。

 奇襲をしかけられた理由も、はっきりしてきた。

 そして、イザベラたちが危険だってこともな。


『あまり時間はないらしいぜ』

「うむ! 良い情報を聞けた。助かったぞ! 礼として、我輩の靴をやろう!」

「余計なお世話だ!」


 アレックスの行動に意表をつかれたのか、シグは声を荒げる。

 が、そんな彼女の返答を真正面から受け止めたアレックスは、ただ首をかしげるだけだった。


「靴が必要そうに見えるのだが?」


 そこで、ようやく気づいた。


 シグの足元――

 鋭利な地面に切られ、血で真っ赤に染まっている。


「ほら。遠慮することはないぞ!」


 アレックスは、迷いなく自分の靴を脱いだ。


「鉄でできている。しばらくは持つだろう」

「なっ……!」

「我輩は強い。裸足でも問題はないのだ」


 シグは唇を噛み、数秒沈黙した後、乱暴に靴を受け取った。


「……馬鹿かよ」


 ポツリとつぶやくシグ。

 まぁ、わざわざそれを拾って話を続ける必要はないよな。

 今は時間が惜しい。


「よし! 行くぞ!」

「待て! 私も連れていけ」

『は? 突然どうしたんだ?』


 そんな俺の声は聞こえてないはずなのに、シグはまるで言い訳をするように言ったんだ。


「借りができたからだ」

「借り?」


 彼女は、アレックスの身体をちらりと見た。


「風で吹き飛ばされた時……こいつが、私を庇った。全身でな」


 その言葉に、アレックスが豪快に笑う。


「フハハハハ。なに、あの程度で済んだのだ。問題はない」


 思わずため息が零れたぜ。


『お人よしにも程があるだろ』

「元々奴らのことは気に食わない。協力するのは今回だけだからな!」

「それはありがたい! この地のことに詳しい者がいてくれるのは心強いからな!」


 俺はそのやり取りを眺めながら、肩をすくめる。


 アレックスは本気でそう思ってるんだよな。

 シグからすると、慣れない対応をされて調子が狂ってるはずだ。


「我輩たち、良い仲間になれそうだな!」

「なるわけないだろ!」


 叫ぶその声にさっきほどの棘はなかった。


『よし』


 俺は気持ちを切り替える。


『イザベラたちを追うぞ。あまり時間がない』

「承知した。ルース殿、方角は?」

『……今から試す』


 これは好機と、俺は耳に意識を集中させた。


聞き取る耳(パーシバー)……いや』


 新しく得た力を、慎重に選ぶ。


聞き澄ます耳(パーシブ・シェア)


 これで、欠乏と結合(ユニオン・ラック)中の俺の声がシグにも聞こえるはずだ。


 頭の中に響く声に慣れない様子のシグは置いておいて、俺は続けて目を凝らすことにした。

 目標は当然、先に進み続けてる選別衆の動向確認だ。


『見つけた』

「よし! ではゆくぞ!」

「えっ? ひゃ! き、急に抱えるなっ!!」


 おい、いまシグが悲鳴みたいな高い声出さなかったか?

 まぁ、気のせいだろ。

 ずっとクールな感じで貫いて来てた彼女が、そんなかわいらしい声出すハズ……。


 顔が真っ赤になってるのは、見なかったことにしておこう。


 まぁ、そんなことを話している暇なんか全然なかったんだがな。


 思ってた以上に、奴らの進行速度が速い。

 ようやく追いついたころには、そろそろ日が暮れかかる時間になってたぜ。


 野営でもするんだろう。

 陣形を整えて幕を張り始めた選別衆。


 様子をうかがうために近くで身を潜めてた俺たちは、イザベラたちの居場所を探ることに苦戦しちまった。


 かなり人数がいるからな。

 見通す瞳(フォーキャスト)で一人一人確認するのは骨が折れるぜ。


 そんなときに便利なのが、聞き取る耳(パーシバー)だ。


 雑踏の中から、聞きなれた皆の声を探せばいいんだからな。


 そして俺たちの耳がその声を拾ったんだ。


 か細く、震えているその声を。


「やめて……もうやめてよ」

面白いと思ったらいいねとブックマークをお願いします。

更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ