第84話 妥協点
3体目のソヴリン:ゲンブを討伐した翌日。
すでに真上まで登った日差しの下で、俺たちは教会の修復作業にあたっていた。
教会の子供達も含めて大勢が参加してるからな。
あっという間に修復できそうだぜ。
人数でいうと、すでに30人は超えてるぜ。
ザハンの話じゃ、俺たちとゲンブの戦いは大陸中から見ることができたらしいから。
その結末を見て、各地に散らばってた人々が集結しつつあるんだとさ。
どうしてこの教会に集まってくるのか。
そんなことは、いちいち説明する必要ないよな。
「フハハハハッ!! 我輩の方が2本多く運べたぞ!」
「チクショー!! セリス! ルファ! 遅いぞ!!」
「ごめんドレク」
「ちょっとドレク! あんまりセリスたちに無理させないでよ! 大丈夫? セリス?」
「うん。ワタシは大丈夫」
賑やかな子供達を横目に、大人たちは黙々と作業を進めてる。
全員疲れてるはずなんだけどな。
弱音を吐く奴は誰もいないぜ。
「疲れたクェ~」
「お疲れ、クゥ。いったん休憩したら?」
「休憩していいの?」
「オイラは良いと思うけど。急ぎで運ばなきゃいけないものがあるの?」
「ないはず!」
「だったらいいんじゃない?」
ダグの言葉にニンマリして見せたクゥは、その場に座り込んだ。
補修に使う資材を運ぶためにあちこち飛び回ってたからな。ちょっとくらい許してやろう。
「ところで、ルースはどこにいるんだっクェ?」
「ん? ルースならオイラと欠乏と結合してるよ」
「そ、そうなんだ」
『なんだ? 俺に用でもあるのか? でもなぁ、俺も今忙しいから後にしてくれって伝えてくれよ』
「えっと、ルースは建材づくりで忙しいから、後にしてほしいって言ってるよ」
「分かったクェ」
納得して頷くクゥ。
まぁ、ダグが両手を動かしてるのを見てるから、納得せざるを得ないんだろうけどな。
修復をするために使う木材を、東にあるマングローブの木で作ってるんだが。
これがまたウネウネ曲がってて使いにくいんだよ。
それをある程度使える形に整えてるんだ。
『あとどれくらい必要なんだろうな?』
「分かんない。そろそろ大丈夫かもだね。ちょっと聞いてみる?」
『そのほうが良いと思うぜ。余分に作っても困るだろ』
手を止めたダグが向かったのは、教会の裏手にある小さな庭だ。
そこに、イザベラやザハンが集まってなにやら話し合ってる。
「ねぇイザベラ。今話せる?」
「ん。大丈夫よ」
「……」
イザベラの穏やかな表情とは裏腹に、険しい顔つきのザハン。
一体何の話をしてたんだ?
もしかして、また喧嘩してないだろうな。
俺の思考を余所に、ダグが材木の量について意見を求める。
「そうね。少し増築するって言ってたから、あっと10本分くらいお願いしたいかも」
「分かったよ。あと10本だね」
「よろしくね」
やるべきことが明確になり、そのまま作業に戻ろうとしたその時。
俺たちの耳にザハンの声が響いてきた。
「本気で、嬢ちゃんたちだけで行くつもりか?」
「ん?」
「……ちょっとザハンさん」
「悪いな。でも、無関係ってワケじゃねぇだろ?」
立ち去ろうとしてたダグが振り向くと、ザハンとイザベラの視線とかち合った。
間違いなく、俺たちのこれからについて話してるみたいだな。
「イザベラ?」
「……西の大陸に、彼らも着いて来るって言いだしてるのよ」
『マジか!』
「手伝ってくれるの!?」
「ほら見ろ嬢ちゃん。ダグも喜んでるじゃねぇか! やっぱり俺たちも―――」
「気持ちは嬉しいですが、それはザハンさん達の役割じゃないと思います」
「でもなぁ。やっぱり子供だけを送り出すのは―――」
「ですから、私たちは子供じゃないんです」
少し前のイザベラなら、喜んで受け入れそうなものなのに。
彼女の中で、考えが変わったんだろうか?
と、そんなことを考えてるとき、背後から伸びてきた大きな手が、ダグの肩にそっと触れた。
咄嗟に見上げると、真剣な表情のアレックスが立ってる。
「その話。我輩も混ぜてはもらえぬか?」
「アレックスさんまで」
「いいぞアレックス! お前からも言ってやれ!」
「いくらアレックスさんのお願いでも―――」
「ザハン殿。我輩たちが守るべきは、あの子たちの笑顔ではないだろうか?」
そう言いながらザハンの元まで歩み寄ったアレックスは、背後を振り返った。
視線の先には、不安そうな瞳をした子供たちがいる。
「っ……」
「この地においての希望があの子らなのだと、我輩は思っている」
「そりゃそうだが……でもなぁアレックス。嬢ちゃんたちだって、俺たちからすりゃ子供だぜ?」
「そうだ。だが、イザベラ殿たちは自力でここまでやって来た。この先もきっと、自力で道を切り開いてゆけるはずだ。なによりも―――」
そこで一旦言葉を切ったアレックスは、遠く霧氷山の頂を見上げてつづけたんだ。
「彼らの持つ覚悟とやらを、我輩はあの地で見せてもらったと思っている」
そう言って視線を降ろしたアレックスを、ザハンが鋭い視線で貫いた。
そりゃそうだ。
この言い方じゃ、ザハンたちに覚悟がないって言ってるようなもんだからな。
「いくら覚悟を決めてたところで、無謀なことに変わりはねぇだろ」
「そうであるな。だが、子守りのために同行するという考えでは、到底彼女らについて行けまいぞ」
なるほど、アレックスの言ってる意味が分かったぜ。
今回まさに、ゲンブを倒すために“それ”が必要だったからな。
ソヴリン討伐に後ろ向きな大人達じゃ、ついてこれないかもしれない。
きっと、アレックスはそう言いたいんだろう。
「じゃあなんだ、お前さんは助けてもらった恩も返さずに、ただ見送れって言うのか?」
「そうだ」
「おいおい、それじゃさすがに俺たちの気が収まらないぜ」
「であろうな。だから、これは我輩からの提案だ」
我輩が、イザベラたちとともに行く!
ハッキリと宣言したアレックスを、ザハンは呆れたように見上げる。
「おいおい、俺たちには行くなって言っておいて、お前さんは行くつもりなのかよ」
「そうだ」
「へぇ。一応聞いておこう。そう判断した理由はあるのか?」
「……長い間。我輩はあの子たちの命を預かって来た。そうすることが、この地で生きていくうえで最も重要なことだったからだ。だが、今はもう違うと思っている」
「はぁ!?」
「ザハン殿が。それから多くの大人たちが戻って来たのだから。あの子たちの命を預けることができる。託すことができる」
「俺たちに託して、お前さんは死地に赴くって言うのか?」
「そうだ。それが我輩の成すべきこと。役割なのだと思うのだ!」
「アレックス、どこかに行っちゃうの?」
話に割って入るように口を開いたのは、茶髪の女の子セリスだ。
以前、喧嘩でドレクに泣かされてた子だな。
今も目じりに涙をため込んでるぜ。
「そうだぞセリス。我輩は、ソヴリンを倒すために旅に出るのだ」
「ほ、本気かよ! じゃあ俺も一緒に」
「何言ってんのドレク! ウチらが着いていけるはずないでしょ!」
「うるせぇぞミルナ! そんなの、行ってみないと分からねぇだろ!」
「アレックスが言っちゃうと、僕、寂しいよ」
「うわぁぁぁぁぁんんなぁぁぁぁぁ」
口々に騒ぎ出す子供たち。
終いには、アモリが泣き始めちまったぜ。
抱きかかえられて、教会の中に運ばれるアモリ。
それでも、鎮まることなく叫び始める子供たち。
誰かこの場を納めてくれよ。
なんて俺が思った時。
意外にも、涙をこらえてたセリスがアレックスに向かって抱き着いた。
そして、他の子たちが黙ってしまうほどの大声で叫ぶ。
「怖かった! ワタシ、怖かったのぉ!!」
「セリス」
「アレックスが、みんなが、戻ってこないかもって……怖かったのぉ!!」
「大丈夫だぞ。こうして戻って来たではないか」
「分かってる! 帰って来た時、ホントに嬉しかったんだよぅ」
「あぁ」
「それなのに、またどっかに行っちゃうの?」
「……そのつもりだ」
「どうしてぇ?」
「それは、まだソヴリンに苦しめられている人々を助け出すためだぞ」
「まだ、怖がってる人がいるの?」
「そうだ」
「……そっか。分かった」
「分かってくれるのか?」
「うん。アレックス、強いから。それに……」
鼻をすすりながらアレックスから頭を話したセリスは、おもむろにザハンに目を向けた。
「ワタシ、皆から勇気をもらえるから。怖がってる人、助けてあげて」
「セリス……君は本当に優しい子だ」
「えへへ」
「セリスだけズルいぞ!」
「そうよ!!」
あっという間に子供たちに囲われるアレックス。
そんな彼を、やれやれという感じで見やったイザベラが、こう言ってその場を締めくくった。
「取り合えず、妥協点が見つかったってことで良いのかな?」
「そうらしいな」
それ以上、俺たちがこの件で揉めることはなかった。
多分皆が同じことを考えてたんだろう。別れの日まで時間を無駄にしたくない、と。
そして、月日が流れる。
2か月後。いざ、出立の日だぜ!
面白いと思ったらいいねとブックマークをお願いします。
更新の励みになります!




