第83話 心震える体験
「あ、ルースが目覚めたよ!」
「おぉ! ルース殿! 意識が戻って良かったぞ!」
俺を覗き込みながら笑顔を見せるダグとアレックス。
どうやら、現実に戻ってこれたらしい。
それは良いんだが、キリンの言葉を最後まで聞けなかったのが気がかりだぜ。
まぁ、目覚めてしまったもんは仕方ねぇな。
「っていうか、寒いと思ったらまだ魔導遺跡にいるのかよ。早く教会に戻ろうぜ!」
「オイラもそうしたいけどね。イザベラが、調べたいことがあるって」
そう言ったダグが、奥に見える半開きの扉を指さした。
隙間からクゥが頭を覗かせて翼を振ってきてる。
「なんかあったのか?」
「それが、大量の本が保管されていたのだぞ!」
「そりゃそうか。ここは魔導遺跡だもんな」
よくよく考えてみれば、今までは遺跡の中をゆっくり探索する余裕なんか無かったからな。
鉄の魔導遺跡に至っては、完全に崩れちまったし。
魔術や魔導書について調べるには、うってつけの場所だろう。
「俺達も行こうぜ」
「うん」
小さな花の傍から離れた俺たちは、そのまま扉の方に向かう。
随分と重たそうな扉なんだけど、アレックスが軽々と全開にしちまったよ。
「イザベラ! ルースが起きたクェど、どうする?」
「もう少し寝坊助だと思ってたんだけど。まぁ良いわ。とりあえずこれくらいあれば良いでしょ」
そう言ったイザベラは、ぎゅうぎゅうに本を詰め込んだカゴをアレックスに差し出した。
「これは?」
「これを持って山を降りるわよ」
「なんと! これだけの書物を持って帰るのであるか!? それはさすがに……」
「使えそうなものを中心に選んだけど、子供達へのお土産も入ってるからね」
「なるほど! そういう事であれば我輩! 責任をもって運ぶとしよう!」
「言っておくけど、水に漬けないでよね」
「はっ!? たしかに、書物を水につけるのはマズイな……」
うんうんと納得するアレックスを横目に見た彼女は、流れるような目つきで俺とダグに視線を移した。
「それじゃ、私とクゥは一足先に教会に戻っておくから。3人は仲良く山を下りてきてね」
「は?」
「イザベラ、急いでるの?」
「う~ん。急いでるって言うより、ちょっと女子だけで話したいことがあるんだよね」
クゥの頭を撫で始めるイザベラ。
その視線の先に映ってるのは、クゥというよりライラに見えるぜ。
何か、気になることでもあったんだろう。
ここは要望に沿ってやるのが、男なのかもしれねぇな。
「まぁ、そういう事なら仕方ねぇか。アレックス一人に丸投げも悪いし。ダグ、本の入ったカゴを引けるソリでも作ろうぜ!」
「あ! それいいね! それだったら、アレックスも運びやすいでしょ?」
「そうだな!」
そんなこんなで飛び去って行くイザベラたちを見送った俺たちは、その足で遺跡を後にした。
焚火のあった洞窟を抜けて、空の下に躍り出る。
カゴを乗せれるだけのソリを作るなんてのは、ダグと欠乏と結合してればあっという間だぜ。
「では! しっかりと掴まるのだぞ!!」
『周囲の警戒は俺に任せろ! ダグはカゴがひっくり返らないように見張っとけよな!』
「まかせて!」
イザベラたちが飛び立ってから半刻くらいか。
短い掛け声とともに山下りを始めた俺たちは、日が落ち切った頃に教会へとたどり着いたんだ。
ライトアップの魔術を使えてよかったぜ。
ゲンブのせいで水浸しになってた湖の周りも、今はすっかり元に戻ってる。
そしてもう二度と、この大陸がゲンブの水に浸されることは無いはずだ。
あとは、教会から逃げ出した子供たちの安否だけが気がかりなワケだが。
日が落ちた頃には、俺たちの頭の中から不安は消え去ってたぜ。
なぜかって?
教会を照らす灯りが、ちらほらと周囲から集まってきてるのが見えたからさ。
そして、遠くから聞こえる賑やかな声が、その灯りを穏やかに包んでくれてる。
この地に住む人々が命がけで守っていたはずの希望。
温かな光が、日が沈んでいくにつれて染み出してきてるような。
そんな感覚に、俺は襲われちまったぜ。
「あ! 帰って来たよ!! おかえり~!!」
教会の窓から顔を出し、けらけらと笑う子供達。
その姿を目にした瞬間、アレックスがソリから手を放して走り出しちまった。
もしかしたらおとぎ話の中の勇者たちも、こんな気持ちだったのかもしれないよな。
人々のために戦い。
守った人々に笑顔で出迎えられる。
それが、これほどまでに心震える体験だったなんて。
俺は今まで、知らなかったぜ。
そりゃ、世界だって救いたくもなるはずだ。
「なんか、オイラ、泣きそうになって来たよ」
『泣いたっていいんだぜ? なんなら、灯りも消そうか?』
「ううん。大丈夫だよ。ちゃんと見てたいから。この光景もオイラ達が勝ち取ったものだしね」
言うようになったぜ。
ま、その通りだから反論なんてしないけど。
その日の夜、俺たちは顔も名前も知らない人々に勇者だと讃えられながら、宴を楽しんだのだった。
面白いと思ったらいいねとブックマークをお願いします。
更新の励みになります!




