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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
3章:朽果てる者

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第82話 3体目:朽果てる者

 夕刻を待ち、魔導遺跡に入った俺たちは例の氷樹の元に向かう。


 なんとなく予想はしてたけど、僧侶はまだ姿を見せてないぜ。

 それから数分くらい待った後だろうか、氷の中から彼女が出てきた。


「あら、待たせてしまったようですね」

「待っててくれるなんて、思ってもなかったわよ」

「そうですか。少し気になる言い方ですが、待つ余裕があったという意味で受け取っておきましょう」


 言いながら、ゆっくりと腰を降ろした僧侶が、静かな瞳で俺たちを見渡してくる。


「私がどのような存在なのか、理解していただけたようですね」

「そうね。あなたに恨みはないけど、遠慮はしないから」

「ふふふ。とても安心です」

「ホントに良いのクェ?」

「良いのですよ。今日という日を迎えるために、私は待ち続けていたのですから」


 そうなのか、と納得できた奴なんかこの場に誰もいなかったはずだ。


 なぜって?

 背筋を伸ばして座ってる僧侶が、一筋の涙をこぼしたんだから。


 垂れた雫が、彼女の足元に小さな染みを作る。

 それがまるで、微かな未練のように俺には見えたぜ。


「失礼しました。決して、やせ我慢をしているわけでは無いのですよ。ただ、私たちの守れなかった世界にも、希望が残っていたのだと。そう思えてしまっただけですから」

「……」

躊躇ためらいは要りません。一思いに、やってください」


 安らかな表情のまま瞳を閉じた彼女に促されるように、俺はイザベラと欠乏と結合(ユニオン・ラック)する。


 そして、魔導書:浄界じょうかいに宿っていた神秘を発動した。


 究極魔導:悲嘆の浄界(アケローン)


 遺跡を形作っている岩壁がみるみるうちに形を変え、ゴーレムへと変貌を遂げていく。

 巨大な体と平べったい手が特徴だ。


 そんなゴーレムの両手で、座り続けている僧侶をそっと包み込む。


 冷たい静寂のせいで、時間が経つのを忘れちまったような感覚だぜ。

 遠くで響く鳥の鳴き声が聞こえ、ようやく我に返った俺たち。


 ゆっくりと開かれたゴーレムの手の中を覗き込んだ俺たちは見たんだ。

 僧侶が座っていた場所に咲いている、小さな花を。


 直後、花から2つの光が飛び上がる。


 咄嗟に空を見上げたイザベラたち。

 だが俺だけは、別の物に目を奪われちまったんだ。


 それは、まっすぐ俺に向かって飛び込んでくる光。

 唐突に、視界が真っ白に染め上げられていく。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 3度目ともなれば慣れてくるよな。

 なんなら、待ちわびてたくらいだぜ。


 心の中でそう呟いた俺は、ふぅっと息を吐いてから言葉を選んだ。


「ようやく、アンタの名前を知ることができたぜ。もっと早く名乗ってくれてもよかったんじゃないか? キリン様」

「私が何者なのかを知ったところで、あなたがするべきことは何も変わらないのですよ? それよりも、今回は随分と手際よく討伐することができたようですね。やはり、私の加護があったおかげでしょうか」

「逆だろ! あんたが封印を解いちまったせいで、大変だったんだからな!」

「邪魔をするよりはマシだったと思うのですが。まぁ、そんなことより、ご褒美のお時間ですよ? いつもなら、食い気味に要求してきてましたよね?」

「食い気味って程でもなかっただろ……」


 なんていいつつ、俺はその先を続けることができなかった。


 聞きたいことがないわけじゃない。

 むしろ、僧侶から聞いたことも含めて、色々と問いただしたいことだらけだ。


 だけど。


 知りたいと思う自分と、知らないままでいたいという自分が、混ざり始めてるんだ。


「見ぬもの清し、言わぬが花。なんて言葉もあるくらいですからね」

「何が言いたいんだよ」

「知ることで淀んだり、教えることで濁らせてしまうこともあるのだという事です」


 分かりにくい言い方しやがって。

 このまま、キリンの調子に乗せられるのは癪だぜ。


「前回と同じく4つまで。質問していいんだよな?」

「答えるのは1つだけですけどね?」

「分かってるさ。まず1つ目だ。大地の女神キリン様はなぜ、ゲンブを討伐しなかったんだ?」

「それは皮肉のつもりですか? 秘密ですよ」

「皮肉のつもりはないけどな。それじゃあ2つ目。騎士や魔術師、そして僧侶に宿ってた暴虐とか貪欲とか怠惰のことを、アンタは知ってたのか?」

「秘密ですね」

「次、3つ目だ。他の大陸の魔導遺跡を作ったのも、アンタなのか?」

「秘密です」

「そうか」


 案の定、この3つの質問は秘密だよな。

 残す質問はあと1つ。


 何を聞くべきか少し考えた俺は、意を決して口を開いた。


「……最後、4つ目だ。僧侶が流した涙の意味を、アンタは知ってるのか?」

「……知っていますよ。内容は教えることはできませんけれど」

「そうか。まぁ、内容まで話す時間はどうせないんだろ?」

「その通りです。ですが、そう遠くない未来に、あなたは知ることになると思います」

「ならなおさら、今聞く必要はないようだな」


 そう言いながら、意識が靄に呑まれるのを待とうとした俺。

 だけど、いつものように靄が広がってこない。

 どうしたんだ?


「そろそろ時間じゃないのか?」

「ずいぶんとせっかちになってしまったようですね。なにか心変わりでもあったのですか?」

「そりゃ俺のセリフだぜ」

「ふふふ。まぁ良いでしょう。少しだけ、驚いていただけですから」

「驚いてた?」

「はい。ですが、その選択を私は否定しませんよ」


 キリンのその言葉を皮切りに、靄が俺を包み始める。


 意識が飛ぶ最後の最後に、俺の耳が彼女の呟きを捉えた。


「あの者たちと共に歩む中で知れると良いですね。その方がきっと、あなたの―――」

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