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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
3章:朽果てる者

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第77話 淀みが消えた

 ゲンブとの戦い。

 これは――私の戦いだ。


 けれど、きっと彼らの戦いでもある。

 長く続いた停滞が、心の奥の闘志を凍らせていた。

 その痛みを、今なら少し分かる。


 スザク討伐に失敗し、父さんを失った日。

 私に残っていたのは、執念だけだった。

 守りたいものをすべて失い、何も見えなくなって。

 ひとりで突っ走って、失敗して、動けなくなった――その時、彼が現れた。


 ルース。

 あの時、あなたに救われた。

 私がまだ「生きたい」と願っていいと気づかせてくれた。


 家、食卓、服。

 そんな小さな夢の先に、私は“平和な世界”を見た。

 その願いは、私も、彼も、そして――アレックスも同じ。


 吹雪の向こうで、世界が唸る。

 ゲンブの咆哮が山を割り、霧氷山の頂へと這い上がっていく。

 クゥの背にしがみつく私たちは、氷の風に煽られながら空へ押し上げられた。


 空気が違う。

 地底の湿り気は消え、代わりに凍てつく澄気が肺を刺す。


「クゥ!! 右の方! 二人の近くに寄って!!」

「分かった!!」


 私の指さした先。

 吹雪の幕の中、甲羅から溢れる滝を登るアレックスをクゥが捉える。


『あれを登れるのか。すげぇな、アレックスは』

「あれくらいできないと、ここまで登ってこれなかったでしょ。それより、準備しててよ!」

『分かってるさ!』


 そうして、滝を登り切り甲羅の上に降り立った2人に向けて声をかける。


「アレックス!! 力を貸しなさい!」

「イザベラ殿!?」


 彼がこちらを見上げたのを見て、私はクゥの背中から飛び降りた!


「なっ!? 危ないぞ!?」

「イザベラ!?」


 そう言って慌てる2人に向けて跳び込んだ私を、アレックスは軽々と受け止めてくれた。


「危なくないわよ。だって、あなたなら受け止めれるでしょ?」

「それはそうだが」

「それじゃあこのまま行くわよ! ダグはクゥの背中から援護してくれる?」

「イザベラ、何をするつもりなの?」

「ゲンブを、倒すのよ!」


 私が構えた杖にセットされた魔導書をみて、ダグは大きく頷く。


「クゥ! よろしくね!」

「クェ!!」


 再び空へと舞い上がっていくダグたちを見送って、私はアレックスの背中にしがみついた。


「それじゃあ、甲羅の水を全部塞いでいくわよ!」

「水を塞ぐ!? そのようなこと、どうやって」

「氷で栓をしちゃえばいいでしょ! それより、時間がないから急いで!」

「よくわからぬが、任せても良いのだな!?」

「もちろん!」


 私の返事を皮切りに、アレックスが走り出す。

 目指すは一番近い水の吹き出し口!


『走りじゃさすがに速度が落ちるみたいだな』

「水を差してる場合? さぁ! やるわよ!」


 グングンと近づく水柱にめがけて精一杯杖を突きだした私は、頭の中のルースと一緒に叫ぶ!


堅氷壁ソリッド・アイス・ウォール!』

書き写す喉(トラン・スクライブ)!!」


 直後、吹き上げる水流に発生した氷壁の中に、聖浄の力が宿る!

 元になったのは当然、アレックスの持ってる聖浄のフキンよ!


「こ、これは!?」

「さぁアレックス!! この氷を水の吹き出し口に差し込んで!!」

「任せろ!!」


 激しい水流に押し流されてしまいそうな氷壁を掴み上げたアレックスは、流れに逆らって振り下ろした!


 激しい衝撃音と飛沫を上げて、氷壁が甲羅の隙間に突き刺さる!


「よし! 次よ!!」

「これで本当にゲンブを倒せるのか!?」

「倒せないわ! でもやるのよ!」

「どういうことだ!? 倒せないのであれば、意味が―――」

「倒すことは愚かなことなんじゃなかったの?」

「そ、それは……」

『おいおい、仲直りするんじゃなかったのかよ?』

「いいえ、ごめんなさい。喧嘩したいんじゃなくて―――私、気づいたの。ゲンブを倒したい理由。それは、皆が安心して暮らせる世界を作りたいからなんだって」

「我輩も同じだぞ!!」

「そうよね。だから、ゲンブを倒すことに反対してた。願いの先は同じなのに、目の前にある現実が違うから、私とあなたは見てるものがズレてたのよ」


 そう言ってる間にも、次の水柱が近づいてくる。

 頭上では、私たちに狙いを定める蛇を、クゥとダグが牽制してくれてるみたい。


「もう一度!! 行くわよ!!」


 先ほどと同じ手順で、聖浄の力を宿した氷の塊を作り上げ、それをアレックスが甲羅に叩きつけた。


「やはり分からんぞ! 我輩は今、何をしているのだ!?」

「全ての源を絶つの! そうすれば――そうしないと! この水は山の下までたどり着いちゃうから!」

「山の下まで?」

「そう! そしてゲンブの脅威があの子たちに及んじゃう! そんなことになったら、ゲンブを倒せても意味がない! でしょ!?」

「……その通りであるな!!」


 直後、アレックスの走る速度が一気に跳ね上がった。

 きっと、彼の中にあった淀みが消えたのね。


 やるべきことが明確になれば、力を最大限に発揮できる。


 私とアレックスに違いがあるとすれば、何が残っているのかだけかもしれない。

 執念しか残っていなかった私と。

 守るべき者を残せている彼。


 だったら私も、彼の守るべきものを一緒に守ればいい。

 願いの先は同じなんだからね。


 3つ目、4つ目と水をせき止めていく私達。

 そんなことを、蛇がいつまでも傍観してくれるわけもなく。

 ダグたちの妨害を押し切って、蛇が頭からこちらに突っ込んできた!!


「来たわよ!! 受け止めて!」

「あれはさすがの我輩でも受け止めきれんぞ!?」

「一瞬でいいから!!」

『やるんだな!?』

「もちろんよ!!」


 酸の液をまき散らしながら、大口を開けて迫る蛇。

 そんな口の中めがけて、私は準備してた物を投げつけた。


 魔導遺跡の壁の欠片。


 さっき、ゲンブが山肌を突き破ったときに集めておいたもの。


 岩でできたそれには、隆突槍(バンプランス)を宿してる!


「喰らいなさい!!」


 鈍い衝撃とともに、蛇の下あごを受け止めるアレックス!

 直後、蛇の口の中に放り込まれた瓦礫から、四方八方に鋭い槍が突き出した!!


 痛みに頭を跳ね上げようとする蛇。

 でも、そんな事させないわよ!!


雨氷矢グレイズ・アロー!! 頭を垂れなさい!!」

堅氷壁ソリッド・アイス・ウォール!! イザベラ追撃だぜ!』

書き写す喉(トラン・スクライブ)!! 今よアレックス! 蛇にこれを呑み込ませて!!」

「手際が良いではないか!!」


 隆突槍(バンプ・ランス)で口を閉じることができないところに、アレックスが全身全霊の力で聖浄の力を宿した氷塊を押し込む!


 もがいて逃げようとする蛇。

 直後、そんな蛇の頭を押さえつけるように、クゥとダグが飛び降りてくる!!


 ゴクンと大きな音が鳴り、蛇が氷塊を呑み込んだ。

 数秒後、もがいてた蛇が力なく倒れ込む。


「ゲンブを……倒したのか!?」

「いいえ、まだよ!」


 言った直後、霧氷山の頂上に到達した亀が空を仰ぐ。

 そして分厚い雪雲に向けて冷水を打ち上げ始めた―――。

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