第76話 仲直り
「みんな大丈夫!? 助けに来たよ!!」
アレックスの声の後、空洞内に響き渡ったのは間違いない、ダグの声だぜ。
彼を背中に担いだアレックスが、空洞の壁をぶち抜いて飛び込んできたんだ。
そんな彼らは、暗い水を掻き分け、光の残滓を散らしながらこちらへ突っ込んでくる。
『おい! ダグたち、あの水に浸かっちまってるぞ!?』
『落ち着いてくださいルース様。アレックス様も一緒にいるということは、例のフキンを持っているハズです』
『そうか!! こりゃとんでもない救援が来たじゃねぇか!』
ジリジリと追い詰められてた状況が、一気に好転したぜ!
二人の登場に浮かれてた俺は、ふと耳に入って来たイザベラの声を聞いて我に返った。
「……彼が、どうして?」
イザベラのかすれた声。
彼女が言う“彼”とは、もちろんアレックスのことだ。
打倒ゲンブを否定していたアレックスが、ダグと一緒に現れたのが腑に落ちないんだろう。
そんなこと、あとで考えりゃいいのにな!
今こうして「助けに参ったぞぉ!」って現れた男を、追い返す道理はない。
『ダグたちが来たんなら、やりようはあるぜ! クゥ! 二人にゲンブの注意を引くように伝えてくれ!』
「そんなの頼まなくても、もう狙われてるクェ」
『あれも恐らくは、フキンのせいでしょう』
『そうか! ゲンブは大地の女神に封じられてたな』
差し詰め、ゲンブにとっての仇敵みたいなものなんだろう。
そんな神様の加護を受けたフキンが近づいてきたんだ、気にしないわけないよな。
『今のうちに遺跡の中に侵入するぞ!』
「うん! イザベラ! 遺跡の中に入るっクェ!」
「っ! そうね! 今しかない! ダグ!! 悪いんだけどゲンブの注意を引いててくれる!?」
「分かったよ!! オイラたちに任せて!! よろしくアレックスさん!」
「こうなれば吾輩も全力を出すのみであるっ!! ダグ殿! 援護を頼みますぞっ!!」
「もちろん!!」
亀が放出している水流を巧みに使って、蛇の酸攻撃を軽快に避けて見せるアレックス。
そんな彼の背中にいるダグは、近場の氷柱をナイフで切り倒し、ゲンブにダメージまで与え始めたぜ!
なんだよあの二人、良い連携じゃねぇか!
『俺達も負けてられねぇな! 行くぞクゥ!』
「うん!」
ケトルで翼の氷を溶かしたクゥが、イザベラを背に再び宙へ。
目指すは魔導遺跡の入口だ!
場所でいうと亀の後頭部あたり。遺跡の正面に位置するところだな。
蛇も亀もアレックスたちに釘付け。
俺たちはほとんど無傷で遺跡の入口に着いた。
戦闘で激しく揺れるゲンブの上に降り立ち、イザベラが叡智の鍵で扉を開く。
重い扉が開いた瞬間、冷たい風が吹き出した。
あらかじめ魔導書のあり場所を調べてたおかげで、遺跡の中は迷わず進めた。
1つ気になったことと言えば、今回、ゴーレムが見当たらなかったことだな。
今日までゲンブを封印し続けてたことが関係するんだろうか?
そんな考察は後回しだぜ!
「あった! 魔導書よ!」
最上階。古びた祭壇に鎮座する分厚い書。
ページを開けば、土の匂いと祈りの文字が混じり合っていた。
魔導書:浄界―――そこに記されていたのは、大地にまつわる魔術だ。
隆突槍は地面から槍を突き上げて攻撃できる。
浄溜界は結界内に物を集め、とどめることができる。
壌匿封は地中に物体を隠すことができる。
そして、これらの魔術は魔導の杖にセットすることで、1段強化されるんだ。
陥断槍は大地を裂き、大穴を開けることができる。
浄培界は結界内に収めた物を育み、浄化できる。
秘託封は様々な物をあらゆる物に秘めることができる。
……相変わらず、癖が強い。
けど悪くない。試したくて仕方がねぇ。
『よし、魔導書は確保! 次はダグたちの援護だ!』
走り出そうとしたその瞬間、足下が傾いた。
遺跡全体が――動いている。
「ちょっと!? こいつは何をするつもりなのよ!?」
「イザベラ! アタシから落ちないように掴まっクェ!!」
遺跡がきしみ、床が壁になり、世界がひっくり返る。
クゥが即座に翼を広げ、重力に逆らって舞い上がる。
瓦礫が雨のように落ち、崩壊する天井が遠ざかっていく。
あと少しで出口――そのときだ。
そんなとき、遺跡の外からすさまじい轟音が響いてきたんだ!
轟音。
山そのものが裂けたような音が響き、冷気が噴き上がる。
ゲンブの野郎、霧氷山の頂上に大穴を開けやがったんだ!!
外の吹雪が流れ込み、白い閃光が空洞を照らす。
『コイツ! 空洞の外に出るつもりか!?』
『そのようですね。ダグ様とアレックス様が手ごわかったのでしょう』
『マジかよ。そりゃ喜んでいいのか分かりにくいな』
山肌が崩れ、濁流が吹雪と混ざって噴き上がる。
まるで氷の火山だ。
「マズイわね。このままゲンブが外に出て、蛇の酸をまき散らしたら……」
「子供たちが危ないクェ!!」
『そりゃ最悪じゃねぇか!』
「ルース!! 試したいことがあるから、私と欠乏と結合できる?」
『そういうわけだ、ちょっと行ってくるぜ!』
『はい! さっそく魔導書の出番ということですね!』
さすがだな、ライラにはもうイザベラの魂胆が分かってるらしい。
意識を繋げる。
視界が揺らぎ、イザベラの鼓動と重なる。
熱と冷気が交差し、二人の思考がひとつになる。
ライラの言うとおり、魔導書の出番だぜ。
でもイザベラ。
その考えを実践するためには、アイツとの連携が必須だぜ?
なんて、そんなことはイザベラも理解してるみたいで、彼女は他の皆には聞こえないくらいの小声で言ったんだ。
「アンタ、私のナビゲーターなんでしょ? だったら、その、手伝いなさいよね」
『仲直り、するんだな?』
「……そのつもりよ」
雪煙の中、彼女の瞳が淡く光った。
吹き荒れる風が、まるでそれを祝福するみたいに舞い上がる。
―――霧氷山の頂へ。
いま、戦場が天へと広がろうとしていた。
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