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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
3章:朽果てる者

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第70話 女神様からの試練

 喧嘩ってのはさ、仲直りするまでの時間が長ければ長いほどこじれるもんだろ?

 かといって、喧嘩直後にあっさり仲直りできるほど人間は器用じゃない。


 案の定、日が暮れてもイザベラの表情は晴れず、不機嫌なままだった。


 アレックスもイザベラに文句をぶつけるわけじゃなく、俺たちと同じように動揺してるらしい。

 まぁ、その動揺の原因は、誰が見ても明らかだったけどな。


「そんでよぉ、山の西側に行ってみたらバカみてぇにデケェ蛇がウヨウヨいやがって、今回ばかりはマジで死ぬかと思ったぜ」

「デカい蛇? 無事だったの?」

「あたりめぇだろ? 俺はザハンだぜ? それくらいの危機は自力で逃げおおせることができるのさ」

「すごいなぁ。オイラもいつか、ザハンさんみたいに強くなれるかな?」

「はっはっはっ! 俺みたいに強くなりたいのかダグ! それならまずは、道を切り開く術を身につけねぇとな!」

「道を切り開く術!? それって、どうやるの!?」

「そりゃおめぇ、自分の頭で考えねぇとダメだろ!」

「そんなぁ!」


 夕食の席は、ザハンの武勇伝で持ちきりだ。ダグなんか完全に虜。

 気まずい空気が漂ってるのに気づかないくらい夢中になってる。


 ……あの調子じゃ、将来ダグまで飲んだくれにならないか心配だぜ。


 けど、それ以上に俺が気を揉んでたのは――イザベラの堪忍袋がいつ爆発するかってこと。


 幸い、彼女もザハンに直接罵声を浴びせる気はないみたいだ。昼間の口論で言い負かされたのが効いてるんだろう。

 年の功か、それとも単なる無神経か。ザハンには“大人の余裕”みたいなものがあった。


 早々に食事を切り上げたイザベラが、一人で席を立つ。

 ……今日はもう寝るつもりだな。

 俺はクゥに目配せをしてから、彼女のあとを追った。


 いや、追いかけるよりも―――ここは欠乏と結合(ユニオン・ラック)を使った方が逃げられないかもしれないな。


『よぉイザベラ。そろそろ落ち着いたか?』

「……何の用?」

『返事してくれるだけマシだな。ちょっと安心したぜ』

「うっさいわね。私、もう寝たいんだけど」

『まぁそう言うなよ。色々と考えたいことがあるとは思うけど、考えるためにはある程度の情報が必要になるだろ?』

「情報?」

『俺がどう思ってるのか、とかさ』

「……」


 ここで黙るってことは、聞く気があるって解釈していいよな?


『まず、俺はソヴリンを退治したほうが良いっていうイザベラの意見に賛成だぜ』

「そう……」

『それはお前さんのナビゲーターだからとか、そんな理由じゃない。スザクとの戦いの前に話したこと、覚えてるだろ?』

「覚えてるよ。勇者になるって話でしょ?」

『や、やめろよ、照れるじゃねぇか』

「なんで照れるのよ」


 昼間、イザベラが言ってた「勇者ならここにいる」って言葉を思い出したからさ。

 ……まぁ、それはさておき。


『……話を戻すぜ? あの時、俺とダグは誓った。安全な家と温かい食事と綺麗な服。それらを手に入れるためにソヴリンを倒すってな』

「ダグは彼のことが気に入ってるみたいだけどね」

『おいおい、ダグのことを信じてやれよ。あの年齢くらいの男ってのは、武勇伝に弱いもんなんだからさ』

「……それじゃあ、クゥとライラは?」

『あの二人に関しては―――』

「アレックスさんもドレク君やミルナちゃんたちは?」

『だから、その子たちに関してもちゃんと話して―――』

「話す? それじゃあ、アモリ君にも話をするつもりなの? 彼が理解してくれる?」

『それは……』


 くそ。言い返せねぇ。


「私だって、諦めるつもりはないわよ。でもっ。私、彼が言ってることも一理あるって思っちゃった……。私、今までずっと神様なんて信じてなかった。生き延びる術は自分たちで見つけるしかないって。だから、救いのない状況から現実逃避するために、現状維持を願う考えを否定してきた。だけど……だけど!」


 イザベラは震える声で続けた。


「……ここには、救いがあるんでしょ? それを、壊しちゃってもいいの?」


 迷い。


 きっとそれが、イザベラが胸中に抱いているものだ。

 俺は、そんな彼女を正しく導いてやるべきなんだよな。


 さぁ、何か言え俺。

 イザベラを励ますための言葉を、勇気づける言葉を、背中を押す言葉を。


 ……それでいいのか?

 ナビゲーターとして導くって言うのは、そういうことでいいのか?


「ごめん、一人にして」


 結局、俺は彼女に何の言葉もかけてあげることができなかった。

 情けないぜ。


 顔を隠すように丸まって眠ろうとするイザベラを残し、その場を去るしかない。


 かといって、ダグたちのいる部屋に戻る気にもなれないな。

 少し、夜風にでもあたって考えを整理するべきだろうか?


 そう思い、一人で教会の外に出ようと窓に上った俺は、うっかりと足を滑らせちまったんだ!


「おわっ!?」


 後頭部から激しく床に激突して、全身に痛みが……走らない?

 ぐるぐると回る視界の中、俺ははっきりと目にしたんだ。


 ぐるぐる回る視界の中で俺が見たのは、白い霧に包まれた世界だった。


「情けないですね。そのようなことでは困るのですよ?」

「……またアンタか。そう言えば、北の大陸に入ってからは初めてだったな」


 やっぱり来たか、自称神様。

 今回は、声がやけに鮮明に響いてる気がするぜ。


「まぁ、彼女を上手に説得できるなんて期待はそもそもしていませんでしたけどね」

「悪かったな!」

「仕方がありませんから、今回も私がお力添えをして差し上げましょう」


 相変わらず恩着せがましい言い方。

 でも、何だかんだでいつも助けてくれるのは事実だ。


 彼女からいつも通り3つの力が提示される。

 そのうちの2つは例の如く翼と爪だった。


 で、残りの1つはというと。


書き記す喉(スクライブ)? えっと、なになに……魔術を物質に刻み込むことができる!? なんだこりゃ!?」

「さぁ、どれにしますか?」

「そんなの、喉に決まってるぜ!!」

「そうですか」


 3度目にもなれば俺だってわかるぜ?

 この自称神様は、最初から俺に選ばせる能力を決めてるっぽいよな。


 今回は特に、喉の有用性が際立きわだってるし。

 こりゃイザベラに報告するのが楽しみだぜ。


 ……そう思っていたら、神様はさらに告げた。


「今回は特別にもう一つお手伝いをして差し上げましょう」

「本当か!? そりゃ願ったり叶―――」

「ゲンブを抑えている私の力―――あなたたちの言うところの“呪い”を、解いて差し上げましょう」


 ……おい、今、何て言った?


 呪いを解く?

 それに、私の力だって!?


 その“呪い”ってのはあれか?

 北の大陸にある水に、大地の女神キリン様が施した呪いのことか?


 呪いが解けるってことは、聖浄のフキンに頼らなくても生きていけるってことだよな?

 でも、その代わり……。


「ちょっと待て、アンタはまさか」

「人の子らが迷っている。その迷いの原因が私の力なのだというのなら、解いてあげるのが務めでしょう?」

「待てよ! そんなことをしたら、北の大陸は!!」

「良いですか? ルース。あなたはナビゲーターなのです。どのような状況においても、必ず、人の子らを導いていかねばなりません。そして、全てのソヴリンを討滅する。迷っている暇など、無いのですよ?」


 これは、自称神様から―――大地の女神様(キリン)からの試練なのだろう。


「改めて伝えておきましょう。人を育むのは、清らかな心なのです。流れの過程でどれだけ濁ったとしても、源流が清らかなように。そのことを忘れないでください」


 その声を最後に、俺の意識は闇に沈んでいった。

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