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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
1章:焼き殺す者

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第7話 胆力が大事

 ぱらぱらとめくられていく魔導書の紙面。古びた羊皮紙からは、乾いた匂いとわずかな墨の香りが漂ってくる。

 覗き込むだけでも、そこに記されているのは実用性ばかりの魔術だった。

 焚き火の火力を一定に保つ術。匙が自動で食材を混ぜ続ける術。……まさに、題名通りの「便利」魔術集だ。


「どうした? もしかして、湯を出す魔術を見つけたのか」

 ページを止めたイザベラに身を乗り出すと、彼女は口元をほころばせる。

「そんなのより、もっといいもの」


 期待して覗き込んだ俺は、思わず肩を落とした。

「汚れた服を綺麗にする魔術……?」

「試してみるね。――フローラル!」


 瞬間、甘やかな花の香りがふわりと広がった。見る間にイザベラのドレスが色鮮やかに蘇り、煤や泥は影も形もなくなる。

「おお……本当に綺麗になってる」

 思わず見物する瞳(スペクテイター)で確認してしまった。前時代の遺産、恐るべし。


 ただし――この魔術、ページを開いていなければ発動できないらしい。そこがどうにも不便だ。昔の人間は、この欠点をどう解決していたのか。


「そんなことより湯だ、湯! 早く探すぞ」

「はーい」


 数分後、俺たちはようやく《湯沸かしの魔術ケトル》を見つけ出した。

 鍋を置き、呪文を唱えると――ごぼごぼと泡を立て、熱い湯が溢れ出す。湯気が立ちのぼり、鍋の縁からふわりと白煙が広がっていく。

 目的の霧は、これで作れる。……ただ、地味だ。


 俺たちは鍋を遺跡の入口に並べ、息を潜めて湯気が霧へと変わるのを待った。


「本当にうまくいくのかな……」

「おいおい、それを口に出すな。狩りってのはな、待つ胆力が大事なんだ。俺たちは獲物を仕留める側になるんだぜ」

「……なるほど。私たちは狩られる側じゃなくて、狩る側になる。そうだね」


 彼女の言葉に、妙な決意の色が混じってるように感じたのは俺だけか?


 どれほど待ったろうか。二つの変化が訪れる。

 一つ目は、俺の腕の文様だ。


 以前と同じく明滅を繰り返す文様に、俺は見物する瞳(スペクテイター)を向ける。


『情報の繰り返し活用を確認。見物するスペクテイターは――行使するユーティライザーへ拡張されました』


「……おお!」

 思わず声が漏れたぜ。要はこうだ。

 何度も繰り返し使った魔術や情報を、ユーティライザーに記録できる。そうすれば、魔導書を開かずとも即座に使えるようになるらしい。

 これなら不便さも解消だよな。


 喜びを噛み締めていると、隣のイザベラが怪訝そうに俺を睨んできたぜ。

「ねぇ、その文様……やっぱり特別な力なんでしょ?」

「ああ。これは俺の能力のひとつ、《ユーティライザー》っていうんだ」

「ユーティライザー?」

「例えば――」


 試しに呪文を思い浮かべる。すると鍋の中に湯が噴き出してきたぜ!

「えっ!? 本、閉じてるのに……どうして!」

「これが俺の力さ」


 彼女の目が驚きと感嘆で見開かれる。よし、俺の有用性は伝わっただろう。


 その時、遺跡の奥からゴウン、と重い物音が響いた。

 二つ目の変化――ガーディアンの動きだ。


 気が付けば遺跡の中に広がってた霧の奥で、赤い光が揺れ、廊下に沿って移動してる。

「ガーディアンが……動いてる」

「でも、こっちに気づいたわけじゃなさそうだ」


 赤い光は右の通路へと消えた。


「追うか?」

「もちろん。ルースだけじゃ本を持ち帰れないでしょ。私も行く」

「……分かった。じゃあ俺を肩に乗せてくれ。離れると危ないからな」

「うん」


 肩の上に乗った俺は、視界が広がったのを感じた。これでさらにユーティライザーを活かせるはずだ。


 俺たちは慎重に廊下を進む。霧が思った以上に広がっていて、視界は数歩先も怪しい。だが逆に言えば、ガーディアンからもこちらが見えにくい。


 廊下にはいくつもの扉が並び、その奥はすべて書庫らしき部屋だった。

「ここ、もしかして巨大な図書館だったのか?」

 なぜ地下にこんな施設を築いたのか、理由は分からない。だが、今の俺たちに必要なのは考古学じゃなく、魔導書だ。


 一室ずつ調べて移動してを繰り返すが、今のところ成果はない。その間も、赤い光が時折廊下を横切り、俺たちは息を潜めてやり過ごす。

 巡回……そう、あれは巡回だ。入口を睨みつけていたあのガーディアンが、霧に惑わされ行動を変えたのかもしれない。


 とにかく、これは好機だ。


 次の部屋に入ろうと扉を開けた瞬間――俺とイザベラは、同時に息を呑んだ。


「……あれだな」

「うん、間違いないと思う」


 円形の広間。その中央に、ただ一冊だけ仰々しく飾られた本。

 他の書物とは明らかに扱いが違う。

 祭壇のような台座に置かれ、淡い光すら帯びている。


 それこそ、俺たちが探していた魔導書に違いなかった。

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