第67話 呪いのおかげ
「美味しいクェ!! これが蟹のうたグェ!?」
「おいクゥ、そんなに慌てて食うなよ。子供たちが見てるんだぞ」
「ほらクゥ。私が口に運んであげるから大人しくしてなさい。コラッ! 翼でかき集めないのっ!」
「にぎやかだな……」
「クゥちゃん可愛い。ねぇアレックス! あとでフワフワしてもいいかなっ!?」
「フハハハハッ! 吾輩からお願いしてみようではないか!」
「あ、ルース! ルースの分のお皿、ここに置いとくね」
「ありがとなダグ!」
「イザベラ! ライラにも食べさせてあげるクェ!」
「え? 大丈夫なの?」
アレックスが準備してくれた蟹は、ホクホクで本気で旨い。
ちょっとテーブルが狭い気もするけど、こういう賑やかさは嫌いじゃないぜ。
「ダグ殿。申し訳ない。まさかこれほどの人数の客人が来るとは思ってもいなかったが故、皿が足らぬとは……」
「ううん、大丈夫だよ。オイラこういうの得意だから」
「かたじけない」
ダグが言ってるのは、今俺がもらった木製の皿のことだな。
宴の準備をしている最中に、人数分の皿やフォークが足りないと分かると、ダグは二人分をパパッと作ってしまった。
今いるのは俺たち4人とアレックス、そして子供たち6人。つまり11人だ。
普段は2人くらいの客人が来ても良いように用意してるらしい。
「ねねっ! ダグのお兄さん! あとで僕にもお皿の作り方教えてよ!」
「ウチも知りたい!」
「あ、あとで教えてあげるから。落ち着いて」
「おぉ、ダグも人気者になって来たじゃねぇか」
「ちょっと、茶化さないでよルース」
照れくさそうなダグ。
年下に囲まれて頼られるなんて、彼にとっては新鮮なのかもしれない。
ちなみに、ダグに皿の作り方を聞いてきた男の子は赤毛のルファ、女の子は金髪のミルナというらしい。
この二人が、6人の中でも特に賑やかだ。
他の4人はというと。
一番年上っぽいのが、テーブルの端で黙々と蟹を食ってるドレク。
その隣で、不器用に蟹を食いながら俺たちの方を観察してるのがノワレン。
蟹を食べながらもクゥの羽毛を撫でてる茶髪の女の子がセリス。
そして、アレックスの腕の中に抱かれてる幼子のアモリ。
皆、それぞれ個性的だよな。
ここまで賑やかな食事は俺も初めてかもしれない。ある意味、アレックスがうらやましいぜ。
そんな賑やかな宴を楽しんだ俺たちは、交代で湖での水浴びを済ませ、休息をとることにした。
……と言っても、そう簡単に子供たちが寝てくれるはずがない。
特にクゥとダグは、すっかり気に入られたらしい。
羽毛のフワフワを楽しんだり、ナイフで皿を作る方法を教えたり。元気いっぱいだ。
「毎日こんな感じなんですか?」
「ハハッ。さすがに毎日ではないですよ。今日は皆様がいるからこそ、より楽しいのでしょう」
「それにしたって、6人の子供の面倒を見るっていうのは大変だろ? 素直に尊敬するぜ」
「いえいえ、吾輩もこの教会で育てられた者ですから」
そうだったのか。
だからアレックスも、子供たちの面倒を見ようと思えたんだな。
あれ?
でもだとしたら、アレックスを育ててくれたって人はどこに……いいや、考えるのはやめておこう。
俺と同じ考えに至ったのか、イザベラもどこか暗い表情を足元に向けてる。
このままだと気まずくなりそうだ。話題を変えるか。
「そ、そういえばアレックス、昼間助けてくれた時に呪いとか言ってたけど、あれって何なんだ?」
「呪い? そんなこといってたっけ?」
「イザベラの体調が悪くなったのは、呪いのせいらしいぜ」
「そうなの!? それって、セイリュウの時みたいな感じ?」
たしかに東の大陸では森の食べ物を口にすると、生命の種とやらが体にできるって話だった。
あれも呪いみたいなものだったのか?
「アレックスさん。もしかして、その呪いってこの大陸にいるソヴリンが原因なの!?」
「ソヴリン? いいや、それは違いますな。この呪いは吾輩たちをソヴリンから守ってくれているのですから」
「は?」
「え? 呪いが、ソヴリンから守ってくれる?」
「そうなのです」
そう告げたアレックスは、右手を前に突き出して俺たちに見せた。
右手には、昼間見た例の布切れが結び付けられてるぜ。
「これは、聖浄のフキンというのですぞ。かつて、吾輩を育ててくれたマザーが遺してくれた、神秘の1つです」
「聖浄のフキン? 聞いたことないけど、どんな効果を持ってるの?」
「呪いや穢れ、毒など、身体を蝕むものを清め浄化してくれるのですぞ」
「なるほど。でもそりゃ、呪いの説明にはなってないぜアレックス」
「フハハハハッ。その通りですね。ですが、このフキンをマザーに託したのが、呪いをかけた張本人だといえば、どうでしょう」
は?
そりゃ一体どういうことだよ。
「詳しく聞かせてください」
「分かりました。まず、この聖浄のフキンを遺してくださったのは、大地の女神キリン様と言われているのですぞ」
「大地の女神キリン様?」
「そうですぞ! そして言い伝えによれば、キリン様の手によってこの地のソヴリン:朽果てる者が封印されたのだとか。そのおかげで、われわれはこうして生きながらえることができているのです」
そういったアレックスは、窓から見える巨大な山を指さした。
「あの山は、その封印によってできた物。あれだけの山を作るためには、大量の大地が必要だった。だから、山の周囲はどこまで行っても平らな湿地が続いているのだ!」
「マジか……」
「あの山の中に、ゲンブが封印されてるっていうの?」
「うむ。ですが、かのキリン様の力をもってしても、ゲンブの力を完全に封じることはできません。その結果、あの山から常に大量の水があふれだしているのです」
なるほどな。
だから北の大陸は辺り一面が湿地になってるのか。
「それで、結局呪いって何なの?」
「はい。山からあふれ出ている水には、ゲンブの力が宿っているのです。激流となれば何もかもを押し流し、淀めばすべてを腐らせ、降り注げばすべてを凍らせる」
「それを、キリン様が防いでるの?」
「そうですぞ。激流を起こさぬように大量の水を大地の中に蓄え、淀まぬよう適度に流し続ける。ですが、降り注ぐ水だけは、どうしても凍ってしまうのだ」
「それが、雪か」
「はい。この地では一年のほとんどの時間に雪が降っています。その雪が大地を氷漬けにしてしまわぬよう、キリン様は水の中に呪いを込められました」
「凍らせないための、呪いか」
「水が活性化するのだと、マザーは言っていました。吾輩にはよくわからないのですが……」
アレックスが言い淀んだその時、子供たちを引きずりながらクゥがこちらに歩いてきた。
「ルース! ライラが話したいって言ってるクェ!」
「ん? 急ぎな感じか?」
「今の話? について、伝えておきたいことがあるって言ってるよ」
もしかして、ライラもアレックスの話を聞いてたのか?
確かに彼女なら、俺たちが知らないことまで知ってそうだし、聞いてみるか。
「欠乏と結合!」
『あ、ルース様』
『よぉライラ。何か話があるんだって?』
『はい。今しがた、アレックス様が話されていた内容について、1つ謎が解けましたのでお伝えしておこうかと』
『謎が解けた?』
『はい。なぜ私がこうして会話できるまで覚醒できたのか。それはきっと、呪いのおかげなのだと思います』
『凍らせないための呪いが?』
『どちらかというと、水が活性化するという方ですね』
あぁ、なるほどな。
植物の身体になったライラにとって、水は一番重要な食事だもんな。
そんな水でできた雪を浴びまくったおかげで、一気に覚醒できたのか。
『たしかに、ありえそうな話だな』
『はい、とりあえず、伝えておきたかったっことは以上です。ところで、そろそろ子どもたちは眠りにつく時間なのでは?』
ライラに言われて気づいたけど、クゥに抱き着いてるミルナとセリスが大きなあくびをしてるぜ。
俺もそろそろ、眠くなってきたしな。
続きはまた明日、ゆっくり話すとしよう。
そうして俺たちは、ようやっと眠りについたんだ。
まぁ、イザベラはさっきの話を色々と考え込んでるみたいだったけど。
寝不足になっても知らねぇぞ?
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