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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
3章:朽果てる者

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第64話 泥臭い一歩

 懐かしい夢を見た。


 夢の中で私は、父さんと女の人と3人で一緒に美味しいご飯を食べてるんだ。


 温かくて甘くて、柔らかな夢。


 もう何度も、見たことのある夢。


 小さい頃、そんな夢を見るんだって父さんに言ったら、教えてくれたんだよね。

 その女の人はきっと、母さんだろうって。


 寂しそうで悲しそうで、それでいてちょっぴりだけ嬉しそうな表情で、父さんは笑ってた。

 だからかな。

 見たこと無いはずのその女の人が母さんなんだって、私は信じて疑わない。


 きっと、優しい人だったんだろうな。

 話したことないけど、この夢のおかげでそう思える。

 だから私は、この夢が好きなんだ。


 そして、この夢を現実のものにしたいって、思ってる。


 不可能でも。

 無茶苦茶でも。

 なんでもいい。


 それが私達の夢なんだから。


 父さんも言ってた。

 母さんの願いは、家族みんなで穏やかに暮らしたいってことだったって。

 その願いは父さんに受け継がれて。

 今こうして、私に受け継がれてる。


 どれだけ馬鹿にされても。

 どれだけ邪険にされても。

 どれだけ邪魔をされても。


 諦めちゃいけないんだ!


 なんて。

 少し前までの私だったらきっと、いきり立って周りに威嚇してたんだろうな。


 そうでもしないと、一人で立てなかったから。

 そんなことしてたから、一人だったのかもしれないのにね。


 でも、今は違う。

 私は一人じゃない。


 おかげで、ソヴリンを2体も倒すことができたんだ。

 これはとてもとてもすごいことだと思うよ。


 父さんに自慢したいところだけど、それはまだまだ先の話になりそうだよね。

 そんなことを考えながら、絶炎の首飾りを握りしめた時。

 不意に声が聞こえてきた。


「おーいイザベラ。まだ寝てんのか?」

「ちょっと! 開けたら踏み潰すからね!!」

「開けねぇよ! って言うか、中を見る目的なら開けなくても―――」

透視てるんじゃないでしょうねぇっ!!」

「み、見てねぇよ!! 冗談だっての! ったく、少しは信用しろよなぁ~」

「ルース、あんまりイザベラを怒らせちゃだめだよ」

「そうクェ! ルースは礼儀が無いよ!」

「んなっ!? クゥに礼儀とか言われちまったぜ」

「クェ!? それはどういう意味よ!」

「昨日、泳いでた魚に頭から突っ込んで行って踊り食いしてたじゃねぇか!」

「礼儀正しい食べ方でしょ!? ちがうの!?」

「ちげぇよ!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」

「ダグゥ~。アタシ、礼儀なかったのクェ!?」

「ま、まぁ、あんまり水をまき散らしながら食べるのはねぇ~」

「し、知らなかったよ。気を付けるクェ」

「ずいぶん素直じゃねぇか。ちゃんと気をつけろよ? こんな寒い中、水をぶっかけられたらたまらねぇからなぁ」

「そんなに寒いかな?」

「クゥは羽毛があるからね……」

「そうだったクェ?」

「そうだったっけ? みたいに言うなよ!」


 今日も朝から賑やかで、なんかちょっと気が抜けちゃうよね。

 でも、忘れちゃいけない。

 これは、ソヴリンを倒すための旅なんだから。

 しっかりと、気を引き締めていかなくちゃ。


 身支度を整え、木と葉で作られた簡易小屋の扉を開く。

 東の大陸を出発する前に、ダグが作ってくれたんだよね。


 人が一人寝ることができるくらいの狭いものだけど、折り畳んで持ち運べるし、かなり便利。

 組み合わせる手(アッセンブル)って使いにくい力だって思ってたけど、案外優秀かも。


 まぁ、ダグの荷物は大きくなっちゃってるけど。

 旅に必要なものだから、私も持つのを手伝わないとね。


「ダグ、小屋の片付け方教えてくれる?」

「あ、うん。分かった!」

「ほら、ルースとクゥも、喧嘩ばっかりしてないで自分たちの分を片付けなさいよ」

「ふんっ! 今回はこのくらいにしておいてやるぜ」

「クェェッ!! それはアタシのこと……こと? ことばよ!」

「セリフな? そこはアタシのセリフよ! だからな……って、おい、ちょっと待てクゥ! 俺を《《ついばもう》》としてんじゃねぇよ!!」


 私が止めなかったら、クゥがルースを呑み込んじゃうところだったわよ。

 まぁ、これでさすがのルースも、クゥを煽るのをやめるでしょ。


 ダグの手伝いもあって、片付けは思ったより楽に終わった。

 今日もまた、湿原を進む。


 できるだけ乾いた足場を選び、なければ氷で道を作りながら。

 だから思ったより時間はかかる。


 それでも目的地がはっきりしてるから、足が重くなったりはしないけどね。


「あの山も、結構近くに見えてきたね」


 前方を見上げ、つぶやくダグに合わせて私たちも空を見る。


 巨大な山が、全体を白く染めてそびえ立つ。

 あれが、私たちの目指す場所だ。


 まぁ、湿原には目印になるものがほとんどないから、山の麓を目指しているだけなんだけど。


「昨日よりも大きくなってる気がするクェ」

「そりゃ少しずつでも近づいてるから、当然だろ」

「だとしてもオイラ、こんなに大きな山を見たことないから、ちょっと感動してる」

「それは同感だけどな。それよりもクゥ。今日も前方の偵察を頼んだぜ」

「任せてっ! 行ってクェ~!!」


 そう言って飛び立っていったクゥ。

 彼女の話だと、もう少し進んだら大きな湖があるみたい。


 その湖の傍に、ボロボロの建物と人影を見つけたという。


 かなり遠目に見ただけって言ってたから、気のせいかもしれないけど。

 今日はその建物に近づき、痕跡を確かめてもらうつもりだ。


 もしかしたら、クゥの姿を見て隠れちゃうかもだけど。

 人が住んでたとしたら絶対に痕跡があるはずでしょ?

 そういう観点で、偵察をお願いしてる。


 上手くいくかは分からないけどね。


「さて、それじゃあ私たちは少しでも前に進まなくちゃね」

「だな」


 ビチャビチャという足音を立てながら、私たちは歩く。

 夢を叶えるための一歩だからね。

 これくらい泥臭くても、我慢できるものでしょ?

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