第63話 北の大陸
南の大陸から始まった俺たちの旅も、気づけば大陸を2つも跨ぐことになっちまった。
暑さの厳しかった南の大陸に、穏やかな気候だった東の大陸。
それじゃあ次は?
なんて話してた俺達も、洞窟の出口が近づくにしたがって察し始めたんだぜ。
北の大陸は、めちゃくちゃ寒いんだ!
「ねぇルース……空から白いのが降ってきてるけど、これって何?」
「これは雪だな。寒い地域では、雨の代わりに雪が降るんだよ」
「じゃあこれって雨なの!?」
「まぁ、そんなもんかな」
ユラユラ舞う雪を見上げながら、足元の積もった雪をベチャベチャ踏みつけるダグ。
楽しそうに笑ってる姿は、まるで子供みたいだ。
いや実際、子供なんだけどな。
久しぶりにそんな笑顔を見たから、妙にそう思っちまったんだよ。
そういえば、昔読んだ勇者一行の物語の中でも似たような場面があったっけか?
雪ってものを知ったのはそのおかげだったけど―――思ってたよりも冷たいものでビビったぜ。
「準備できたわよ!」
「おう! ほらダグ! 準備できたみたいだぜ」
「うん!」
イザベラの呼びかけに応じた俺たちは、洞窟の傍から彼女たちのいる方へと歩みを進めた。
こんもりと盛り上がってる岩場のその先だ。
湿って滑りやすい岩場を、ダグは俺を落とさないように気を付けながら丁寧に登る。
頂上にたどり着いた瞬間――開けた景色が目に飛び込んできた。
辺り一面、広大な湿地帯。
見渡す限り水面ばかりで、陸地はこの岩場くらいしかないように見える。
でもよく見てみると、どこもかしこも水深が深いってわけじゃないみたいだ。
まぁ、俺にとっては海と変わらねぇけどな。
「ったく、まさかこんな大陸があるなんて思ってなかったぜ」
「そうだね。でも、水には困らないよ?」
「まぁ確かに水は重要だけど、こんなには必要ないだろ」
「二人とも何してるの? はやくこっちにクェ!」
『こっちにクェ』――なんだそれ。
あとで訂正しておこう。
「とりあえず氷で足場を作ったけど。滑って落ちないように気を付けてよね。特にルース。誰かと欠乏と結合しておきなさいよ」
「分かってるって。水の中に落ちたら大変だからな」
岩の足場も滑りやすいが、氷の足場はそれ以上だ。
そんな足場を進むのは、イザベラやダグにとっても大変だろう。
俺としてはクゥと欠乏と結合して、空から悠々と偵察をしていたい気分だが。
多分、二人のどちらかをサポートしたほうが良さげだよな。
「じゃあイザベラ、一緒に頑張ろうぜ」
「なんで私なワケ?」
「俺のサポートが必要だと思ってな」
「……なんかちょっと複雑な気分。でもまぁ、言い訳できないかもね」
「見てよ! 雪で玉が作れるよ! 雪玉だぁ!」
そういって地面の雪をかき集めたダグが、楽しそうに雪玉を見せつけてくる。
「おぉぉ!! 雪玉!? どうやって作ったの!? 教えてクェ!!」
「こうやって、手で集めただけだよ……あ、でも、クゥには作れないかも」
「作るクェ! アタシだって作れるクェ!」
そう言って両翼を使って雪をかき集めようとするクゥ。
しかし、柔らかい羽じゃ雪を固められないようだ。
いら立ったのか、クゥは羽ばたいて雪をまき散らし始めた!
「ぶぇっ……ちょっとクゥ! 雪をまき散らさないでよ!」
「クェェェ!!」
「食わないよ!」
「何してんだアイツら」
「ははは。まぁ、楽しそうでいいじゃない」
良いのか?
まぁ、良いのか。
「ほらダグ、クゥ。そろそろ進むよ」
「ぶへぇ! やったなクゥ! これを食らえ!」
「ぶばはぁ!? クェ……」
雪を投げ合い、あっという間に二人とも雪まみれ。
そんな二人を、威圧感で止めるイザベラ。さすがだ。
「クゥは空から周りを偵察してね。ダグは私たちと一緒に行くわよ」
「はぁい」
「うん」
こうして俺たちは湿地帯に足を踏み入れた。
とはいえ、イザベラが作る氷の道を歩いている感じで、水の中に足を突っ込んでいるわけじゃない。
それにしても不思議な大陸だぜ。
優しく舞い落ちてくる雪と一面に広がってる波のない水面。
水の中にはちらほらと魚が見えたりするから、生物がいないってわけじゃなさそうなんだけど。
妙に静かに感じちまう。
音が無いというか、吸収されちまってるというか。
静寂っていう言葉が似あう光景だぜ。
まぁ、気のせいかもしれないけどな。
とにかく、情報収集に専念しよう。
北の大陸には誰かが住んでるんだろうか。
誰も住んでなければ、魔導遺跡を探すくらいしか手がかりはない。
あまり心配しても始まらねぇよな。
とにかく、今の俺たちにできることから始めるんだ。
これまでもそうやって乗り越えてきたんだからな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時は戻り。
ルースたちが北の大陸に続く洞窟を進んでいた頃。東の大陸にいたエオウィンも行動を始めていた。
謎の魔術師との戦いによってツタの中に埋められた彼は、口元を覆っていたツタを食べることで命を長らえさせた。
異常ともいえる生への執着があったからこその結果といえるだろう。
ツタの塊を食い破り穏やかになった森に踏み出した彼は悟る。
すでにダグたちが出立していることを。
そして、本当にセイリュウが倒されたということを。
追うか、残るか――いくつもの考えを巡らせたが、エオウィンは悩むことなく南へ歩を進めた。
南――元いた南の大陸へ。
そこに向かい、スザクが倒されたことを確認する。
それが彼の下した判断だった。
なぜか?
きっと、ダグたちが彼の行動を見たらそう疑問を抱くだろう。
その疑問の答えを知っているのは、エオウィンだけかもしれない。
それは、彼が見たもの―――
セイリュウに止めを刺そうと鉄の杭を打ち込む際に見たもの。
ダグの持っていたナイフが、次第に切れ味を増した事実。
そしてセイリュウへのトドメがダグによる一撃だったという事実。
それらの事実が、エオウィンの持っている知識と合致したのだ。
「アイツが、そうなのか?」
元々鉄の魔導遺跡があった場所を抜ける途中、落ちていたナイフを拾い上げたエオウィンはそう呟いた。
ボロボロになって使い物にならないナイフ。
彼にとってのダグは、このナイフと同じような存在でしかないはずだった。
あくまでも、エオウィンが使い捨てる道具の一つ。
生き残るための道具の一つ。
けれどもそれは、彼の勘違いだったのかもしれない。
きっと、エオウィンはそんなことを考えているのだろう。
なぜなら、どこか憤りを感じさせる表情でそれを見上げているのだから。
セイリュウと魔術師が森に残した残骸の中、ひっそりとたたずむ鉄の塊。
ゴーレムの姿をしたその鉄塊は、空の右腕を空に掲げている。
勝利を勝ち誇っているにしては物足りない姿。
その違和感の正体を、きっと彼は理解しているのだ。
「願いは力になる。やっぱり、嘘じゃなかったってワケだな。あのガキもたまには役に立つじゃねぇか」
手にしてたボロボロのナイフを放り捨てたエオウィンは、確かな足取りで進み始めた。
絶対に生き延びてやる―――そんな願いを、呟きながら。
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