第62話 共に手を取り
クゥの背中に新芽が生えてから1週間。
俺たちは身体を休めつつ、出発に向けての準備を整えたんだ。
出発っていうのはもちろん、次のソヴリン退治のことだぜ。
少し前までの俺たちなら、どっちに進めばいいかも分からなかっただろう。
でも今は違う。だって、クゥがいるからな。
鬱蒼と茂る森だって、空から見下ろせば迷うことはない。
おまけに、地図も作り放題だ。
装備や道具の調達はダグとイザベラに任せて、俺は欠乏と結合でクゥと体を共有する。
空を飛ぶのって、めちゃくちゃ気持ちいいんだよな。
偵察って言う役割が無くても、何度でも飛び回りたい気分だぜ。
そうやって偵察を繰り返すうちに、東の大陸が南北に細長く広がっていることを把握できた。
南西にはスザクがいた南の大陸、東には広大な海。
進むべき方角は、おのずと決まってくる。
「北に進むしかなさそうね」
焚火を囲みながら俺の報告を聞いていたイザベラが、そう切り出す。
「そうだな。少なくとも、歩きで向かえるのは北しかないぜ」
「北には何か見えたの?」
「いいや、今のところはずっと森しか見えねぇよ。この森、かなり広いぜ」
「1日そこらで飛び回れる距離は限られてるからね。進みながら偵察を繰り返すしかないんじゃない?」
「アタシ、もう疲れたクェ……」
「おつかれクゥ。ほら、木の実もっと食べなよ」
ぐってりと横になってるクゥは、イザベラに頭を撫でられながらダグの差し出した木の実を食べ始めてる。
すっかり手懐けられてるぜ。
「っと、そういえば今日はもう一つ報告があるんだった」
「なに? 何か面白いものでも見つけたの?」
「面白いかといわれたら、別に面白くはないんだけどなぁ。気になってたことってところだぜ」
「ルース。それってもしかして」
ダグはなんとなく察したみたいだ。
まぁ、そりゃそうだよな。
俺達の中で一番気にしてたのは、ダグなんだから。
「あぁ、エオウィンの野郎、普通に生き延びてやがったぜ」
「それ本当!? あの状況で生き延びたって、アイツもしぶといわね」
「まぁ、エオウィンならそうかなって思ってたよ。オイラは」
ちょっと得意げなダグ。
たぶん、本当にエオウィンが生きてると信じてたんだろう。
対してイザベラは、全く信じてなかった様子。
俺? 俺はイザベラ寄りかな。
でも、実際に生き延びてるところを見たら、妙に納得もしちまったけど。
「で、どうする? 出発の前にあいさつにでも行っとくか?」
ダグ曰く、セイリュウを倒せたのは、エオウィンが口の中に飛び込んできたおかげらしい。
礼の一つくらい言ってもいい気がするが……。
「ううん。大丈夫だよ。たぶんエオウィンも望んでないと思うから」
「そりゃそうでしょ。少なくとも私はアイツと仲良くなれると思えないし」
「オイラだって、仲良くなれるなんて思ってないよ」
「そうだな。お互い、生きるために必死に行動した。その途中で少しだけ協力関係になった。ただそれだけってことだよな」
「うん。だからもし、またいつか会えることがあったら、その時にお礼を言うことにするよ」
「それがいいと思うわ。ついでに自慢もしなくちゃね」
「だな、スザクとセイリュウ。それだけじゃなくて残りの2体も倒したんだぜってな! そうすりゃアイツも、ダグのことを認めざるを得ないだろ」
「えへへっ。そう考えたら、ちょっと楽しみだね」
想像してニヤけるダグ。
エオウィンとのわだかまりは、もう完全になくなったみたいだ。
本人も吹っ切れたって言ってたし、そういうことだろう。
「そうと決まれば明日、予定通り北に向けて出発する。反対の人はいないな?」
「もちろんよ」
「オイラも大丈夫だよ」
「やっと出発クェ~!」
「よしっ。それじゃあ今日は早めに休もうぜ。ここからの旅は結構長いだろうからなぁ」
スザクを倒した後、東の端まで到達するのに2か月かかった。
北の端までどれくらいかかるのか、考えるだけで気が重くなる。
―――そして翌日。
出発した俺たちの足取りは、案外軽かった。
それはなぜかと聞かれたらよくわかんねぇけど、1つ言えることはある。
俺もダグもイザベラも、そしてクゥも。
こうやって旅をすることが案外嫌いじゃないらしい。
特にクゥは、真新しいものを見ては歓声を上げるような奴だからな。
その無邪気さは、ライラに似てるのかもしれない。
そして2か月半の時間が流れた頃。
俺たちは以前と同じような洞窟を見つけたんだ。
ところどころ水没しちまってる洞窟。
濡れた岩の足場に注意しながら、進む。
ひんやりとした空気が、全身を刺すようだぜ。
モフモフとしたクゥを羨望の眼差しで見ながら、俺たちは進む。
次の大陸へと。
―――かくして物語は次の章へと紡がれる。
立ちはだかるのは『朽果てる者』。
共に手を取り歩み出したルースたち。
そんな彼らの行く先に迷う者が1人、固く握りしめた拳を合わせ耳を澄ましていた。
月の光がその者の身体に反射して、水面に光を散らす。
「教えてくれっ! 吾輩にできることとは何なのだ? 吾輩は何をすればいい!?」
すがるような彼の声を聞き届ける者は誰もいない。
正確には、いなくなってしまったというのが正しいのだろう。
北の大陸では、彼以外に頼れる人間などいないのだから。
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