第61話 蒼と青
「ク……クゥ、なの?」
「そうよ、クゥだよ!」
「喋ってる……」
「何が一体どうなったらそうなるんだよ」
誇らしげに胸を張って俺たちを見下ろしてるクゥは、確かにクゥだぜ。
でも、昨日の夜までのクゥは「クェ」以外の声を発することなんてなかったはずだ。
明らかに異常事態だろ。
俺とダグが呆然としていると、不意にイザベラが叫んだ!
「ぇ? えっ!? ええぇぇぇぇっ!!? ライラ!? え!? うそでしょ!?」
叫びながら勢いよく立ち上がった彼女が向かったのは、クゥの元じゃなく、昨日ライラの種を植えた場所だ。
イザベラは一体、何を見つけたんだ?
そう思って目を向けた俺の視線が止まる。
―――ん? 土が、掘り返されてる……だと!?
「掘り返されちまってるじゃねぇかぁ!!」
「イザベラ! ライラの種は!?」
さすがのダグも動揺しちまってるな。
安心しろ、俺も動揺してるからな。
って言うか、イザベラも動揺してるんだ。
みんな動揺してるじゃねぇか!
落ち着け俺。一旦深呼吸しよう。
そうしたら、夢でしたなんていう展開が降ってくるかもしれねぇよ。
―――いや、夢じゃねぇじゃん。
がっつり、掘り起こされてるじゃん。
イザベラが土の中をまさぐってるけど、種は見つからないみたいだぜ。
「誰がこんなこと……」
「もしかして、エオウィンが?」
「たしかに、アイツは種を集めてたけど……そういえばエオウィンはどうなったんだっけ?」
「あの男! 絶対に許さない!!」
「ねぇ、アタシの話を聞いてよ」
「クゥは黙ってて! アンタもライラの種を盗られたくないでしょ!?」
「そうだよクゥ! オイラ達で取り返しに行こう!」
「それはできないよぉ」
は?
どうしてできないんだよ!
憤るイザベラやダグと一緒にそう問いかけようとした俺は、振り返りざまに見たんだ。
クゥの背中に生えている、小さな芽を。
多分、イザベラとダグもそれに気が付いたんだろう。
二人とも押し黙ってしまったぜ。
頭の中を駆け巡る嫌な想像。
それを否定するために足元を見直すと、鳥の足跡があった。
『鳥類の足跡。地面に隠れていた食料を取り出すために、掘り起こそうとしたもの』
見物する瞳で見ると、一目瞭然だぜ。
「おいクゥ。そこに埋めてたライラの種。どこに行ったか知らないか?」
「え? それはねぇ~。長い長いお話をしないといけなくなっちゃうんだよ」
「ぜひ、聞かせてくれよ」
「クェ! そう、あれは昨日の夜のことよ! アタシは聞いたの。どこからともなく聞こえてくる声を。それは、こう言ってたのよ! くえ、くえ、くえ……って」
「で?」
「だから、食べたのよ!」
「吐き出しなさい!!」
「ちょ、イザベラ!? それはさすがに!!」
「イザベラ任せろ! 俺がこいつの腹の中に入って種だけ……って、もう腹の中に何も入ってねぇじゃねぇか!」
クソ!
見通す瞳で確認しても、ライラの種はもう見当たらねぇ!
消化しちまったのか!?
って言うか、くえ、くえ、くえって、完全にクゥ自身の「クェ」って寝言じゃねぇか!!
そんなことでライラの種が無くなっちまうなんて、たまったもんじゃねぇぞ!
ダグがクゥに飛び掛かろうとしてるイザベラを食い止めてる。
代わりに俺がクゥに飛び掛かってやろうか!
なんて考えてると、ダグが声を張り上げた。
「2人とも落ち着いてよ! クゥもきっと悪気があったわけじゃないよ! それに、背中の芽。あれってライラなんじゃないかな?」
「あれが?」
言われてみれば確かに、そう捉えることもできるか。
クゥの背中にできてた窪みに生えてる新芽が、朝日を気持ちよさそうに浴びてる。
その姿から、気持ちよさそうに背伸びをするライラの姿を連想することだって……。
いや、出来ねぇよ。
出来ねぇけど。
無関係と切り捨てるのも早計な気がしてきたぜ。
「確かに、クゥが話せるようになったことも合わせて考えると、ありえなくはないのか?」
生命の種はセイリュウによって作られたって話だったよな?
だったら、セイリュウを倒した後も不思議な力が少し残ってても変じゃないか。
「そう……なのかな? ホントに?」
「俺に聞かれても、分からねぇよ」
「見物する瞳でも分からないの?」
「それがな……」
ダグに言われる前に、俺は既にクゥの背中の芽を見物する瞳で見たんだ。
でも、結果は何も表示されなかった。
今まで、大した情報が得られないことはあっても、何も得られないことはなかったのに。
せめて『植物の芽』くらい出てきてもおかしくない。
もしかして、植物じゃないのか?
……まぁ、もはや植物と言えるかも怪しいけどな。
「そっか。でもさ。オイラはこの芽がライラだって信じたいな」
「信じたい? どうしてそう思うんだ? ダグ」
ようやく落ち着きを取り戻したイザベラから手を離したダグは、そっとクゥの頭を撫で始める。
気持ちよさそうに頭を傾げて見せるクゥ。
そんなクゥを見た後、視線を上げたダグが言ったんだ。
「だってライラがクゥと一緒に居るんだとしたら、クゥの瞳を通して広い世界を見て回れるってことでしょ?」
「ダグ……」
「ははっ。そりゃ確かに、信じたくなる話だぜ」
深い蒼が生い茂った森の中で真っ青な空を見上げるダグ。
そんな彼の姿が、どこか少しだけ大人びて見えたんだ。
と、そんな彼の様子に感慨深さを抱いていた時。
不意にナイフを手に取ったダグが自身の髪の毛を切っちまったんだ!
長い黒髪が、風に散らされて飛んでいく。
「ダ、ダグ!? どうしたの?」
「長かったから、そろそろ切ろうかなって思って」
「それにしちゃ思い切ったな」
「うん。なんかオイラ、吹っ切れたから!」
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