第6話 1冊目の魔導書
「俺がイザベラに共有できる情報って言えば――あの部屋に魔導書が1冊あったこと。それと……ガーディアンに見つかったってことだな」
「えっ、見つかったの?」
「おう。身体の小さい俺でもバレるんだから、相当鋭い“目”を持ってやがる」
あの赤い光。まるで俺の存在を射抜くように突き刺さった。
ただの灯りじゃない。奴は、あれで周囲を“見てる”んだろう。
「でも、音には反応しなかったな」
「視覚に特化してるってこと?」
「たぶんな。まぁ、俺の結論は“見つかると死ぬ”だ」
「……簡単に言うね」
肩をすくめるイザベラ。だがすぐに、彼女は自分の情報を差し出してきた。
「私が前に入ったときは、部屋の中央辺りで気づかれたんだ」
「ってことは、経路次第で安全に進めるかもってわけか」
「でも……見つかった後が大変だったんだよ」
彼女は唇を噛んで言葉を続けた。
「逃げたんだけど、扉の外まで追いかけてきて……足を怪我したのはそのとき」
「外まで!? あいつ、縄張り意識強すぎだろ!」
「しかもね、オークの巣に迷い込んじゃって……」
「おい待て、嫌な予感しかしねぇぞ」
「ガーディアンとオークが戦い始めたスキに逃げられたんだよね」
……マジか。オークたちの冥福を祈るしかないな。
「ほんと、運が良かったんだよ」
「いや、運がいいというか……オークが気の毒すぎるわ」
彼女の図太さに、俺は感心させられてばっかりだぜ。見た目は華奢でも、根性はある。生き残るための嗅覚ってやつか。
「で、正面突破は無理として……アイツ、冷気をまき散らしてたよな?」
「うん。突進してたオークが一瞬で氷漬けになってた」
「……はい、正面戦闘は論外決定」
近づけば凍りつき、遠くても赤い視線で見つかる。どう突破すりゃいいんだ。
「音は反応しなかったんだよね?」
「試す価値はあるな」
「じゃあ、呼びかけてみようか」
俺たちは扉を少し開き、イザベラが鍵を握って待機。
俺がわざと声を張ったが――反応なし。
「……やっぱり聞こえてないな」
「視界を封じれば、いける……?」
問題は、どうやって視界を奪うか。
「煙幕があればいいんだけどな」
「そんなの作れるわけないでしょ」
「じゃあ霧は? 冷気と組み合わせれば……」
その瞬間、俺の頭に電球が灯った。
「おいイザベラ、霧って何でできてるか知ってるか?」
「霧は……霧?」
「違ぇよ。霧は“冷えた湯気”だ。お湯を沸かせば湯気が出るだろ。それが冷やされると霧になるんだ」
「なるほど……でも、お湯は?」
「そこが問題だ……」
俺が腕を組んで唸ると、イザベラが思い出したように言った。
「日常で使える――」
「便利な魔術100選!!」
二人同時に叫んじまった。
クソッ、タイトルがふざけすぎて緊張感が台無しだ。
だが、背に腹は代えられない。あの本に“湯を沸かす魔術”が載ってる可能性は高い。
「で、その魔導書をどうやって持ち帰るかだが……」
「これを使うの!」
彼女が得意げに差し出したのは、ボロボロのロープ。
「どこで拾ってきたんだよ、それ」
「オークの寝床跡地。戦利品ってやつ」
「……いや、跡地になったの誰のせいだよ」
呆れる俺をよそに、イザベラはロープを俺の腰に巻きつけてきた。
「ちょ、ちょっと!? 何してんだ!」
「何って、ルースが本にロープを括りつけて戻ってくれば、私が引っ張れるでしょ」
「おい、俺を便利屋扱いすんな!」
「大丈夫、信じてるから」
この女……強かだ。だが理にはかなってる。
「分かったよ。危なくなったら絶対引き戻せよ。置き去りにしたら許さねぇからな」
「分かってるって」
そして俺は再び遺跡へ。
本棚の陰を伝いながら、目標の「便利魔術100選」へと近づく。
問題は目標が3段目の棚にあるってことだ。
俺の身長より高い。だが廃墟での生活を思えば登れない高さじゃない。
慎重に――と思った矢先。
「あっ……マズッ!」
手をかけた本がすっぽ抜け、床にドサリ。
心臓が跳ね上がる。だが、ガーディアンは反応しなかった。
「……音に反応しないってのは本当らしいな」
安堵の息を漏らしつつ、俺はさらに上へ。
3段目にたどり着き、例の本にロープを結びつける。
「イザベラ、準備はいいか?」
「いつでも!」
俺は本を真下に落とした。ドスンと音が響くが、やはりガーディアンは無反応。
ロープが引かれ、ずるずると本が運ばれていく。
……そして。
「やった! 手に入った!」
「よし……!」
俺たちはついに、初めての魔導書――『日常で使える便利な魔術100選』を手に入れたのだった。
タイトルのふざけっぷりが気に入らないのはさておき、だ。
これが俺たちの冒険の、確かな一歩になるのは間違いない。
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