第58話 魔導書の本領
「今のって、エオウィンよね!? なにしてるワケ!?」
『そんなこと俺に聞かれても分かるワケねぇだろ』
森でセイリュウが暴れ始めてしばらく、落ち着きを取り戻したクゥの背に乗ったオイラたちは、目の前で正面から突っ込んでいくエオウィンを見た。
正直、奴の正気を疑ったぜ。
でも案外、アイツにはアイツなりの考えがあったのかもな。
実際、セイリュウに飲まれたエオウィンは、ダグと合流して喉の奥へ進んでいったのだから。
腹の中で何かするつもりなのか?
そう思い、2人の進む先に何があるのか見通す瞳で確認しようと思ったんだけどな。
どうしてか、セイリュウの身体の中を見ることはできないんだ。
なんとなく、ダグとエオウィンの居場所がボンヤリ透けて見えるくらいだぜ。
まぁ、全く見えないよりはだいぶマシだけどな。
少なくとも、2人がまだ生きてることは確認できてるぜ。
『それにしても、暴れまくってやがるな』
「そうね、結構大きな木も根元からえぐられちゃってるし。このままじゃ森ごと全部なくなっちゃうんじゃない?」
『でもセイリュウが通った跡を見ると、新しい芽が生え始めてるぜ。しかも、ありえねぇ勢いで育ってやがる』
「もしかして、森ごと全部植え替えるつもりだったりするのかな?」
植え替え。
セイリュウにそんなことを考える頭があるのかは知らねぇが、結果的にはそうなるのかもな。
『分からねぇけど。今はそれよりも奴をどうやって倒すのかを考えた方がいい気がするぜ』
「そうね……。ねぇルース。もう一度セイリュウの身体を調べて、ライラさんがいないか確認できない?」
『それはさっきもやっただろ? 見える範囲のどこにもライラはいねぇ。それはイザベラも一緒に見たじゃねぇか』
「でも……」
『心配する気持ちは分かるけど、じっくり腰を据えて探すためにはまず、セイリュウをなんとかしなくちゃいけねぇ。違うか?』
「分かってる。ごめん」
そう呟いたイザベラは、視線を落とした。
……何が『分かってる』だよ。
見通す瞳でつぼみの辺りを探してんじゃねぇか。
欠乏と結合で体を共有してるから、そんなことをしたら俺にバレるのは当たり前なのに。
そんな簡単なことにまで頭が回らないくらい、イザベラは動揺してるみたいだぜ。
理由は簡単だ。
最後に聞いたライラからの別れの言葉が、引っかかってるんだろう。
気にならない方が変だしな。
『いい加減に気を取り直そうぜ。イザベラ、鉄板は残りどれだけあるんだ?』
「えっと……残り10枚かな」
『少ないな。でも、無いよりはマシだろ』
「これでセイリュウに攻撃するつもり?」
『鉄の魔導遺跡がセイリュウの力を抑えてたってことだよな? だったら、少なくてもいいから奴の身体に鉄板を刺せれば、少しは効くんじゃねぇか?』
「鉄板なんか刺されたら、セイリュウじゃなくても効く気はするけどね。まぁ、やってみるしかないかな」
『そういうことだぜ!』
「クゥ。もう少しセイリュウに近づいてくれる?」
「クェ」
『コイツ、こう見えてちゃんと通じてるんだよな。意外と頭がいいのか?』
「クゥ。あとでルースを突いていいわよ。失礼なこと言ってるから」
「クェ!?」
なんでいうんだよ!?
今のだけは通じてないことを祈りたいぜ。
のたうち回るセイリュウの頭上で、俺たちは準備を進めた。
準備って言っても、鉄板を刃に作り替えるくらいだけどな。
即席の刃が10枚。
持ち手がないから、扱いに注意だぜ!
こんなちっこい刃で、本当に効き目があるのか疑問だけど……。
迷っても仕方ねぇよな。
準備が整うと同時に、上空から急降下――その勢いを利用して刃を投げつける。
鋭く落ちた刃は、セイリュウの体表に絡む茂みの中に吸い込まれた。
「……ねぇ、ホントに効いてる?」
『……ダメかもだな』
小さな刃では、巨体のセイリュウには太刀打ちできない。
こりゃ、何度繰り返しても……無駄かもしれない。
―――そう思った瞬間、突風が視界と思考を吹き飛ばした!
『なんだ!?』
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
下から上へ、突き上げる風。セイリュウの長い尾だ!
飛行中の俺たちを弾こうとしたのか? ギリギリで避けられたが、危険極まりないぜ。
『イザベラ! クゥ! 大丈夫か!?』
「だ、大丈夫! 直撃はしてないわ!」
『かすっただけで今の風かよ! こりゃ何度も近づくわけには……ん?』
待て?
なんか、セイリュウの様子が変だぞ?
ずっと暴れ回ってたから気づくのが遅れちまったが、森を取り込もうとして暴れてるのと少し違うように見える。
なんていうか、まるで痛がってるような、苦しんでるような。
そんな暴れ方だ。
「ルース! なんか様子が変な気がするんだけど!?」
『俺も思ってたところだぜ! もしかしたら、さっきのが効いたのかもしれねぇぞ!』
信じられない。だが、やはり効いたのか。
そうと分かれば、もう一度やるしかない。
『よしっ! イザベラもう一回だ! 次はもう少し頭の方を狙おうぜ!』
「分かった!」
残り9回でどこまでできるか分からねぇけど、諦めるって選択肢はねぇからな。
旋回するクゥの上で構えたその瞬間、眼下のセイリュウがさらに暴れ始めた。
「あれ?」
『ん?』
なんか、俺達とは関係ないところでセイリュウが苦しんでないか?
まさか……。
降下し始めたクゥの上で見通す瞳を発動した俺たちは、2つの情報を目にすることになる。
1つは、セイリュウの胸もとにいるダグらしき人影が、振り上げた何かを勢いよく降ろした姿。
もう1つは、視界の中央に飛び出してきた文字だ。
『見出す瞳の効果を発動。周辺環境の変化により魔導の杖による究極魔導、憎悪の鍛界が発動可能』
「なに!?」
『イザベラ! 魔導書だ! 杖も準備しろ!』
視界に飛び出てきた情報に戸惑ってるイザベラは、俺の声を聞いて杖と魔導書を構えた。
よし!
よくわからねぇけど、これで鉄の魔導遺跡にあった魔導書の本領を発揮できるはずだぜ!
直後、暴れていたセイリュウが力なく倒れた。木々に覆われた全身は、まるで山脈のようだ。
そのまま、ダグの人影らしきものが見えるあたりに降下した俺たちは見たんだ。
動かなくなったセイリュウの身体を切り裂いて、姿を現したダグとエオウィンを。
そして、そんな2人の後ろから飛び出してきた謎の男を。
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