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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
2章:埋め尽くす者

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第56話 最後の1本

「ライラ!!」

『おいダグ! ちょっと待て!!』


 まだ油断するな!

 俺がそう伝えようとした瞬間、巨大な影が俺たちの頭上に迫って来たんだ!


「ダグ!! 危ない!!」

「えっ!?」


 イザベラの叫びと同時、柱の天辺に――生命の種が直撃した。

 轟音とともに柱が大きく傾ぐ。足元をすくわれ、ダグの身体が浮き上がる。


『ダグ! 氷柱つららを使え!!』

「ありがとう!!」


 両手で氷柱を鷲掴んだダグは、足元に突き刺して足場を作ろうとする。

 だけど、そんなものじゃ倒れ始めた柱の上で体勢を整えられるわけがなかったんだぜ。


 しかも落ちてきた種は一つじゃない。次々と衝撃が襲い、俺たちはついに宙へ投げ出された。


『マズイ!!』

「イザベラ!!」


 眼下で種が大地に叩きつけられ、爆音と共に土煙を巻き上げる。俺たちもこのまま地面に激突する――。


 だが空からクゥが猛然と飛んでくる。背にイザベラを乗せ、必死に翼をはためかせていた。

 けれど、間に合うとは思えない。落下する俺たちと、落ちてくる種を避けつつ急降下するなんて芸当、不可能に近い。


「ルース! 欠乏と結合(ユニオン・ラック)を解除して!」

『は!? 何言ってんだ! そんなことしたら』

「オイラにいい考えがあるから!!」


 その一言に、俺は賭けるしかなかった。


 欠乏と結合(ユニオン・ラック)を解除した瞬間―――ダグは俺を掴み、上空へ全力で投げ放った!


「うわぁぁぁぁぁ!?」

「ルース!! ダグッ!!」


 回転する視界。風を切る耳鳴り。イザベラの声が点々と響く。

 だが長くは続かなかった。俺の身体をクゥの背から伸ばした彼女が抱きとめたのだ。


「くそっ! ダグの奴なにを考えてんだ!」

「クゥ! ダグを探して!」

「クェェーッ!」


 俺を拾うためか少し高度を上げて旋回してたクゥが、再び降下を始めようと翼をたたんだ直後。

 俺もイザベラも、それを目にしたんだ。


 地面に落ちた種が、激しく明滅を始めてる!


 土煙を裂いて明滅するその輝きは、まるで何かが産声を上げる直前のようだった。


「なんだあれ!?」

「ちょっ!? クゥ!? どうしたの?」

「おいクゥ! どこに行くんだよ!」


 光の明滅を見たクゥが、怯えて方向転換しちまった!

 これじゃダグを助けに行けねぇよ!


 その刹那――光の中から、長大な影が姿を現した。


「あれは……セイリュウ!?」


 イザベラの言うとおり、一目見ればセイリュウだと俺にも分かったぜ。


 長大な胴を持つ龍。その身を覆うのは、無数の蔦と種。

 巨体をうねらせ、地を這うごとに周囲の植物を巻き込み、新たな種をばら撒く。

 動けば動くほど蔦が絡み、身体は肥大化し、通った跡には異形の芽が次々と生まれていく。


「こりゃ、時間が経てばたつほど手ごわくなりそうだぜ」

「でも、いまはダグを助けなくちゃ!」

「だな! でもアイツ、どこにいるんだ!?」

「瞳で探せないの!?」

「言われなくても探してるぜ! でも、落ちた場所辺りにはいないっぽいんだよな」

「落ちた場所ってどこよ!」

「あの辺だ! さっき、セイリュウが出てきた巨大な種の傍で……」


 そこまで言った俺は、ふと気が付いた。

 多分、イザベラも気づいたんだな。

 自然に視線を交わした俺たちは、続けてその目をセイリュウに向ける。


「まさか!」

「そのまさかだぜ! ダグの奴! セイリュウに取り込まれちまってる!!」

「ウソでしょ!?」

「ウソじゃねぇよ! ホントだよ!」

「生きてるよね?」

「多分生きてる、いいや、生きてるはずだ!」

「はずって何よ!」

「分かんねぇよ!」


 言い合いはすぐに虚しくなる。深呼吸して気持ちを押さえ込む。


 優先すべきは、セイリュウから遠ざかろうとするクゥをなんとかしねぇと。

 それから、ダグを助けて、ライラの状態も確認して、セイリュウも倒して。


 だぁぁぁ!!

 色々ありすぎてワケが分かんなくなってきちまったぜ!


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 イザベラとオイラを乗せたまま、クゥが空を飛べるとは思えない。

 だったら、ルースだけでもイザベラと合流させた方がいいはずだよね。


 そう考えたオイラはルースを宙に放り投げた後、腰に下げてたナイフを手に取った。


 これが最後の1本だね。

 1本はライラの光るツタを切ったときに弾き飛ばされちゃったし。

 他のは柱を上るまでに使い捨てちゃったから。


 今ある装備は籠手と鎧、そしてルースから受け取った氷柱の欠片だけ。


 これでなんとか、地面に着地しなくちゃだめなんだ。


 オイラに、できるかな?

 ううん。違う。

 オイラ、生き延びなくちゃいけないんだよ!


 大きな種の側面にナイフを突き立てて速度を落とせば、たぶん着地できる!

 やってみよう!


 そう思って身を翻したオイラは、視界いっぱいを覆いつくす強烈な光に、眩暈を覚えちった。

 眩しいよぉ。


 なんて悶える暇もなく強い衝撃を全身に受けたオイラは、ねちょねちょとした場所を転がったんだ。


 気持ち悪い。

 まとわりつく粘液。鼻をつく悪臭。


「うえぇ。ここどこ? なにがおきたの? ルース!? イザベラ!? 聞こえる!?」


 暗い中、オイラがそんな声を上げた瞬間。

 突然、周囲から光が射しこんできたんだよ!


 ギザギザとした亀裂から差し込む光は外の光みたいだ!

 でも、なんか外の景色が動いてるような?


 もっと詳しい様子を確認するために、体を起こしてギザギザの亀裂に近寄ろうとしたオイラは。

 気づいたんだ。


 ギザギザの亀裂が、閉じたり開いたりしてることに。


 なんか、獣の口の中に放り込まれたみたいな気分だよね。

 まさかそんなこと、あるワケないけど……。


 足元のねちょねちょが、舌だなんて言わないよね?

 それに、ギザギザの亀裂は歯の隙間じゃないよね。

 あと、この臭い空気は獣の口臭じゃないよね?


 違うよね?


 ルースもイザベラも、返事はしてくれない。

 ここにはオイラしかいないから当たり前だ。

 だったら、オイラが自分で調べるしかないみたい。


 多分、少し前のオイラだったらすぐに諦めてたかも。

 でも今のオイラは違うんだ。

 だって、ルースもイザベラも、きっと心配してくれてるからね!


「絶対に生きて出るよ。ううん。生きて出るぜ!!」


 ちょっぴりだけ勇気を借りても、きっと罰は当たらないはず。

 そしてオイラが意気揚々と行動を開始しようとしたその瞬間。

 ギザギザの亀裂が大きく開いたんだ!


 そして、あの男が飛び込んでくる。


「うおりゃぁぁぁぁ!!」


 まるで、巨大な獣に殴りかかろうとでもしたかのような勢いで飛び込んできたその男は、舌の上をゴロゴロと転がった。


 流れるような体裁きで体勢を整えたその男は、すぐにオイラに気が付く。

 当然のように、ニヤけて見せる男。

 そうして彼は言ったんだ。

 かつて、オイラに言ったみたいに。


「まさかこんなところに、ガキがいるとはなぁ!」

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