第52話 圧倒的な存在感
ゴーレムを作るにあたって、この大雨はまさに渡りに船だった。
なぜって? 答えは簡単だ。氷を大量に作る素材になるからさ。
本命は鉄のゴーレム。けれど作り方も仕組みも分からない今の俺たちには、まずは試行錯誤するしかない。全身びしょ濡れになろうが関係ない。そう腹を括って取りかかったが、やっぱり現実は甘くなかった。
雨脚がさらに強まるころ、空はすっかり暗く沈んでいた。どうやら今日の挑戦もこれが最後になりそうだ。
「指先の感覚がなくなってきちゃった」
「もう少しの辛抱だぜイザベラ。きっと次はうまくいくさ!」
「そうだね! 今回はすごくいい感じにできてるとオイラも思うよ!」
「そうじゃなきゃ困るわよ」
イザベラはため息混じりに言いながら、最後の部品をダグに渡す。
堅氷壁で作った氷をナイフで削って仕上げた手。
ダグがそれを慎重に取り付け、俺たちが作り上げた氷のゴーレムがひとまず完成した。氷の遺跡で見たゴーレムを思い出しながら組み立てた、見よう見まねの試作品だ。直立したまま動かないが、それは仕組みの手で補うつもりだった。
「おさらいするぜ! 今までに試した結果から、仕組みの手をうまく機能させるためには具体的な動きを指示する必要がある!」
「つまり、足と腕は別々ってことだよね」
「あぁ。それに、今の俺じゃ複雑な指示は付与できない。せいぜい部位ごとに一つが限界だ」
「もっと色々できれば良いのに」
「そういうならイザベラ、魔導書で氷のゴーレムを発動してくれよ」
「うっ……それができるならとっくにやってるよね」
「2人とも、集中しようよ」
「そうね、ダグの言うとおりだわ。ごめんなさい」
「だな。俺も悪かったぜ」
苛立ちかけた空気を、ダグがやんわりと鎮める。こういうときの頼もしさは、さすがだ。
「クェー」
「クゥ。ごめんね、喧嘩したわけじゃないから大丈夫だよ」
イザベラがクゥの頭を撫でると、場の緊張がふっと和らいだ。よし、気を取り直そう。
「まずは1歩、歩かせるぞ! 準備は良いか!?」
「良いよ!」
「私も大丈夫!」
俺はすぐにダグと感覚を共有し、ゴーレムの腕や足に触れて仕組みの手を発動する。
これが本当に難しい。指示を付与するたび、まるで頭の中で組み木細工を組み立てているみたいなんだ。
『脚部:足踏みの動作』
『腕部:腕振りの動作』
『胴部:直立』
それぞれの動きは、既に完成されてる仕組みを記録したものだぜ。
完成されてる仕組み、つまりは、俺たち自身の身体の動きのことだ。
付与はちゃんとできてるし、脚や腕や胴体の単体ではしっかりと動くんだけどなぁ。
ゴーレムの身体として組み合わせると、どうにもうまくいかねぇ。
1歩踏み出す前に、倒れるんだよ。
それを繰り返すこと36回。
失敗するたびに部品の形を変えたりして、ようやくの37回目ってわけさ。
『よしっ! 動けっ!!』
念じながら指令を下した直後、氷のゴーレムは――盛大にすっ転んだ。
「あぁ~。ダメだぁ~」
「足がちょっとだけ前に出てた気もするわよ……ちょっとだけだけど」
「慰めありがとなイザベラ……くそぉ~。うまくいかねぇなぁ。まだ何か足りないって言うのか?」
「そもそも、ゴーレムを作ろうって言うのが無理な気がしてきたんだけど」
「そうだね。オイラも、そんな気がしてきちゃったよ」
砕け散った氷片が雨に溶けてゆくのを見ていると、胸が空っぽになった。
イザベラとダグの言う通り、別の方法を探す方が現実的かもしれない。
でも、もう頭も体も限界だ。雨に打たれ続けて、体力も気力も残っていなかった。
俺たちは言葉を交わす余裕もなく、洞窟に戻る。
粗末な食事と固い寝床でも、少し眠れば違う。翌朝を迎えた俺たちは、改めて作戦を話し合い、氷のゴーレム作りは一旦諦めることにした。
だが、無駄ではなかった。仕組みの手の応用方法が分かったんだからな。
ならば――転ばないものを作ればいい。ライラのツタを貫かせない、頑丈なものを。
試行錯誤の末、俺たちは完成させた。
「なにこれ?」
「足が生えた箱、かな?」
「み、見た目は不格好だけど、ちゃんと役割は果たせるはずだぜ!」
「たしかに、鉄板なら貫かれないだろうけど。これの中に入るの? なんか嫌なんだけど……」
鉄板を組み合わせ、鉄の棒を足にした簡易兵器。
見た目は不格好だが、組み上げる手で無理やりくっつけたんだ。これでも一応動くぜ。
「で、これに乗ってライラの懐に潜り込むワケ?」
「あぁそうさ。そこまで行ければ、俺とダグでつぼみの中に突っ込めるはずだ」
「それって、作戦って言うわけ?」
「オイラも、ちょっと心配だよ」
「俺だって、正直うまくいく自信はねぇよ! でも、悠長なことを言ってられる時間は無いだろ?」
俺の言葉に、二人は黙って顔を見合わせ、それから空を仰いだ。
昨日とは打って変わって、雲一つない青空。
だが俺たちの胸に広がったのは、晴れやかさではなく、焦燥だった。
ゴーレムづくりを諦めた理由――そのひとつが、視界に突き刺さる。
森の木々を圧倒するほど巨大なつぼみ。夜のあいだに、天を突くほど成長していたのだ。
「クェ……」
クゥの小さな鳴き声が、森の静寂に溶けていく。
この静けさは、嵐の前の静けさ。
そして――これから来る嵐は、俺たちの想像をはるかに超える気がするぜ。
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