第50話 ものは考えよう
「強くなってきたな……」
「だね。これじゃ外に出れないよ」
夜を越えて降り続く雨は、一段と激しさを増していた。まるで嵐が洞窟を襲うような勢いだ。
ダグの言う通り、この天気じゃ迂闊に外へ出られない。
「……泣いてるのかな」
誰が、とは聞かない。暗い空をじっと見上げるダグの視線が、何を思っているかは、なんとなくわかる。
「ほらダグ。こんなところに居たら飛沫で体が冷えちまうぞ」
「うん」
「今はしっかりと準備を整えるしかない。だろ?」
「そうだね。失敗、できないもんね」
「そういうことだ」
小さく頷いたダグは、洞窟の奥へ足を向ける。その頭上に乗る俺は、薄暗い洞窟の唯一の光に目をやった。
「イザベラ。どんな感じだ?」
「ん~。傷は癒えてるみたいだけど、やっぱり“これ”は元通りにならないみたいね」
「そうか」
「痛くはないみたいだけどね」
「クェェェ」
頭を撫でられ、眩しそうに鳴くのはクゥだ。照明魔術で照らされて目を細めている。
「元気そうなら大丈夫だろ」
「そうね。でも、違和感はあるみたいよ」
イザベラは撫でていた手を背中へ滑らせた。生命の種を抜き取った跡――大きな窪みが残っている。
リカバリーで治れば良かったのだが、現実はそう甘くはない。
「まぁ、ものは考えようって言うだろ? 俺としてはクゥの背中に乗りやすくなったから、ありがたいぜ」
「最低ね。アンタの背中に同じようなのができたら、嫌がるくせに」
「そん時はそん時さ。少なくとも、セイリュウの影響で正気を失い続けるくらいなら、背中の窪みなんか気にしねぇぞ俺は」
「そっか……ものは考えよう、ね。それにしたって失礼な男よねぇ。クゥ」
「クゥ~~~~~」
くっ。背中を優しく撫でると鳴くのを知っててやっている。まるで俺が悪者みたいだ。
だがいい。クゥは俺たちの希望だ。
「そんなことよりもだ。準備をするぜイザベラ」
「分かってるわよ」
「生命の種を取りに行くんだよね?」
ダグの言うとおり、俺たちは近いうちにライラの生命の種を奪い取りに行く。
そうすれば、クゥと同じように彼女は元の姿に戻って正気を取り戻すはずだ。
状況は過酷なままだけど、やるべきことだけは分かってる。
それを教えてくれたって意味で、クゥは希望なんだぜ。
「ライラさん、生命の種を集めてるって話だったよね」
「おそらくな。あのデカいつぼみの中に、大量にある」
「大量にある種を、全部奪い取るの?」
「それについてはもう少し調べる必要があるんだよ……たとえばクゥだ。正気を失ってた時も、クゥの本体は残ってた。そしてその本体に生命の種が埋まってただろ? ってことはだ、あのつぼみの中にライラの本体が残ってるはずだと俺は考えてる」
「でも、見通す瞳で見えなかったんでしょ?」
「見えなかったって言うか、見つけられなかったって言う感じだぜ。なぁ、ダグ?」
「そうだね。オイラも見てたけど、沢山の種に驚いちゃって探せてなかったよ」
「なるほどね。じゃあもう一度偵察して―――」
「いいや、偵察は必要ないぜ」
「どうして?」
クゥの頭を撫でる手を止め、俺に尋ねるイザベラに、親指を立てて自信を示す。
「まぁ、俺のことを信じろって。一発で見つけてやるからよ! それに、悠長なことは言ってられないってのもあるからな」
「仕方ないから話を進めるけど。どういう意味?」
「ライラが生命の種を集めてる。これが何を意味するか分かるか?」
「……種はセイリュウの影響で生み出されてるもの。だから種が集まれば集まるほど、より強い影響を受ける可能性がある。ってことかな?」
「さすがイザベラだぜ。褒めてやるよ」
「なんか、ムカつくんだけど」
「まぁまぁ、落ち着けよ。それよりもだ。種が集まることでセイリュウの影響が強まるとしたら、ライラはなぜそんなことをしてると思う?」
「さぁ? それこそ、セイリュウに操られてるんじゃない?」
「それも可能性の一つだが、俺が思うに、あれはきっと調和を崩そうとしてるんじゃないかと思ってるんだ」
調和。
俺が出したその単語を聞いて、イザベラとダグが深く考えこみ始めたぜ。
そんな彼女たちに、俺は1つ気付きを提供しよう。
「そもそもだぜ、生命の種って言うくらいだ。その種が芽吹いたら、何になると思う?」
「花が咲く?」
「悪くない答えだぞダグ。それじゃあ、その花って言うのはなんだ?」
「……セイリュウ?」
「お、イザベラも気づいたか?」
「ちょっと待って……そういうこと?」
「花が咲くと、セイリュウになっちゃうの?」
「可能性の話だけどな。そしてそんな種の影響を抑え込んでたのが、鉄の魔導遺跡。これってまるで、ソヴリンを封じるための仕組みみたいに俺には見えるんだが、どう思う?」
思い返してみてほしいぜ。
南の大陸で入った氷の魔導遺跡は、どうなってた?
少なくとも、俺が初めて中に入った時点で、氷の魔導遺跡の中は荒れ果ててたんだぜ。
「それじゃあつまり、魔導遺跡がソヴリンを封じ込めるために存在してて。それが壊れちゃった今、セイリュウは本来の力を取り戻そうとしてる……ってこと?」
「俺はそう考えてる」
「ねぇルース。セイリュウが力を取り戻したら……どうなるのかな?」
「さぁ。そればっかしは俺にも分からねぇ。でも、クゥやライラの様子とスザクの暴れてた南の大陸を考えると、良い結果にはならないだろうぜ」
「……もしかして、エオウィンはそのことを知ってた?」
「どうだろうな? 魔導遺跡が崩れたことで、影響が出ることは知ってるみたいだったけど」
もう一度話して、色々と聞き出したいところではあるが。
それはまたの機会にしておこう。
深刻な二人を前に、ようやく本題に入る。
「ところでイザベラ。少し疑問に思わねぇか?」
「なにが?」
「魔導遺跡がソヴリンを封じ込めてたっていうところだよ」
「……何が言いたいの?」
よしよし、食いついてきたな。
ダグも興味津々って感じで俺を見てきてるぜ。
「さっきも言っただろ? まるでソヴリンを封じるための“仕組み”みたいだって」
「それは分かってるわよ」
「いいや、分かってねぇぜ? “仕組み”だぜ? なにか思い当たることはねぇのかよ」
「思い当たること? そんなの―――」
「あっ!」
先に気づいたのは、ダグだったらしい。
まぁ当然か。
ダグの方がなじみ深い“力”だったからな。
「仕組みの手!!」
「そうだぜダグ!」
「は? それって、いまいち使い道の分からない力でしょ?」
イザベラはまだまだだな。
まぁ、俺も人のことは言えねぇんだけどな。
そう自嘲した俺は、1つの道をイザベラに示してやることにした。
可能性の道、をな。
「使い道が分からないって言うのは、使いこなせてないってことだと俺は思うんだよ。そんなど素人の俺たちが達人の技を見ても、簡単に理解できないもんだろ? つまり、魔導遺跡って言うのは、その道を究めた何者かが生み出したもの。そう考えたらどうだ?」
「つまり、その仕組みの手を究めたら、魔導遺跡を作れるってこと?」
「それに近しいものは作れるかもしれない。そういう可能性の話をしてるんだぜ」
どのみち、今の俺たちが持っている力だけじゃ打開策は見当たらないと俺は踏んでる。
だからこそ、新たな力が必要なのさ。
そもそも、この“手”は自称神様から授かったものだしな。
そろそろ有効活用する時だろ?
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