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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
2章:埋め尽くす者

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第49話 あの頃の記憶

『良い気付きだぜ、ダグ!』


 俺は叫び、クゥの身体に潜むはずの生命の種を探した。

 ――あった。背中だ。


 引き上げられている俺たちからだと見えにくい位置だが、見当もつかないよりはずっといい。

 問題はどう奪うか、だ。

 こうなりゃ一か八かでいくしかねぇ!


『ダグ! 氷柱を口で咥えて、触手を切れるか!?』

「やってみるよ!」

『言い心がけだぜ! 氷柱突アイシクル・スラスト!』


 次々と生み出される氷柱。

 それを口で受け止めるのは無茶だ。けど――諦める俺たちじゃねぇ。

 できるまで繰り返す。ただそれだけだ。


「おっは!(とった!)」

『よし良いぞ!』


 ダグは咥えた氷柱を右手に巻き付く触手へ突き立て、首を大きく振り回した。

 ブチブチと嫌な音を立て、触手が千切れる。

 自由になった右手で腰のナイフを抜くと、勢いよく両足を縛る触手を断ち切った。


 俺たちの身体が振り子のようにぶれる。

 その衝撃で、クゥも体勢を崩した!


『いまだ!』

「うん!!」


 揺れる反動を利用し、ダグは木々の幹を足場に跳んだ。

 左腕に絡む触手を引きずり、落下するクゥの背へ飛びつく。


「あった! 種!」

『ダグは種を頼むぜ! 俺はシャーの相手をするからよ!』


 クゥの背中から覗く生命の種。

 ダグがナイフを突き立てた瞬間、背後から影が迫る。


 反射的にケトルを発動し、飛び掛かってきた猫に熱湯を浴びせる。

 ギャッと悲鳴を上げ、シャーは枝に叩きつけられながら落下していく。

 気の毒だが、今は構っていられねぇ。


「とぉれたぁぁ!!」


 クゥの背から引き抜かれた生命の種。

 繊維がブチブチと千切れる音に、俺も思わず顔を歪める。

 だが効果は絶大だった。


 触手が一斉に枯れ落ち、クゥの目に正気が戻る。


「クェ……?」

『よし! うまく行ったみたいだな!』

「ルース! どうしよう! クゥの背中から血が止まらないよ!」

『なに!?』


 種が抜かれた背の穴から、握り拳ほどの大きさの出血。

 このままじゃ危ねぇ。


『マズいな。ダグ、クゥにいったん逃げるように言うんだ! その間に、俺が治療する!』

「クゥ! 遠くに飛んで逃げるよ!」

「クェェ」


 治療を優先するしかねぇ。

 リカバリーを当てると、クゥは羽ばたき、俺たちを載せて高度を上げていった。

 雨脚が強まる中、シャーとブゥの追跡もかわしたはずだ。


『ふぅ。なんとかなったな。一旦洞窟に戻ろうぜ。雨も厄介だしな』

「そうだね。クゥ。あっちの方に飛べる?」

「クェェ」


 こうして俺たちは、頼もしい仲間クゥを連れて洞窟へ帰還したんだ。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ――ここは、どこなのでしょう。

 息苦しいほど狭い。手足も動かせず、皆の声も届かない。


 小さな箱に閉じ込められたみたい。

 嫌な感覚のはずなのに、なぜか懐かしい。


 ダメですね。

 こうしていると、気分が落ち込んでしまいます。

 もっと楽しいことを考えましょう。


 クゥやシャー、それからブゥ達は今頃何をしているのでしょうか。

 いつも通り、お昼寝でもしてくれていたらいいのですが。


 そういえば、今はお客様を迎え入れていたはずですね。

 イザベラ様とダグ様、それからルース様。


 本当に不思議な方々で、お話をしているだけでも楽しい方たちです。

 できることならば、ずっと一緒に暮らしていて欲しいと思ってしまいますが。

 多分、それは叶わない願いなのでしょう。


 彼らはソヴリンを討つ者たち。


 私には彼らの足を止めることはできません。

 なぜなら、彼らは彼らの足で歩いているのだから。

 この地に根差している私が、簡単に引き留めるわけにはいかないのです。


 もし……。

 もし、私が彼らを引き留めたとしたら。

 一緒に暮らしてくれないかと頼んだとしたら。


 彼らは何というのでしょうか。

 どんな言葉を投げかけてくれるのでしょうか。


 いいえ。

 ダメですね。

 そのようなことを考えては、いけません。


 森林が貪欲であってはいけないのですから。


 望んではいけない。

 求めてはいけない。

 考えてはいけない。

 願ってはいけない。


 それが、この地における生き方。

 守ってゆくべき、調和。


 幼い頃から、何度も何度も聞かされたことなのですから。


 ただ一人遺された私が、それを破るわけにはいけないのです。


 だから私は、ただ物思いに耽ることにしておきましょう。

 夢を思い抱くことくらいなら、許されるはずなのです。


 そういえば……その夢の中の1つを私は叶えることができたんでしたっけ。


 まさか夢を見ることができるだなんて、思ってもなかったのに。

 彼らのおかげで私は、夢を“見る”ことができたのです。


 不思議なものですね。

 見ることができるようになったから、私は様々な物を思い、“描く”ようになったのでしょう。


 それは、たとえば……。


『なぁライラ。そんなこと言ってねぇで、俺たちと一緒に旅に出ようぜ!』

『そうだよライラ! オイラたち、一緒に行きたいな!』

『見たことないものを見て回るのは、きっと楽しいですよ。ライラさん』


 ずっと。

 ずぅっと、胸の奥深くで渦巻いてる彼らの声が……消えてくれない。


 そんなこと、許されるわけがない。

 私は、この地で生まれてこの地で生きていくべきなのだから。

 この地を離れて、彼らと一緒に旅をするなんてこと、許されないのです。


 そう。

 だからこれは、叶うことのない夢。

 叶えてはいけない、夢なのですから。

 だから、間違っても―――


『どうしてダメなんだ? 良いじゃねぇか。もうライラ以外誰もいないんだろ?』

『そうだよ。独りぼっちより、オイラたちと一緒の方が楽しいよ!』


 だけど……私は。


 私はまだまだダメですね。

 はっきりと拒絶しなくてはならないのに。

 こうして言いよどんでしまう。


 もし本当に、彼らから提案されたら。

 その時私は、上手く断れるのでしょうか。


 自信がありません。

 特に、続くイザベラ様の言葉を聞いてしまったら―――。


『他の人たちも、実はどこかに行っちゃったのかもしれませんよ? せっかくルースのおかげで目が見えるようになるんですから、行きましょうよ!』


 ダメです。

 とても魅力的な誘いですが。

 乗るわけにはいきません。

 だって。

 だって!


『我々はこの地で、深く強い根を張って生き続けなければならないのです。そして、いつの日か現れる勇者を……導かなければならないのだ』


 いつのことだったでしょう。

 とても懐かしい彼の声が、私の中に響き渡ります。


『その時が来たら、あなたにも力を借りなければなりません。ライラ。だから、分かっていますね』


 そう告げた彼は、いつも私の頬を優しく撫でてくれました。


 気が付いた時にはいなくなってしまっていた彼の言葉を。

 想いを、私は受け継ぐ必要があります。


 だから私は、この地を離れるわけには―――


『誰だよソイツ? いつの間にかいなくなったなんて。怪しいじゃねぇか』


 そんなことはありません!

 彼は―――


『いやいや怪しいだろ? だって、死んだんだとしたらさすがにライラも気が付くだろ? どうして、突然いなくなるんだよ』


 それは……。

 いいえ、違います。

 これはルース様の言葉じゃない。

 私が勝手に想像している、偽りの言葉です。

 惑わされる必要なんてないのです。


『惑わされてるのは、ライラの方なんじゃないか?』


 偽りの言葉。

 そう思っていたルース様の声が、問いかけてきました。


 違いますね。

 これは問いかけられたのではありません。

 突きつけられたのです。


『ソイツもセイリュウの影響を受けて植物になってるんじゃねぇよな? って言うかそうじゃないとおかしいぜ。だって、絶対に影響を受けちまうんだからな。でもまてよ? そう考えると、改めておかしいよな』


 どうして、ライラは姿が変わってないんだ?


 それは以前、イザベラ様にも問われたこと。


 姿が変わっていないなんてこと、深く考えたことなどありませんでした。

 だって、見た目なんて気にしたことがなかったのだから。


 だけど、1つだけ説明できる理由があります。

 考えたくもない、思いつきたくもなかったこと。


 そもそも、どうして私は植物を操ることができているのか?

 少なくとも、イザベラ様もダグ様もそんなことできない様子でした。

 人間は、そんなことできない生き物なのです。


 知っていたはずなのに。

 目にするまで考えたこともなかったこと。


 それはつまり、私が……。


『なぁライラ。アンタって、本当に人間なのか?』


 知りたくなかった。

 考えたくなかった。

 気づきたくなかった。


 ……思い出したくなかった。


 頬に触れた、温かな彼の手。

 その直後、降り注いでくる心地の良い水の感触。


 懐かしい。

 今のこの状況を、私がそう感じてしまうのは。

 きっとあの頃の記憶を思い返しているからなのでしょう。


 地に根を張り枝葉を伸ばす―――植物だった頃の記憶を。

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