第43話 鋭い音
正面から迫るのは、凶器を振りかざす鉄のゴーレム。
頭上では、天井の亀裂からエオウィンが鋭い眼差しを落とす。
周囲には奴がばら撒いた植物人間たち。
……ヤベぇ。これは本当に、絶体絶命だ。
『ライラ! イザベラとダグに集まって迎撃するよう言ってくれ! バラバラのままだと各個撃破されちまうぞ!』
「イザベラ様! ダグ様! 私の傍に集まってください!」
「分かりました! ダグも、急いでっ!」
「うん!」
よし、これである程度はしのげるはずだ。
ありがたいことに、鉄のゴーレムが植物人間に反応してるからし対処するなら今の内だぜ。
「ルース様! 私は傀儡を増やしながら時間を稼ぎますので、あのゴーレムの対処法を見つけてください! 恐らく、私の鞭では通じません!」
『苦手ってことか……確かに分が悪そうだな』
まあ正直、俺たち全員分が悪いがな。
ライラは鞭で絡め取った植物人間を次々と傀儡に変えていく。四方からの攻撃を華麗にさばく姿は頼もしい。
そんなことを考えていると、イザベラが新たに手に入れた魔導書を開いて唱えた。
「盾錬成:籠手!」
「これは?」
「ダグ! とりあえずこの籠手とナイフを渡しておくから!」
「ありがと」
「ルース! 私と欠乏と結合できる!?」
ナイフを籠手に変えたのか。さすがイザベラ。機転が利く。
そんな彼女が俺との欠乏と結合を求めるということは、何かしら考えがあるんだろう。
だが――ライラの視界を奪うことになる。それは危険すぎないか?
「かまいません! ルース様! やってください!」
『でも、大丈夫なのか?』
「大丈夫です。先ほどから彼らの動きを見ていますが、直線的なものがほとんどなので対処できると思います! いまなら、ダグ様もいますし!」
『よし分かった! 解除するぞ!』
ライラとの結合を解き、イザベラへ。
『よし! これで良いか?』
「うん! 2人が時間を稼いでくれてる間にやらなくちゃ!」
『何をするつもりなんだ?』
「まず、氷結塔でアイツのいる屋根をブチ抜くのよ!」
なるほどな。植物人間の元凶を叩く――いい判断だ。
『じゃあ俺がケトルであたりを熱湯まみれにしてやるぜ! ケトル!!』
「お願いね! ライラさん! ダグ! こちらに気を付けてね!!」
「分かりました!」
「オイラも分かった!」
「全部聞こえてんだよ!」
エオウィンが黙って見ているはずもなく、果実の雨を俺たちめがけて集中させる。
『堅氷壁!』
氷壁を張らなかったら、目の前に植物人間が飛び出てくるところだったぜ。
「アイツ! 本当に嫌な奴ね!」
『そりゃ、あの野郎だって簡単に死ぬつもりはないだろうさ。でもな、イザベラ。俺は気づいちまったぜ?』
「気づいた? 何の話?」
そう。
俺は気づいたんだ。
簡単に言えば、エオウィンを出し抜くための隙ってやつに。
そもそも、エオウィンの放つ果実はツタを経由して運ばれてきている。つまり、溜め込む場所を見れば狙いが読める。
だからさっきの奇襲も防げた。エオウィンの顔が歪んだのは、そのせいだ。
そして、そんな奇襲はそう何度も使えないだろう。さらに言えば、俺達には援軍がやってくるはずだから!
『いいか、イザベラ! 俺が合図したら思いっきり走りだせ! そして、次の合図で氷結塔を放て!』
「よく分かんないけど分かった!」
「……よしっ! 今だ!」
氷壁を斜めに伸ばし、即席の踏み台に。
「ちょ!? 跳べって!?」
『跳べ!』
「無茶言うわねっ!!」
文句を言いつつも飛んだイザベラは、群れを飛び越えた。
「ケトル!! ここだっ!」
「氷結塔!」
蒸気が立ち込め、その熱を核に氷の塔が一気に天井を貫く。
亀裂の端でエオウィンが顔を歪め――
「クエェェェェーーーー!!」
鳴き声とともに聞こえてくる羽ばたき音。
その音で、イザベラも気が付いたらしいぜ。
「クゥ!?」
『だけじゃねぇぞ! クゥ親子がシャーとブゥも連れてきたんだ!』
クゥたちは今、天井にいるエオウィンが逃げ出すのを邪魔してくれてるぜ!
おかげで、作戦が上手くいきそうだ!
どぉぉぉん!!
鈍い音ともに天井を打ちぬいた氷の塔。
その衝撃で、エオウィンが掴まってる天井一帯に大きな亀裂が走る。
『降りて来いよエオウィン! 受け止めてはやらねぇけどなぁ!!』
「っ!? ちょっと待って!!」
どうしたんだよ。
人が気分よく奴の落下するところを眺めようとしてるときに!
そう思い、イザベラの見てる方に視線を向けた俺は思わず叫んじまったぜ!
『おいおい! こっちに来るなよ!!』
迫りくる鉄のゴーレム!
その背後には、床を転がってるダグとライラの姿が見えた!
『なんだ!? 急に俺たちを狙い始めたのか!?』
「考えてる暇ないわよ!!」
横薙ぎの一撃。俺たちは必死で跳び退き、床を転がった。
全身が焼けるように痛むが、生きてるだけマシだ。
『ミスト!! 大丈夫かイザベラ!』
「だ、大丈夫! お、おわっ!?」
立ち上がろうとするイザベラ。
だが、それは簡単なことじゃなかったんだぜ。
なぜって?
鉄のゴーレムが突進の勢いを殺すことなく、壁に衝突したからさ。
再び鳴り響く鈍い衝突音と軋むような金属音。
それらの音が少し落ち着き始めた頃、俺たちは聞いたんだ。
何かが、破断するような鋭い音を。
1つ、もう1つと聞こえ始めたその鋭い音が、連鎖的に拡大していく。
「どうなってるの!?」
『マズいぜイザベラ!』
「なに!? 何が起きてるの!?」
『遺跡を支えてた柱が、いくつか折れちまったみたいだ! たぶん、今の衝撃に耐えられなかったんだろ。くそっ! また別の柱が折れた!』
「それって……」
『あぁ! 遺跡が崩れるぞ!!』
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