第41話 世界は弱肉強食
前に訪れたのは氷の魔導遺跡だったが、ここは鉄の魔導遺跡だ。大きな木を模した外観だが、壁も床も天井も分厚い鉄板で覆われている。
「じゃあ開けるね。先に聞いておくけど、扉の先にゴーレムとかいないよね?」
『あぁ、いないぞ』
「いないと言っています」
「よかった。じゃあダグ、扉が開いたら先導お願いね」
「うん!」
ダグは昨晩準備していたナイフを構え、やる気満々だ。
扉は叡智の鍵で開き、軋む金属音とともに広間が現れた。壁沿いの階段を上っていく構造らしい。
「さ、行きましょう」
イザベラの声で俺たちは足を踏み入れる。ライラの獣たちは入口で待機中。ゾロゾロと入れば面倒が起きるだろうからな。
振り返ると、クゥが寂しそうにこちらを見つめていた。
「おぉ~。でっかいね!」
「広間の奥に部屋があるみたいですよ! 行ってみましょう!」
「ライラさん。その部屋には魔導書がありそうですか?」
『見たかんじ、無さそうだぜ』
「ルースさんは、無いと言っています」
「それじゃあ申し訳ないですが、先に魔導書の回収をさせてください。部屋の確認はその後にしましょう!」
「仕方ありませんねぇ」
ライラとしては奥の部屋が気になるみたいだが、ここはイザベラの言う通り魔導書を優先するべきだよな。
それにしても、何階建てなんだよ。
上の方まで見通す瞳で探索してみても、まだよく見えない階層があるぜ。
『4、5……7階くらいはありそうだな』
「7階!? そんなにあるのですね!」
『なんで嬉しそうなんだよ……』
「7階……それを全部登るのかぁ。火炎の塔を思い出すわね。まぁ、ここは暑くないぶんマシだけど」
「ねぇイザベラ。あそこに何かあるよ」
壁面にある小さな窓の明かりを頼りに、階段を上ってた俺たち。
すると、少し先を指さしたダグがそう言ったんだ。
ま、俺は事前に気づいてたけどな。
「ルース。あれは何?」
『崩れたゴーレムみたいだぜ。でも、動いてはないみたいだ』
「崩れたゴーレムで、動いてはないと言ってます。あの塊が動くのですか? ちょっと見てみたいですねっ!」
「ちょっとライラさん。怖いこと言わないでくださいよ!」
「でもこれ、もう動かないと思うよ?」
「ちょっとダグ!? 近づきすぎよ!!」
いつの間にか崩れてるゴーレムの傍に立ってたダグが、破片を1つ拾い上げる。
勇敢というよりは不用心だな。
まぁ、それだけ俺の言葉を信じてくれたってことなのかもしれねぇけど。
「ほら、バラバラだよ」
「それならいいけど……はぁ、とりあえず、早めに通り過ぎちゃおう! 階段で長話してても、意味ない―――」
「クェーーーーーーーッ!!」
「クゥ!? どうしたの!?」
入口の方から突然飛んできたクゥが、慌てた様子でライラに飛びついてる。
ってことは、入口で何かが起きたってことだよな!
そう思い、咄嗟に広間の入り口に視線を戻すと、巨木の化け物、エオウィンが扉を押し開けて入ってくる。
『エオウィンか!?』
「へへへっ! まさかテメェらが遺跡の入口を見つけてくれるとはなぁ! 感謝してやる!」
「アンタ! なに勝手に入ってきてるのよ!」
「あぁん? テメェらに勝手だなんだと文句を言われる筋合いはねぇよ! この世界は弱肉強食! 手に入れたもん勝ちの世界なんだよ!!」
そういったエオウィンは、自身の身体から無数の枝を伸ばしたかと思うと、広間中に大量の実を放ち始めた!
壁や床に衝突して潰れた実の中から、何かが……。
「なにあれ! 動き始めたんだけど!」
「さぁさぁ!! 誰が初めに魔導書を見つけることができるのか! 勝負と行こうじゃねぇかぁ!! まぁ、テメェら3人じゃ俺様たちに敵わねぇだろうけどなぁ!!」
木やツタで形作られてる人型のそれは、一斉に階段の上を目指して走り出しやがった!
『くそっ! このままじゃ、奴に先を越されちまうぜ!』
「どうしましょう! 私達も急いで階段を駆け上がりますか!?」
「そうですね! ほらダグ! 行くわよ!」
「うぇ……う、うん!」
「そう簡単に進めると思うんじゃねぇぞ! おらぁっ! 奴らの足止めもしろっ!!」
くっ!
エオウィンが俺たちの進路上に例の実を投げつけやがった!
『ライラ! 急いで駆け抜けるぞ!』
「はい! イザベラ様! ダグ様! 行きましょう!」
「ダグ!! しっかりしなさいよ!!」
こりゃマズいな。
ヤツが現れたせいで、ダグの調子が狂わされちまってるぜ!
かといって、どこか落ち着ける場所でダグの調子が戻るのを待つわけにもいかねぇし。
イザベラもライラも近接戦闘はあまり得意じゃねぇからな。
『とにかく、アイツからなるべく離れようぜ! それがダグのためにもなるはずだ!』
「そうですね!」
「ちょっ! あの植物人間たち増えすぎじゃない!? かなりの数が追ってきてるよ!」
イザベラの言う通りだ。
俺の瞳の力で行き止まりにぶち当たることはねぇんだけど、いかんせん、敵の数が多すぎて使える道がどんどん潰されていってる。
そうとなると、どこか奴らを迎え撃てる場所を探さなくちゃならねぇんだけど!
『だぁぁぁ!! どこにもそんな場所がねぇよ! ライラ! そこは右だ!』
「はい!」
未だに俺たちが逃げ続けることができてるのは、この遺跡が入り組んだ構造になってくれてるおかげだ。
それにしても限度があるはずだが。
とにかく今は、階段を目指そう。
まだ敵の侵入できてない階層まで上がれれば、活路が見いだせるはずだからな!
『左に階段! でも敵が反対側から迫ってるぜ!』
「イザベラ様! ダグ様! 左へ急いで!」
「はい!!」
「ダグ様! ちょっとそのナイフ、お借りしますね!」
『おいライラ! 何をするつもりだ!?』
ライラは階段前で身を翻し、手にしたナイフを構え、髪を掴むと一気に切り裂いた。
『なっ!? 何してんだ!?』
「足止めします!」
そう叫んだ彼女は、いましがた切り落とした髪を鞭のように振るい、迫りくる植物人間をからめとりやがった!
「少しだけ拝借しますね!」
髪でからめとった植物人間をグイっと引き寄せ、その胸もとにそっと触れる。
すると、髪から逃れようとしてた植物人間が急におとなしくなったんだ。
『なにをしたんだ!?』
「ふふふ。心を通わせたのですよ。そうですね、この子の名前は何にしましょう」
『ちょ! 名前を決めてる場合じゃねぇよ! 次が来てるぜ!』
「そうでした!」
階段に迫る敵に向かい、ライラが心を通わせた植物人間が突撃する。勇猛な戦士のようだ。
『便利だなその技。魔術か?』
「まぁ、そのようなところだと思います。緊急時にしか使いませんけれど」
どんな技なのか知りたいところだが、今はそれどころじゃないな。
敵が階段を上ってくる前に、俺たちは先に進まなくちゃいけねぇ。
「ライラさん!? その髪……大丈夫だったんですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。それよりも今は先を急ぎましょう!」
「はい……あ! そういえば。さっきクゥがそこの窓から外に飛び出して行っちゃいました!」
『クゥのやつ、まさか俺たちを置いて逃げたのか?』
「賢い子です。援軍を呼びに行ってくれたのでしょう」
ライラは戸惑うイザベラの肩に触れ、余裕を見せながら駆け始めた。窮地にあっても動じない、頼もしい光景だ。
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