第38話 1歩1歩踏みしめて
森で組み立てる手を試した俺は、早速つまずいた。
理由は単純。俺の手が小さすぎるんだ。
ダグやイザベラが運んでくる枝や石はどれも大きすぎて、持ち上げることすらできねぇ。
それじゃあ当然、組み立てる手も発動しない。
かといって俺の手に合わせて小物を作っても、使い道がねぇだろ?
試しに石のナイフを作ってみたけど、どう見ても俺専用だった。
「つまり答えは1つだな。組み立てる手は欠乏と結合で体を共有しながら使うのが正解だ」
「そうみたいね。試してみる?」
「あぁ。まずはダグ、頼む」
「うん!」
「あの……体を共有するってどういうことなんですか?」
「えっとですね、ルースは欠乏と結合という力を使うことで、私とかダグと意識を共有したり、色んな力を共有したりできるんです」
「説明より体験だな。ライラもあとでやってみようぜ」
「そうね」
「楽しみです!」
胸の前で手を合わせ、朗らかに笑うライラ。
出会ったときから思ってたが、随分と好奇心旺盛だ。
楽しみをひとつ渡せるのは悪くねぇ。けど今は優先すべき実験がある。
俺は欠乏と結合を発動し、ダグの身体で組み立てる手を試した。
足元の石を拾い上げると、やはり文字が浮かぶ。
『おいダグ、見えてるよな?』
「うん、見えてるよ! これが組み立てる手なんだね」
石の上に現れた二つの選択肢。『削る』『割る』。
削るを指で触れた途端、手が勝手に動き出した。
違いは、ダグの腕を使っている分、大きな石を研げること。
さらに、近くの砥石を拾って作業できる点だな。
「おぉ……」
『どうだダグ。便利か?』
「う~ん。手が勝手に動くから、ちょっと変な気分」
「もしかして、痛かったりするの?」
「ううん。痛くはないよ。でも、なんか、変なんだ」
「どういうこと?」
『自分の身体なのにいうことを聞いてくれないのは、あんまり気持ちよくはねぇよな。よしダグ、この石を削り終えたらイザベラと交代だ!』
「イザベラ、ルースが交代だって」
「え? 私もやるの? ちょっと気が進まないんだけど」
嫌がるイザベラにも試してもらった。効果に個人差があるか確かめるためだ。
結局、違いはなかったけどな。
こうして石のナイフを作りながら分かったことは――
・一度に作れるものは1つまで。
・任意のタイミングで中断可能。
・材料に応じて作業の選択肢が提示される。
まだ未知の要素はあるかもしれねぇが、ひとまずは十分だ。
次に組み合わせる手を試す。
これがまた妙な力でな。
例えば、その辺の石を2つ持ってきて組み合わせる手を発動すると、練り合わせてペースト状に変化させることができたり。
木の枝を液体に変えることができたりする。
意味不明だが確かに「新しい素材を生み出す」力だった。
最後に仕組みの手。
発動はするのに何も起こらない。石でも木でも、ナイフでもダメだ。
きっとまだ条件が足りねぇんだろう。
結局すべてを調べきれず、日が暮れかけたところで区切りをつけた。
「よし、それじゃあライラ。お待ちかねだな」
「本当に待ちました! さあ、私とユニオンラックしてください!」
期待に満ちた目で待たれると、逆に照れるぜ。
俺は彼女と意識を共有した。
瞬間、真っ暗闇。
予想はしていたが、ライラは本当に目が見えない。
だがその代わり、風の音やクゥの温もりなど、視覚以外の感覚が鋭く迫ってくる。
不思議な気分に包まれていると、ライラがため息をついた。
「はぁ……残念です。少しだけでも見えるかもと期待していたのですが」
やっぱりそう思っていたんだな。
生まれてからずっと闇の中なんだ。願わずにいられねぇだろう。
……でもよ。
『落ち込むのはまだ早いぜ、ライラ』
「へぁっ!? 頭の中から声が!?」
「ちょっとルース、驚かせたんじゃないでしょうね!」
『違うって! 今のは俺だ!』
「あぁ……ルース様でしたか。驚きましたが大丈夫です」
イザベラの不満げな顔が浮かぶが、今はそれどころじゃねぇ。
『ライラ、そろそろ共有にも慣れたか?』
「はい。不思議ですが賑やかで楽しいですね」
『なら次は――もっと大きな変化を体験してもらうぜ』
「まさか……」
『そのまさかだぜ!』
見通す瞳を発動。
その途端、俺は胸の内で高鳴る鼓動を感じたぜ。
誰の鼓動なのかなんて、説明するまでもないだろ?
深く分厚い真っ暗闇が瞬く間に貫かれ、俺の前に―――いや、ライラの目の前に眩しい世界が広がった。
「あっ……」
「ライラさん? 見えてますか? 私がイザベラです」
「オイラがダグだよ!」
「イザベラ様に、ダグ様……それに、クゥ?」
『そうだぜ。ほら、他の奴らもいるぞ』
ライラは震える足で一歩を踏み出した。
「こ、こんなことが……本当に。本当に、起きるなんて……」
「ライラ、大丈夫?」
「ダグ、ライラさんは嬉しくて泣いちゃってるだけだから。大丈夫よ」
「じゃあどうしてイザベラも泣いてるの?」
「私は、ほら、感動しちゃったからよ」
「ルース様。イザベラ様。ダグ様。本当にありがとうございます。こんなに嬉しいのは、初めてです!」
『喜んでもらえたみたいでよかったぜ』
涙をぬぐいながら頭を深々と下げるライラ。
彼女からは色々と教えてもらったからな。そのお返しだぜ。
正直、返しすぎな気もするけど。
さすがの俺も、ここで「貸しだぜ」なんて言えねぇよ。
1つだけ残念なことがあるとすれば、俺だけは彼女に姿を見せることができないってことくらいか。
それから俺たちは、いつもよりゆっくりと歩くライラに連れ立って、彼女の家に帰った。
1歩1歩踏みしめて、森の中を進む。
無数に重ねてきたはずの1歩が、今日はやけに重たく感じたぜ。
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