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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
2章:埋め尽くす者

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第35話 生き延びるに値する

 ライラへの自己紹介を終えた俺たちは、彼女の部屋に戻った。

 もっとも、そこは俺が目を覚ました部屋でもある。


 だが、何度見ても殺風景だ。家具らしい家具はなく、床と壁と天井が木目に覆われているだけ。ここで本当に暮らしているのかと、思わず問い詰めたくなるほどだ。


 ライラが部屋の中央に腰を下ろそうとした瞬間、薄緑色の鳥がササッと駆け寄り、丸い身体で椅子代わりになった。


「ありがとう、クゥ」

「クェッ!」

「仲が良いんですね」

「えぇ。この子達は生まれた時からの付き合いですから。ふふっ。可愛いでしょ?」

「はい。その子はクゥって名前なんですか?」

「うん。この子はクゥ。ほらここ、翼の付け根にコブがあるんです。ここをさすってあげるとね」

「クゥゥゥゥゥ……!」


 鳥は恍惚とした表情で目を細めた。


「ね、気持ちよさそうでしょう。それでクゥ」


 まさに名は体を表すってやつだな。さっきまで囚われていた鳥とは思えないほど、リラックスしてやがる。椅子にされているはずなのに、不思議と幸せそうだ。


「無事に帰ってこれてよかったなクゥ」

「クェェ」

「本当に! 私、心配してたんだからね。皆さん、助けてくれてホントにありがとうございます」

「役に立てたなら、オイラたちも嬉しい!」

「そうね。それに、こうしてライラさんとも出会えたから。私達にとっても良かったですよ」

「あら、そうなのですか?」


 不思議そうに小首を傾げるライラ。俺たちは一度視線を交わし合い、意を決して切り出した。


「ライラさん。実は私達、隣の大陸から洞窟を抜けてやって来たんです」

「隣の大陸から? まあ……」

「そうなんだ。あっちは地表を焼くソヴリンが支配しててな。だからこそ、こっちに来て驚いたぜ。これだけ豊かな緑が広がってるなんてな」

「そうだったのですね。この大陸のソヴリンとはずいぶんと違うようで、正直、想像もつきません。きっと、私は生きていけないような世界なのでしょう」


 盲目の彼女にとっては、確かに過酷すぎる環境だろう。むしろ、この大陸だからこそ生き延びられたのかもしれない。


「ということはイザベラ様たちもソヴリンから逃れるために、こちらの大陸にやって来たのですね?」

「う~ん。それはどうなのかな」


 おい、イザベラ。含みのある言い方をするなよ。案の定、ライラが首を傾げたじゃねぇか。


「逃れるためではない、と?」


 どう説明するべきか、俺とイザベラが迷ったその瞬間―――。


「オイラたちね! ソヴリンを倒したんだよ!!」

「まぁ!? ソヴリンを!? それは本当なのですか?」

「ま、まぁ、本当だけどさ」

「……そうね。隠しても仕方がないし、彼女には教えてもいいんじゃないかな。ルース」

「だな。助けてもらった恩もあるし、情報が欲しい以上、話さないわけにもいかねぇか」


 俺の言葉を確認したイザベラは、丁寧に経緯を語り始めた。

 ライラは穏やかな顔で耳を傾けている。俺たちが心配していたような反発はなさそうだ。


 そう――心配だったのは、ソヴリンへの反抗を「迷惑行為」だと責められることだ。

 多くの人間にとって、ソヴリンと戦うのは火種を撒く行為にすぎない。静かに隠れて生き延びる方が現実的だ。だからこそ、挑んできた者は孤立し、失敗を繰り返してきた。


 けど、俺たちは違う。人数も三人揃った。ナビゲーターの俺、魔術師のイザベラ、身体能力に優れるダグ。個人じゃ無理だったことも、チームになれば成せることがある。


 だからこそ、スザクを倒せた。


 そしてこの森に一人で住んでいるライラ。

 果たして彼女は腹に野望を抱いた末の孤立なのか、はたまた、除け者にされただけの孤独なのか。

 この後の反応で分かるだろう。


「魔術を使えるイザベラ様に、身体能力の優れたダグ様。それから、ナビゲーターのルース様。お話を伺った限り、皆さんはとても優れた力をお持ちのようです」

「そうだよ! オイラたちはチームだからね」

「ですがおそらく、皆様ではセイリュウに打ち勝つことはできないでしょう」


 冷ややかな一言に、イザベラがふっと息を吐き、俺に目配せした。

 彼女の腹には野望はない。ここで深入りするのは危険だ、と言いたいんだろう。俺も同感だった。


「なんでそう思うの?」

「敵が強大すぎるからですよ」

「オイラたち、でっかい鳥も倒したんだよ?」

「セイリュウはさらに巨大なのです」


 ダグの必死の抗議も、軽くいなされる。


「どうして分かるの? お姉さん、目が見えてないんでしょ?」

「ちょ、ダグ! そんなこと言っちゃ―――」

「大丈夫ですよイザベラ様。事実ですので」


 ライラは柔らかく笑みを浮かべた。


「それに、お二人は誤解をされているようですね」

「誤解? そりゃ何の話だ?」

「私が『勝てない』と口にした途端、落胆しましたね。違いますか?」

「それは……」

「クゥの翼が二度震えましたので、間違いありません」


 完全に見抜かれてるじゃねぇか。


「だからお二人はこう考えたはず。『彼女には協力の意志がない。ならば他を探そう』と」

「……」

「心を読んでいるわけではありませんよ? ただ、長年暗闇の中で生き、物言わぬ仲間の気持ちを察する術を磨いただけです」


 察知能力がk質がいだ。やっぱり、彼女はただの女性ってわけじゃなさそうだな。

 生き延びるに値するだけの何かがある。


 そんな俺の考えを証明するかのように、ライラが言葉を続ける。


「私以外の協力者は、存在しえません。これが、お二人の抱いている誤解です」

「それは、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味です」


 言いながらライラは静かに立ち上がり、右手を前に差し出した。

 すると、彼女の足元から新芽が伸び、みるみるうちに部屋の中に緑が溢れだす。


「おいおい! こりゃどういうことだ!?」

「すごい!」

「植物を操ってるの!?」

「はい。植物であれば、思い通りに操ることができます。そして、この力を幼い頃から使っていました」

「マジかよ。これはあれか? 魔術の一種か?」

「いいえ。違いますよ」


 ライラの瞳が静かに揺れる。


「この力は、ソヴリン……セイリュウによってもたらされた力。この大陸に生きるすべての生物は、セイリュウの影響下にあるのです」

「すべての、生物が……!?」


 衝撃の言葉に、俺は言葉を失った。

 植物だけじゃない。動物も、人間も、この大陸に存在する命すべてがソヴリンの影響下。


 それは、俺たちも例外じゃないのか―――?


 疑問は尽きない。だが一つだけ確かなのは、ライラからまだまだ聞くべきことが山ほどあるってことだ。

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