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ドンゾコナビ ~滅びの世界で少女導く~  作者: 内村一樹
2章:埋め尽くす者

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第34話 彼女の瞳

「なぁ、1つ疑問なんだけどよ。もう少し穏やかなタイミングで扉を出せないのか?」

「そうしたいのは山々なのですが、やはり扉を開ける前にノックしていただきたいので」

「ノックは手でするもんだろ!? 扉に顔面から突っ込むことをノックとは言わねぇぞ!!」

「ふふふ。面白い表現ですね」

「面白くねぇよ!!」


 ったく……。この調子じゃ、今後もずっと顔面ノック確定じゃねぇか。

 鼻をさすりつつ、俺は白い靄で満ちた空間を見渡す。


 久々に来たけど、ここがどこなのかは相変わらず不明だ。

 見物する瞳(スペクテイター)も機能しないし。そう簡単に情報は渡さねぇってことなんだろうな。


「んで。今回は何の用だ?」

「そうですね。無事に東の大陸に上陸できたみたいなので、まずはご褒美を差し上げようかと」

「ご褒美。ってことはつまり、文様をくれるってことか」

「その通りです」


 声と同時に、俺の前に三つの幻影が浮かんだ。

 翼、爪、そして――新しく追加された『手』。


「この『手』は、どんな力なんだ?」

「そちらは、ある程度の物であれば組み立てられるようになる器用な手です」

「器用な手、ねぇ……」


 遠回しな言い方だな。

 たしか、見物する瞳(スペクテイター)も“望むものを見つけやすくなる”なんて曖昧な説明だった。


 同じパターンか。まあ、使い方次第では化けるかもな。


 爪はナイフで代用できる。翼は喉から手が出るほど欲しい。

 だが、ナビゲーターとして仲間を支えるなら――。


「よしっ決めた。今回は手をもらうぜ!」

「……本当に、こちらでよかったのですか?」

「な、なんだよ。ダメだって言いてぇのか?」

「いいえ? そのようなことはないですよ」

「ちょっと待ってくれ。もう少し悩んで―――」

「申し訳ないのですが、あまり時間をかけられませんので。『手』ですね。どうぞお受け取りを」

「おいっ!? 待てって!」

「それではルースさん。引き続きよろしくお願いしますね」


 くそっ!

 フフフって小さな笑い声を残してどっか行っちまったぜ。


 胸元から熱がじわりと広がり、左手に収束していく。

 心地よさに意識が沈みかけたとき――。


「ルース!!」

「んぁ……もう出発の時間か?」

「ルース! 目が覚めた!?」


 ぼやけた視界の向こうで、ダグとイザベラが覗き込んでいた。

 二人の顔を見て、ようやく意識が現実に戻る。


「お、おう。悪い、ちょっと気を失ってたぜ」

「“ちょっと”で済まないわよ」

「ルース。全然反応しないから、死んだって思った」

「心配かけたな。体はピンピンしてる。……で、ここはどこだ?」


 周囲を見渡す。岩じゃなく木でできた天井と壁。洞窟じゃねぇな。部屋っぽい。


「アンタが気を失ってる間にね、あの子たちの飼い主さんにお世話になったの」

「……飼い主!? ってことは―――」

「人がいたんだよっ!」

「マジか!?」


 信じられねぇ。

 猫と鳥を従えてる人間が、この森に?


「そういえば、あの化け物はどうなったんだ?」

「あいつなら逃げてったわよ。それよりルース。動けるなら彼女に会ってほしいんだけど」

「彼女? ってつまり、飼い主さんのことか」

「うん」

「分かった。ちゃんと礼を伝えないとな!」


 本音を言えば新しく手に入った文様のことを調べたいけどな。

 助けてもらったってことなら、礼を言うのが先だろ。

 それに、純粋に気になるぜ。


 この森で生きてる人間だ。

 きっと、類稀たぐいまれなる知識や経験でたくましく生きてるに違いねぇ。

 そしてソヴリンについても知ってるかもしれねぇからな。


 イザベラの頭に飛び乗った俺は、彼女たちに連れられる形でその部屋を出た。


 ここは……もしかして巨大な木のうろなのか?

 だから、壁も天井も床も、全部が木なんだな。


 そんなことに感心をしていると、イザベラは木の洞から出ちまったよ。

 鬱蒼うっそうと茂ってる枝葉で作られた道を歩くこと数分ってところか。

 やけに見晴らしのいい場所にたどり着いたところで、俺はその女性を見つけたんだ。


 緑の髪が足元まで流れる、二十歳前後の女性。

 穏やかな表情で景色を眺めている彼女は、こちらに気付いて振り返った。


「おや? もしかして、目を覚まされたのですか?」

「はい。おかげで無事のようです。ありがとうございました」

「それは嬉しいことでございますね! 今日はお祝いの宴にいたしましょう! そうとなると、甘い蜜が食べたくなりますが……余っていましたっけ? ちょっと確認しなければなりませんねぇ。イザベラさん達は部屋に戻っていただいて―――」


 胸の前で手を合わせながら、嬉しそうに言葉を並べる女性。

 そんな彼女が俺たちに声をかけながら一歩を踏み出そうとした瞬間―――


「危ない!」

 イザベラが飛び出し、彼女を支えた。

 どうやら長い髪を踏んで転びかけたらしい。


 その拍子に俺は、女性の緑髪の中へ埋もれた。

 ふわりと花の香りが鼻をくすぐる。

 ……悪くねぇ。


「アンタ、早く出てきなさい」

「わりぃわりぃ。あまりに心地よくてな」


 イザベラに引き抜かれ、定位置に戻される。

 緑髪の彼女は申し訳なさそうに微笑んでるぜ。


 ん?

 なんだ、この違和感。


 彼女は間違いなく、俺を見てるはずだよな。

 でも、なんていうか。

 彼女の瞳が俺を捉えてないような……。


 そんな俺の違和感を証明するように、イザベラが口を開いた。


「ライラさん。今、私の頭の上にいる小さいのがルースです。このまま左手で触れてみてください」

「ルースさん。ですね。えっと、私の名前はライラです。よろしくお願いいたします」


 そういったライラは、イザベラの手に誘われた左手で俺の身体に触れてくる。


「お、俺はルースだ。よろしくな」

「まぁ! 本当に小さいのですね! 人間って、こんなに小さな方もいるのですか!?」

「いや、俺は人間じゃなくてだな」

「ということは、妖精さんなのでしょうか!? 私、妖精さんとお話しするのは初めてなのです!」


 こんなにまじまじと身体を触られると、動揺しちまうぜ。

 それに、ライラの目のことも、俺を動揺させる原因の一つだ。


 間違いない。

 彼女は目が見えてないんだ。

 それを知ってたから、イザベラはさっきライラを支えるために走ったんだな。


 嬉々として俺を撫でるライラ。だが、その手は余計なところまで――。


「お、おいっ! そこはやめろぉぉ!!」

「し、失礼しました! 他の子たちと比べて、どのくらい小さいのかと……」

「他の子たち!? まさか動物と比べたんじゃねぇだろな!」

「どうせ小さいんだから」

「イザベラ! 今サラッと馬鹿にしただろ!」

「事実でしょ」


 ぐぬぬ……言い返せねぇ。


「とりあえず、健康そうなのでよかったです」

「健康だよ! って言うか、そんなことわかるのかよ!」

「はい。いつも確認してますので」


 ライラは花のように微笑んだ。

 視えないはずの瞳なのに、不思議と優しさだけが真っすぐに伝わってくる。


 ―――この森で目が見えずに生き延びてきた女。

 ただ者じゃねぇ、はずなんだろうけど。そうは見えないところが興味をそそられるぜ。

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