第31話 嘆きの声
緑に埋め尽くされた洞窟は、俺が想像してた以上に手強かった。絡みつくツタや分厚い葉に道を塞がれて、まともに歩けやしねぇ。
イザベラとダグがナイフを持ってなかったら、間違いなく一歩も進めなかっただろうな。
けど、不便ばかりじゃない。植物に覆われてるってことは、それだけ食料が豊富だってことでもある。右を見りゃ木の実、左を見りゃ果実。
もはや見物する瞳すら必要ないくらい、簡単に見つかるぜ。
まぁ、食えるかどうかの判別は必要だったけどな。
そんな道中もダグやイザベラと欠乏と結合を繰り返してた俺は、程なくして新たな力を手に入れたぜ。
その名も、欠乏と結合:遠隔だ!
これが凄いんだぜ!
ダグやイザベラとある程度離れてても欠乏と結合できるんだからな!
こうやって何度も使ってるうちに力が成長していくのは、案外楽しいもんだ。
そんな調子だからか、長いはずの洞窟も、気づけばあっという間に過ぎ去ってた。以前なら閉塞感で気が狂いそうになってたのに……今は、ほんの少しだけ名残惜しいと思ってる自分がいるぜ。
そうして洞窟を抜けた俺たちがまず初めに目にしたのは、鬱蒼とした森だった。
「ホントに洞窟を抜けたんだよな? なんか、あんまり景色が変わってない気がするぜ」
「ちゃんと抜けてるはずよ。天井がないし、洞窟の中よりも植物が大きい気がするもの」
「ルース。変な気配がするよ」
ダグに促された俺は見通す瞳で周囲を警戒してみた。
こりゃ、すげぇな。
「気配がするのも当たり前だな。いたるところに生き物がいるぜ。ぱっと見で危ない感じなのは……左前方だな。それから……これはなんだ?」
「なにか見つけたの? ダグとユニオン・ラックしとかないで良い?」
「まだ大丈夫そうだぜ。でも初めて来た場所だからな。警戒して進もう」
「オイラ、前に行く!」
「頼んだぜダグ! イザベラは警戒を怠るなよ」
「分かってる」
ダグが先導してイザベラがそれに続く。
そんな彼女の頭の上で俺が周囲の警戒をする。
これが俺たちの探索方法だ。
ビビりだなんていうなよ?
危険を回避するためにはまず、いち早く危険を認識する必要があるからな。
俺たちはソヴリンを倒したわけだし、多少の相手ならなんとかできるはずだぜ。
ただそれは、ちゃんと対処できる準備ができてる場合の話さ。
「ところでルース。ここのソヴリンってどんな奴なのかな?」
「ん~。正直なことを言えば、俺もしらねぇんだよなぁ。これだけ大量の植物を生み出した奴だって考えるなら、でっかい木なんじゃねぇか?」
「木って、どうやって倒せばいいのかな?」
「そりゃ、切り倒せばいいんだろ」
「それでホントに倒せればいいけど」
そういうイザベラの視線が、足元に注がれた。
どうやら、ダグが切り開いたツタの切れ端を見てるらしい。
ナイフでボロボロに切り裂かれたツタ。
本来なら、切断面から液を垂らしながら転がってるのが普通だろ?
ところが、ここの植物は普通じゃないんだぜ。
実は洞窟の中の森で気づいたんだけどな。
ナイフで切り裂かれたツタは緑色の液を垂らしながら地面を転がったかと思うと、新たな根を生やし始めるんだ。
マジで異常だぜ。
「……安全な場所なんて無いかもしれねぇな」
「いまさら気づいたの? それより、ちゃんと集中してよね」
「分かってるさ」
それからしばらく無言で歩き続けた。
だが進んでも進んでも景色は変わらず、気が滅入りそうになってきたぜ。
道らしい道もないからな、歩みが遅くなっちまう。
仕方がないから、俺たちはその場で休憩を取ることにしたんだ。
石に腰掛けたダグとイザベラ。
ダグはまだまだ元気があるみたいだが、イザベラは……。
「もう無理。歩けない……」
「イザベラ、全然体力ないよね」
「ダグが体力ありすぎなんだよ。こう見えてもイザベラは、逃げ足だけは速いんだからな」
「ちょっと……っ。あぁ、もうっ! 文句を言う元気もないわ」
俺に対する文句をやめるなんて、よっぽど疲れてるな。
仕方ねぇなぁ、今は大人しく休ませておいてやろう。
休憩の間も警戒を怠るわけにはいかないし。
ん?
ダグがその辺の石を拾い集め始めたぞ?
「ダグ? 何してるんだ?」
「ん。ナイフがボロボロになったから、石で研ごうかなって」
「まさか、手入れまでできるのか!? お前、器用すぎるだろ」
「へへん。オイラ、器用だからな!」
「……だったら、私のもお願いできる? ダグ」
「うん! 任せて!」
カリカリと小気味の良い音が森に響き始めた。
俺はダグの頭に移動して、その作業を眺めながら周囲を見張った。俺がイザベラの頭に乗ってたんじゃ、休めねぇだろうからな。
しばらくしてナイフが研ぎ直され、そろそろ休憩も終わりって頃。
俺は石に突っ伏して眠っているイザベラの足に緑のツタが巻きついていることに気が付いたんだぜ!
「イザベラ!!」
起きろ! と俺が叫ぶより先に、甲高い悲鳴が森に響き渡った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ―――!!」
「イザベラッ! ダグ! 追うぞ!!」
「うん!!」
ものすごい勢いで足から引っ張られたイザベラが、森の奥に消えていく!
普通なら、この時点で彼女を見失ってたところだぜ。
だけど俺には、瞳があるからな。
すぐに駆けだしたダグに掴まりつつ、見通す瞳で森の中を捜索した俺は、すぐに彼女を見つけることができた。
「なんで私ばっかり、こんな目に遭うのよぉ!!」
そんな嘆きの声を漏らしてるイザベラは、背の高い木の枝から宙づりにされてるぜ。
こう見ると、アラクネの巣のことを思い出すな。
「ダグ、いけるか?」
「大丈夫!」
「念のために欠乏と結合しとくぜ!」
枝までたどり着いた俺たちは、ツタごとイザベラを引き上げる。切り落としたら危険すぎるからな。氷の壁を階段みたいに作れば、安全に降ろせるはず――と思ったその時。
上方に、別の影を見つけた。
『ダグ、あれを見てくれ!』
「上……っ!? イザベラ! 上! 上!」
「私は今それどころじゃ……痛っ!」
「ルースが見ろって言ってるよ!」
「なんなのよ……」
ダグの言葉に渋々上を見上げたイザベラが、ぽつりと声を漏らす。
「鳥?」
『ダグ、イザベラに伝えろ。普通の鳥が服を着てると思うか? ってな』
「ホントだ! 服を着てる鳥だ!!」
気づいてなかったのかよ……。
まぁいい。
取りあえず、イザベラにも伝わったみたいだからな。
「もしかして、人間がいるのかな?」
少し考えこんだ末に、彼女はそう呟いた。
奇遇だなイザベラ。
俺も同じことを考えたぜ。
まぁ、そう考えるのは当然か。
薄緑色の大きな鳥が、サイズの合ってない袖なしの服を纏ってるんだからな。
ツタで拘束されたまま、枝から吊られてる鳥。
そんな鳥と目が合った気がするんだが、気のせいだろうか?
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